十八話 土部河御堂
顔はどちらかと言えば厳つく、身の丈は平均を超えると見た。
レイターにも負けぬ程の筋肉を纏った男の年齢は三十前後、まず半ばまでは行っていないだろうというくらいだろう。
また、銀色に輝く頭髪の長さは『ミディアムヘア』と言った所か。それを編み込みにし。
身に付けたるは指無しのグローブと、ハーフパンツのみというスタイル……それは己が身を武器とする証左である。
そして、そんな彼の名は『剛拳のドブ』こと土部河御堂。
ドラゴン進が最も警戒せねばならなぬと告げた男だ。
だがしかし、本来ならばそれは誤りである。
何故かと言うと、この土部河なる男は。
─────
[ステータス](検索結果による推定)
土部河御堂:職業『魔物使い』
HP 1800〜2200 前後
MP 1000〜1500 前後
[パラメータ](簡略:検索結果による推定)
ATK 130前後
DEF 100 前後
INT ??? データ不足
RES ??? データ不足
AGI 70〜90 前後
LUK ??? データ不足
Lv 35〜40
─────
……と、このように。
多く見積もったとてたかだかこの程度であり。
パラメータ、ステータスの数値だけで見れば、彼よりも高レベルかつ上級職のレイターの方が余程注意しなければならない存在であるのだ。
にも関わらず、どうしてこの男に対しては特に用心せねばならないのか……
とは、言ってみたものの。
至極当然ながら、そこにはしっかりとした理由がある。
まあ、すぐに見て取れるものとして。
奴は『職業が魔物使いであるにも関わらず、近接戦闘を好む』という、かなり異色な戦闘スタイルであるため。
その珍妙な遣様に踊らされぬよう、気を付けなければならない。
と、言うのもそうだが。
最も注意すべきはそこではない。
……これは以前、俺が話した内容の一部をそのまま抜き出したものだが。
『そのため企画と同様、荒々しいのは発案者も立案者もその周りも、そしてファン達も。
まあ要するに、皆が同じ穴の狢という事なのである』
そう……実は、あの土部河という配信者はだな。
配信で視聴者や他の冒険者の怒りを買うような発言を繰り返したり。他者と戦う企画では『勝てる相手』ばかりを選んだり。
にも関わらず、調子に乗っているような発言が目立つせいで度々コメント欄が荒れたりと……まあ、要するに。
奴はドラゴン進と同じく『迷惑系、炎上系』等に該当する人物らしいのだ。
つまり奴に近付く事自体、ただそれだけで『地雷原に飛び込む』も同義。
そこで一瞬でも妙な真似をすれば、たちまちのうちにSNS、コメント欄共に大炎上は免れないだろう。
そう、だから問題なのだ。
もし戦うとなった場合、どうすべきか。
いや、まずそもそもとして戦うべきか……
「まあ俺としちゃあ正直な話、今すぐ走って行ってアイツも一発ぶん殴ってやりたいくらいなんだがな……」
そう悩む俺とは裏腹に、ドラゴン進は戦いたくて仕方がないといった様子である。
と言うか今の呟きを聞くに、どうやら彼には他にも土部河に対して何やら思う所があるようだが……まあ、今は良い。
俺達に残された時間はあと僅かなのだから。
「……とにかく。
お互い、土部河には気を付けるとしよう。
さて、じゃあそろそろ俺達もあっちに行こうか。
いい加減動かないと、二人揃って棄権扱いにされちゃうかもしれないし」
「……ああ、そうだな。
それにここまで引っ張れたんなら上出来だ。
アイツらはもう、俺達の戦法が分かった所で対策する時間は無い……
行こうぜ、スマホクラフター」
という事で、俺達は漸くその一歩を踏み出した。
「……あ!スマホクラフターとドラゴン進だ!」
「やっと来たのか、アイツらのせいでなかなか始まらな……って」
「な、何だあれは……!?」
姿を現した途端に騒つき始める、他の挑戦者達の事など意にも介さず。
否、そう映るように演技しつつ。
▽
今の今まで気が付かなかったが。
挑戦者達のいる空間の手前側は解説席になっていたようだ。
なので当然、そこには司会進行役であろう人物と。
その横に、クルセイドちゃんの姿があった。
「……さあ、企画開始まであと僅かとなりました!
