十七話 要注意人物たち
時は過ぎ、企画開始の約五分程前。
ダンジョンの入り口からは、この戦いを一目見ようと押しかけた多くの見物客が生み出しているのであろう、賑わいや喧騒が聞こえ。
また同時に、そちらからやって来る食欲をそそる香りが俺の鼻腔を突いた。
そういえば、幾人か屋台の準備している者達を見かけたような気がする。
もしかすると、今や入口付近は祭りや縁日のようになっているのかもしれないな。
一方、意図せずしてそんなイベントを盛り上げるキャスト役を担う事となった、我々冒険者達はと言うと。
「あと数分で開始となりますので、挑戦者の皆様はこちらにお集まり下さい!!」
そうしてダンジョンに設けられた一角に段々と寄せられ、集められ。今か今かと企画開始の瞬間を待ち侘びていたのである。
ただし、俺達だけはただ二人で不動を決め込み、今現在もやや遠巻きにその様を眺めているのだが。
「よし、こんなものかな!!
一時はどうなる事かと思ったけど……まあ。
これで何とかなる、かも……多分……」
「おいおい、そんな弱気でどうすんだよスマホクラフター、いい加減腹括れよ。
確かに今のお前はただのポンコツだが、そんなのは前からじゃねえか。レベルも低けりゃ経験も浅い冒険者、それは何一つ変わらねえんだしよ。
つーかよ、だから一時間も早く来て準備も完璧にしたんじゃねえか。
もうここまで来たら、ビビる方が逆にダサいと俺は思うぜ?」
「う……お前さあ、そういう事言うなよ。
ま、まあでも、『いい加減腹を括れ』ってのは確かにそうだな。
それじゃ、今からはもう少し前向きにいくよ」
「ああ、頼むぜ。
それより……見てみろよ」
その時、唐突にもドラゴン進が挑戦者達のいる方を顎で示した。
なので俺も今一度、そちらを注視してみる。
参加者は確か総勢で三十名。
数えてみた所、そこには二十六名の者達がいた。
あれ?二十六名?
おかしい、本来ならば二十八名となるはずだが……
「……二十六人しか、いないよな?
あそこにいるのはスタッフだろうし、だとするともう二人は何処にいったんだ?」
「あ?お前知らねえのか?
まあ俺も詳細は知らないんだが、二人は昨日ダンジョン探索中に魔物に襲われて携帯を奪われたらしいぞ。
それで企画どころじゃねえって事で、ソイツらは携帯を取り返すために棄権したんだそうだ。
だから挑戦者は全部で二十八人だぜ?」
なるほど、そう言う事なのか。
では、改めて……とは言っても、先程のアナウンスからも分かるだろうが。
二十六名全員が、既に指定された場所に揃っていた。
当然、我々二名を除いて。
だがしかし、ドラゴン進による先の発言は、『俺達も行こう』という意味合いで発せられたのではない。当然、奴のそのような考えは俺にも分かっている。
だから未だ、動くつもりなど微塵もなかった。
では、何故そう眺めてばかりいるのか?
それは、始まりの合図が鳴るその瞬間まで。
敵となるであろう者達全員の様子を観察するため。
そして限界まで、俺達の作戦を奴等に悟らせぬためだ。
……まあ、それはともかくとして。
「何か、こう言っちゃ悪いけど『弱そうな冒険者』が多くないか?
いや別に、相手を甘く見てる訳じゃないけどさ。
でも装備的にもそうだし、見た目的にもそうとしか思えないんだけど……
これって、俺の気のせいだったりする?」
観察の結果、俺の受けた印象はそのようなものであった。
言った通り、敵を過小評価しているのではない。
ただあの場には店で売っているような、安価な装備品に身を包んだ者ばかりが大半を占めており。
また、その装備の殆どが傷の無い。
つまりは経験の証も無い、『まだ初心者を脱せない者』が付ける品、そのものであったのだから。
要するに俺は事実を言ったまで、なのである。
……などと考えていた所。
その答えはドラゴン進の口から寄越された。
「いや、それで当たってるぜ。
アイツらの殆どはチャンネル登録者が一万人前後かそれ以下で、実力もせいぜい『ギリ初心者ではない』ってくらいの奴等ばかりだ。
だから大して強くもない。
レベルだけで考えると、お前でも一対一なら真正面から殴り合いして勝てるくらいなんじゃねえか?
