二十二話 クルセイドちゃんの涙
「おおっと!?これはどういう事だ!?
たった今、オヅカの攻撃により倒れたはずの挑戦者達が突如として息を吹き返しました!!
そしてまた、ドラゴン進とスマホクラフターに向けて前進を始めております!!その様はまるでアンデットやゾンビのようだ!!
クルセイドちゃん!!経験豊富な貴女なら、何かこれについてご存知ではありませんか!?」
「ええと……す、すみません。
よくある火や水などの属性魔法ならともかく、毒魔法については私もあまり詳しくはなくて……」
『では、私から説明致しましょう。
挑戦者達があのような状態となったのは、言うまでもなく先程『オヅカ』氏が放った魔法、『操りの魔毒』によるものです。
あれは身に受けた際は当然として、霧状の毒を吸い込んだ場合も内側から毒によるダメージを受けます。
とは言え、そこまでは通常の攻撃魔法と何ら変わりはありません。被弾した箇所が異なるだけで、『ダメージを受けている』という点では全く同じなのですから。
しかし、それで相手が瀕死となった場合は話が別です。
力を失った本人に代わり、内部に残った魔法が肉体の主導権を握ってしまうのです。
……以上が、検索した結果による私なりの答えです。
まあ、大体は当たっているはずなのでご安心下さい。
どうでしょう?
これで納得して頂けましたでしょうか?』
「おお!!流石はスマホクラフターの相棒!!
分かりやすい説明ありがとうございました!!
ところでクルセイドちゃん、前々から気になっていたのですが……それを持っているという事は、やはりお二人って」
「だから違います!!」
▽
「……まあ、これにはそんなカラクリがあったって言う訳なのさ。これで分かってもらえたかい?」
勝利を確信しているのだろう。
オヅカは長々と、しかも相も変わらず上機嫌な様子で、自身の魔法の真相を俺達に明かした後。
実に堂々とした所謂、『ドヤ顔』をこちらへと向けて見せた。当然の如く溢した白い歯と共に。
「……」
「……」
だがそれでも、俺達は何も言えなかった。
何一つ返答が出来なかったのだ。
理由は勿論、俺達はそれを知ったとて『この短時間にまともな対処法を編み出す事は到底不可能』、だからだ。
要するに、敵に返す台詞を考える程の余裕を、今の俺達は持ち合わせてなどいなかったのである。
「おや、ダンマリかい。
まあでも、そりゃそうもなるだろうねぇ。
分かった所で、君達にはどうする事も出来ないんだしさぁ……んじゃ、そろそろお仕舞いにしようか。
あんまり長く話していて、また石ころでも投げられちゃあ堪ったもんじゃないからねぇ!!」
やはりと言うべきか、オヅカもその事には気が付いていたようだ。
「さあ行きなゾンビ共!!アイツらを袋叩きにしろ!!そのトロい動きで、たっぷりと恐怖を植え付けた上でなぁ!!」
奴は口元を綻ばせつつ最後にそう言うと、ゾンビと化した挑戦者達へと遂に総攻撃を命令した。
すると、途端に彼等の動きが先程の『無造作』や『無秩序』と言ったものから。
やや迅速に、かつやや統一性のあるものに変わった、ような気がした。
なるほど、オヅカが操っていると言うのはやはり本当の話だったようだな……まあ、例えそうでなくとも。
単なる集団から統率された軍団へと、姿を変えた彼等に突撃の指示が下された今。
いよいよ、俺達に悩んでいる時間は無くなったという事だ。
「く、来る!!……もうこうなったら仕方ないな!!
片っ端から攻撃しまくって、数を減らすしかない!!
ドラゴン進!!サポートを頼む!!
俺はまたここから石を……って。
お、おい!!何やってんだよ!?
そんなに前に出られたら狙いが定まらないだろ!?
とにかく一旦、ゴブリン達と一緒に退がってくれ!!」
「無理だ!!見て分からねのか!?
俺とゴブリン達を合わせても、倍以上いる奴等の相手をしなきゃならねえんだぞ!?
だったら後退なんかしてられねえだろう!?
もたもたしてたらそのまま押し込まれる!!
まあ、安全圏からならいくらでも言えるだろうけどなあ!!」
「な……なんだと!?お前は本当に、いつもいつも好き勝手言いやがって!!そんなつもりで言った訳じゃない事くらいお前だって分かるだろ!?」
「うるせえ!!ごちゃごちゃ言うな!!
とにかく、無理はもんは無理なんだよ!!」
だと言うのに、俺達の協調性は全くの皆無。
今思えばあの時は、目前の有様を見て焦り、苛立ち。
そして、半ばパニックにも近い状態となっていたのだろうが……だとしても、だ。
危機的状況にも関わらず、それに関してはゾンビ軍団よりも劣るという醜態を晒してしまった事は、紛れもない事実であった。
……いや。
だからこそ、それが露見した。
と言うのが正しいだろうか。
何せ、『俺達のチームワークの悪さ』は前々からの課題だったのだからな……
▽
「お、おおっと!?
お互い焦るあまり感情的となっているのでしょうか!?
多勢に無勢のこの状況で、ドラゴン進とスマホクラフターはあろう事か口論を始めてしまったようです!!
そんな調子でオヅカを倒せるのでしょうか!?
クルセイドちゃんはこれについてどう思われますか!?」
「……………………」
「あれ?ク、クルセイドちゃん……?」
▽
そんな時だった。
互いに譲らず、醜く言い争い続ける俺達へと。
愚かな二人を諌めるため、神の怒りが如く突如として天から雷が落とされたのは。
……いや失敬。
より正確に言えば、それは解説席からである。
「二人共!!いい加減にしなさい!!」
そして、その声の主はクルセイドちゃんだ。
「えっ!?」
「クルセイドちゃん!?」
「ク、クルセイドちゃん!?