ちなみにクルセイドちゃんは、どのチームが優勝すると予想していますか?」
「そうですね。まあ実力だけで言えば、土部河さんとレイターさんのお二人が優勝候補の筆頭なのではないかと予想していますね。
ですが、今回私はドラゴン進さんとスマホクラフターさんのお二人を応援させて頂くつもりです」
そして、これもまた当たり前ではあるが。
二人は場を持たせるためであろう、まだ企画は始まっていないがあれこれと会話している。
「何と!皆さん聞きましたか!?
たった今、クルセイドちゃんの口から意外な二人の名前が飛び出しました!
ですがクルセイドちゃん、それはどうしてなのですか!?
ドラゴン進は相棒の紅丸を連れておらず、スマホクラフターの方も肝心なスマホの所持を禁止されているんですよ!?
なので会場でも、SNSでも、彼等は『今回、優勝から最も遠いチームなのでは』と言う声が目立っておりますが……も、もしかして。
クルセイドちゃん!!という事はやはり、貴女とスマホクラフターとの間に囁かれている、『例の噂』は本当なんですか!?」
「え、えぇ!?……ち、違います!!
そう言う訳じゃありません!!
確かにスマホクラフターさんと私との間には少し交流がありますけど、違いますから!!
……ま、まあ、理由としてそれが大きいのは間違いありません。
私情を持ち込んでしまって申し訳ないのですが。
正直に言うとこれは『私がそうしたい』というだけで、お二人を応援するそれ以上の訳は特にないんです。
私はこれまで、ドラゴン進さんの方は……ともかくとしても。
スマホクラフターさんが、この企画のためにどれだけ頑張って来たかを知っていますから。
ただ、お二人の姿が見えない事が少し心配ですが…………あ!!」
「お、あれは間違いなくドラゴン進とスマホクラフター!!良かったですねクルセイドちゃん!!
さあ!!漸くドラゴン進とスマホクラフターの二名が現れ、挑戦者全員が揃ったようです……って。
こ、これはどういう事でしょうか!?」
だがその時。
今の今まで朱に染まっていたクルセイドちゃんの顔には疑問符が浮かび。
解説の男はまるでその役目を放棄したかのように、唐突にもそこで喋るのを止めた。
「!?……ね、ねえリンちゃん?
大吾さん達、どうしちゃったのかな?
何だか、さっき会った時と大分様子が違うみたいだけど……!?」
『ええ、ですが『クルセイドちゃん』氏。
これは全て予定通りであり、むしろ必然なのです。
……お二人共、なんだかんだと言いつつもしっかりとこの日のために準備して来ましたからね。
さあ、ご主人、『ドラゴン進』氏。
私はここから見ている事しか出来なくなりましたが、いよいよ開幕ですよ。
精一杯、頑張って下さいね。
そして、どちらも無事に戻って来るのですよ』
その最中、解説席のマイクに入り込んだ三人目の声。
もといリンの声を聞き、俺とドラゴン進はそちらへと見えるよう、天高く拳を掲げる。
『大丈夫だリン、俺達はちゃんとお前と一緒に立てた作戦通りに動いているぞ』
『心配すんなって、お前がいなくたってきっちりやってやるからよ』
各々が胸に抱いたそんな想いを、無機物へと知らせるために。
▽
「……っと、し、失礼しました!!
私とした事が、驚きのあまり言葉を失っておりました事をお詫び申し上げます!!
では、改めて……ドラゴン進とスマホクラフターが遂に姿を現しました!!
しかしその様子は、どうした事でしょう!!
ドラゴン進は……ゴブリン、でしょうか?
今日はドラゴンではなく、何故か小鬼のような魔物三匹を引き連れています!!
そしてスマホクラフターは何と!!
焦茶色の非常に大きな鎧で身を包んでおります!!
その姿は宛ら戦士!!『スマホ』も『クラフター』という言葉も、今の彼には全くもって似つかわしくはありません!!
本当に、これは一体どういう事なのでしょうか!?」
……さて。
解説役の男もたった今暴露してしまったんだ。
ではそろそろ、先程から散々言われている俺達の格好について軽く話しておくとしよう。
まあ、殆どさっき言われてしまったが。
上記の通り、ドラゴン進は魔物であるゴブリンを三匹連れており、俺の方はというと妙なゴツい鎧で身を固めている。
以上だ、今はまだ詳しく説明するつもりはない。
こちらの作戦がバレてしまっては全てが台無しになるのだからな。
と言うか、どうせ企画が始まれば嫌でも分かるだろう……




