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一話 覚醒、[クラフター]改め[スマホクラフター]

俺のスマホが突然、声を発したかと思うと。

今度はまた唐突な事にも、その身を輝かせ始めた。


「うわっ!?な、何だ……!?」



─────


[クラフター]覚醒

上級職『スマホクラフター』


─────



『ご主人、これで分かったでしょう?


アナタ様はたった今、ダンジョン突入前かつ探索未経験であるにも関わらず、上級職となったのです。


それはダンジョン攻略において、今までのどんな先人達よりもずっと先んじているのですよ?


だからそれ以上悲しまないで下さい、ご主人』


……女性の、声だ。


理解が追い付いていないにも関わらず、またスマホが女性のものであろう声で俺に向けそう言う。


だが当然、返事など出来なかった。


「ス、スマホ、クラフター……?」


いや訂正しよう、声は出た。


ただしそれは、驚きのあまりに図らずもではあったが。


『その通りです。

ご主人は普段より就業時、睡眠時以外はほぼ私を操作し続けていましたから、むしろこの結果は必然と言えるでしょう』


すると、そんな俺に反応してかスマホがまた喋り出した。


未ださっぱりだが、ともかく。


どうやらこの無機物によると、クラフターの俺は日頃からスマホを弄り過ぎていたために上級職へとランクアップしたのだという事らしい。


まあ事実として、最近ではテレビも付けず専らそればかりの日々を送っていたのだから、納得出来ると言えばそうだ。


とはいえ、その職がどう言ったものなのか。

そう成れたからと言って、『スマホクラフター』なる職業は俺に何を齎すのか。


依然として分からない事だらけではあったのだが。


『……それよりご主人。さあ、今すぐに水分を補給し、なるべく沢山の睡眠を取って下さい』


だと言うのにスマホは依然として声を発し続け、今度は俺をより健康的な生活へ導こうとしているようだ。


『そうでないと明日のダンジョン探索に支障が出てしまいます、さあ今すぐ』


いや、違った。

それは明日に向けた準備に過ぎなかったらしい。


「え……ダンジョン?な、なんでそれを……?」


『何を今更、ご主人がそう話していたではありませんか。「冒険者、やってみるか」と』


「…………コ、コイツ」


俺の独り言、聞いていたのか。





─────

場所:都庁前

─────


『ご主人、最初のダンジョンは都庁前のものに致しましょう。


あのダンジョンは国の要所付近という事もあり、国が派遣した軍隊が何度も探索を行っています。


つまり、安全は既に確認されているという事です。

初挑戦のご主人にはぴったりですよ』


スマホが俺を〝ご主人〟と呼び、独りでに喋り出した。


そんな珍事件があったせいなのか、その後すっかりと酔いが覚めてしまった俺はひとまずスマホの指示通りに動き、そして翌日。


誘導されるがままに歩いて電車に乗り、気が付けば都庁前のダンジョンへとやって来ていた。


頼んでもいないのに検索するわ、俺の行動を決めるわで自分勝手な事極まりないこの無機物だが、その言い分だけは最もであったからだ。


それに何より、上級職となったらしき自身の実力を試したかったというのもある。


もう、今の俺に『逃げる』という選択肢は無かった。


─────

[ステータス]


佐藤大吾:職業『上級職:スマホクラフター』


HP 68/100

MP 0/0


状態『酒気帯び/睡眠不足』


[パラメータ](簡略)

ATK 10

DEF 10

INT 13

RES 8

AGI 13

LUK 10


Lv 1

EXP 0

─────


『ふむ、やはり昨夜飲酒した影響が今日にまで及んでいますね。既にHPが最大値から大きく減少しています。


ではご主人、今回の探索は戦闘を必要最低限に抑え、生活の安定のため採取をメインの目標としましょう。


それかダンジョン探索中の様子を配信し、そこで稼ぐというのも宜しいかと』


一方で、スマホは相も変わらずブツブツと呟き続け、今では俺に何の断りもなくメディカルチェックのような真似まで始めていた。


ステータス、パラメータなどと言って……ああ、なるほど、コイツ俺の能力を数値化しているのか。


にしても低いとは思うが、まあ始めたばかりなのだから仕方がない……仕方がない、とは思うが。


今この場には俺と無機物だけでなく、俺達と同様にダンジョン探索をするのだろう幾人かがいる。


要するに、俺が冒険者としてはヒヨッ子だとすぐに分かるような発言は控えて欲しかった。


あともう一つ、配信がどうだのと言うのも。


「お、おい!分かったからあんまりデカい声出さないでくれよ!初心者だってバレたら恥ずかしいだろ!」


『音量調整でしたら、画面左枠にあるボタンから可能です』


「違う、そう言う事じゃない!