きゅ、急にど、どうされたんですか!?」
『……!?』
まさか、彼女の怒鳴り声を聞く事になるだなんて……初体験かつ、全くもって予想外でもあった。
勿論、それによって酷く驚いたのは俺一人ではなかったらしく。他にはドラゴン進、彼女の隣の解説役、リン等々。
「い、今叫んだのはクルセイドちゃんか……!?」
いや……訂正しよう、まだまだいた。
そうしてオヅカと〝元〟挑戦者達も含む、大量の人間と一つの無機物とが。
彼女の迫力、それと驚愕によって今や完全に沈黙させられてしまっていた。
「スマホ……いいえ、大吾さん!!
それとドラゴン進さんも!!」
「は、はい!!」
「え?お、俺も……?」
「良いですか二人共、よく聞いて下さい!!」
しかしクルセイドちゃんの勢いは止まらず。
次に彼女は、そう名指しした上で俺とドラゴン進を真っ直ぐに見つめると、口早くこう語り出した。
「貴方達は何をしにここに来たんですか!?
そうやって口喧嘩をするためですか!?
互いを罵り合うためですか!?
……違うでしょう!?
事情は色々あるとしても、今は優勝を勝ち取るためお二人はここに立っているんですよね!?
私もリンちゃんから聞いて知っています!!
この日のために毎日毎日特訓していたんですよね!?
今日まで……いえ、今日も!!朝早くからしっかりと準備してきたんですよね!?
言い争うのは今日に限った話ではないようですけど、それでも!!一生懸命これまで頑張ってきたんですよね!?
なら、そんな事をしている場合じゃないでしょう!?
いい加減目を覚まして下さい!!
私は……私は!!
今の貴方達を応援しに来たのではありません!!
どんな困難にも協力して立ち向かい、二人三脚で優勝を目指すドラゴン進さんと大吾さんを見るため私はここにいるんです!!
〝そんなお二人を私は応援しに来たんです〟!!」
その、直後だった。
胸の内全てを言の葉として曝け出したクルセイドちゃん。
彼女の頬を、一筋の雫が伝い落ちたのは。
「ク、クルセイドちゃん……」
…………そうか。
彼女が柄にも無く声を張り上げたのは、俺達に活を入れるという、それだけが目的であった。
しかし、それにはどれ程の勇気が必要だっただろうか。
公衆の面前、羞恥心等々、障害は様々ある。
しかも心優しい彼女の事だ、きっとかなりの覚悟だって必要だったであろう。
だがそれでも、クルセイドちゃんは言ってくれた。
俺達を思い、俺達のために……
いや、俺達だけを想うただその一心でだ。
ならば俺達だって、そんな彼女のために動かねばならないだろう。
こうしていつまでも、醜態を晒している訳にはいかないじゃないか。
遅まきながらも、漸くそう気付かされてしまった俺は今からでも心を改めて事に挑むべく。
そして、ドラゴン進にもそれを伝えるべく、奴に語り掛けようと口を開いた……が。
どうやら、その必要は無かったようだ。
▽
「おい、スマホクラフター…………すまなかった。
俺も、もう少し冷静になるべきだったな。
次からは気を付ける」
先に発したのは奴の方だった。
しかもそうして飛び出したのは、まさかの『謝罪の言葉』である。
これには流石の俺も、空いた口が塞がらなかった。
そう、先程開いたままの、この我が口がだ。
「え、えっ!?
……い、いや!それなら俺だって」
だが、徐々に気持ちが落ち着くにつれ。
今までの行いを顧み、反省すべきだと考えた俺もまた謝罪しようとはしたものの……
「いや、良い。良いんだよ別に。
だから、どっちが悪いだ何だってのはもうよそうぜ?
俺達は両方冷静じゃなかった。それで良いだろう?」
それを、奴は不必要だと語った。
いつもならばまるで物をねだる子供が如く、自ら進んで謝罪を要求するはずの、あのドラゴン進が……
「…….それより、だ。
ここからは心機一転、クールにいこうじゃねえか。
お互いに全力で片方のために動いて、その代わりもう片方は絶対に自分の役割を全うする。
それくらいの気概で、俺は俺のやるべき事をやって、お前はお前の出来る事をやるんだ。
まあ要するに、俺は今からお前に命を預けるって事だ。
だからお前も、そのつもりでいてくれ」
最後にそう言うと、ドラゴン進は俺に熱い視線を向けた。
それだけで分かった、奴の……
いや、彼の胸に秘めた想いの全てが。
確かに、彼は口調こそ普段通りであった。
では、あった……のだが。
その目には、そしてその姿には。
クルセイドちゃんと同様、覚悟が垣間見えた。
ならば、そこから導き出される答えは一つ。
それは……コイツも、本気になったという事だ。
今のドラゴン進と視線を交わしたからこそ、今の俺にはそう断言出来る。
いや、例えそれが誤りであったとしても、俺は自らを責める事は決して無いだろう。
何せ、そんな間違いなど今日に限っては絶対に有り得ないのだから。
「これで、俺の話は終わりだ。
じゃ、そろそろ始めっか!!
ス…………大吾!!
クルセイドちゃんを泣かせちまったお詫びに、優勝トロフィーを持ち帰ってやろうぜ!!」
「まだ宝箱の中身がトロフィーだって決まった訳じゃないぞ……でも、お前にしては良い事言うじゃないかドラゴン進!!
いや……進!!」
「おい!!お前まで〝そっち〟に寄せなくて良いんだよ!!恥ずかしいから下の名前で呼ぶのは止めろ!!」
とにかく、こうして俺達は再始動したのだ。