あと配信とか軽々しく言うのも止めてくれ!


そりゃあどっちかって言えばやってみたくはあるけどさ、でもアカウントなんてまだ作ってもいないし。


それに、俺みたいな駆け出し冒険者の配信なんて誰も見るワケないだろうし……」


『なるほど、配信以前の問題でしたか。ふむ、確かに調べた所、アカウントはまだ未所持のようですね。


それでしたら……』


すると、その時。


「あ、あの」


俺とスマホが言い合いをする最中、いつの間にやら前方にいたある一人の剣士らしき女性冒険者に声を掛けられた。


俺よりも若いと見えるその女性冒険者だが、その装備は実に物々しい。


特に、背にした大剣などは歴戦の覇者が持つ業物わざものにすら見えた。


だが同時に、美しかった。


それは単に年齢や見た目の事を言っているのではなく、彼女の様子や姿形、全て含めての話だ。


すらりとしたその外見だけでもモデル級だと言うのに、その立ち居振る舞いはまるで騎士のようであり、つまりは高潔であったのだから。


「え?あ、はい?な、何か……?」


彼女の登場に、軽く驚きつつも何とか返事をしたものの、そこからは沈黙するしかなかった。声が出なかった。


何故ならば、目の前にいたその女性冒険者を俺は知っていたからだ。


一目で分かった。


彼女は剣士を生業とする冒険者であり配信者、名前は『クルセイドちゃん』だ。


勿論その名で活動しているというだけであり、本名はまた別に存在するはず。知りはしないが。


彼女は達人級の剣の使い手で、これまでに何度もダンジョンを探索し、そして踏破している。


またその人気もさる事ながら、実力も確かなものであり、今では有名企業や国から、直接ダンジョン関連の依頼を要請されるんだとか……と、まあ。


この俺ですらそれくらい普通に知っているし、クルセイドちゃんの配信だって勿論見た事がある。


それ程の有名人がここにいるのだ。

誰だって言葉が紡げず、立ち尽くしもするであろう。


だが、そんな彼女が俺に一体、何の用事があると言うのだろうか……?


「アナタ、ここにいると言う事は冒険者の方ですよね?それと、先程からずっとお一人で話していらっしゃるようですが、もしかしてかなり緊張されているのではないですか?


お見受けした所、失礼ながらまだ冒険者としてはビギナーのようですし……勿論、それがいけないというのではないのですよ、誰だって最初は初心者です。


しかし、そう言った時にこそ、落ち着いて物事を判断しなくてはなりません。ダンジョン内で魔物達は待ってくれませんから。


もしも自信がないのでしたら、日を改めるのも良いと思いますよ。


それか厳しい話にはなってしまいますが、『無理にダンジョン探索を仕事にしない』という選択だってあります。


ダンジョンとは想像よりも遥かに恐ろしい場所です。私も、他の冒険者達が命を落とすのを何度も見た事がありますから……失礼、話が長くなってしまいましたね。


私が言いたいのはそれだけです、では」


有名人を前に身構えていたが、クルセイドちゃんこと彼女はそう言い終えるとすぐに俺の目の前から立ち去るのだった。





『どうやら彼女、ただ単にご主人を心配して声を掛けて来ただけのようですね』


「ああ。しかもあの様子だと、頭の心配までしてただろうな、口に出さなかっただけで。


というか、あの人もダンジョンに行くのか……大丈夫かなぁ」


─────

[ステータス](検索結果による推定)


クルセイドちゃん:職業『上級職:ソードマスター』


HP 3000以上

MP 1000以上


[パラメータ](簡略:検索結果による推定)

ATK 300以上

DEF 250以上

INT ??? データ不足

RES ??? データ不足

AGI 300以上

LUK ??? データ不足


Lv 60〜70

─────


『ふむふむ……問題ありませんよご主人。


たった今検索してみた所、あの『クルセイドちゃん』氏はご主人とは比較にならない程、豊富な経験と実力のある冒険者のようですから。


まあ簡単に言えば、私達が彼女を気に掛ける必要は全く無いという事です』


「いや違うって!クルセイドちゃんくらいの有名人がここにいるって事は『このダンジョンに何か変化があったんじゃないかなぁ』って不安になったんだよ!」


『ご主人、このダンジョンは私のオススメですよ?何の抜かりもあるはずがないでしょう?


さあ、分かったらすぐに私達も探索へ向かいましょう』


「……本当に、大丈夫かなぁ」


何だか心配で堪らないが、とにかく。


こうして俺の初となるダンジョン探索は幕を開けた。

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