……まあ、当然っちゃ当然なんだけどな。
だってよ、こんな危なっかしい企画にわざわざ参加するのなんて。
そりゃあ、『何をしてでも人気者になりたい、金が欲しい』みたいな考えしてる奴くらいしかいないだろうからな」
「ああ、だからなのか」
なるほど、だからつまり。
あくまでも彼等は優勝ではなく、『注目』が欲しいと言う訳か。
ただ、今のドラゴン進の言い方だと。
俺達も『その強欲な者達のうち二人』となる気がするのだが……まあ良い。
俺は喉元にまで上がって来たそのような考えを再び胸中へと押し込み、無言に徹した。
「だがなスマホクラフター。
分かってると思うが、絶対に油断だけはすんなよ?
今言った事に嘘はないけどよ、でも俺達より強い奴等だってこの企画には参加してるんだからな?
例えば、ほら……アイツとか」
そうしてドラゴン進が指差す方に目を向けると。
そこには、上背のある痩せぎすの男がいた。
骨張った顔と、胸に一物を秘めているような妙な目付きに似合わず。
その身体は小綺麗かつ他者よりも高価であろうローブに包まれている。そんな男だった。
「アイツは『オヅカ』、職業は魔法使いだ。
もう片方の奴は……
知らねえ顔だな、それに弱そうだ。
大方『インスタントチーム』って奴だろう。
ってワケだ、俺達が気にするのはあのオヅカだけで良い。
見た目はヒョロくていかにも弱そうな奴だが、何でも得意の『毒系統の魔法』で難易度(中)のダンジョン探索を二度も成功させているらしい。
しかもたった一人でだ。
それに、ここに『危険物を持ち込んだ馬鹿』ってのもアイツだって専らの噂だ。
まあそれが本当なら、一度はぶん殴っておかなきゃならん奴だが……
とにかく、気を付けておくに越した事は無いだろうぜ」
それを聞き、俺はリンに言われていた幾人かの要注意人物を思い出した。
……オヅカ。
そう言えば、アイツもそこに入っていたな。
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[ステータス](検索結果による推定)
オヅカ:職業『魔法使い』
HP 1000前後
MP 1500前後
[パラメータ](簡略:検索結果による推定)
ATK 30〜40 前後
DEF 40〜45 前後
INT 100以上
RES 100以上
AGI ??? データ不足
LUK ??? データ不足
Lv 25〜30
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確か、パラメータとステータスはこれくらいだった気がする。
クラフターの俺よりもATKとDEFが低く、接近戦には実に不向きな奴だ。
……が。
INTはその逆で、RESに関しては恐らく俺の倍以上であろうという、油断ならない相手でもある。
なので、もしも戦うとなった際は遠距離攻撃をされないよう、またそのような戦闘に持ち込まれぬよう、特に注意しておくとしよう。
「あと、アイツにも気を付けねえとだ。
あの壁の隅にいる、『ザ・RPGに出て来る戦士』みてーな奴。
アイツの名は『レイター』。
この中では唯一、上級職の剣闘士だ。近接戦闘は恐らくこの中で最強だろう。
まあ、ここにいる雑魚共全員が徒党を組んで挑めばどっこいどっこい……くらいには持ち込めるかもしれねえが、所詮無理な話だ。
ま、それが分かったらアイツの間合いには絶対に立ち入らない事だな」
そして、次にドラゴン進は。
筋骨隆々かつ、その大きな肉体に中世の鎧のような装備を纏った男を指して言った。
……あれがレイターか。
なかなかに手強そうな男だ。
だがしかし、だからと言って恐れなどしない。
むしろあのような者がいると知っていたからこそ、俺とドラゴン進はリンも交えた上でバッチリと対策をして来たのだから。
「ああ、分かってるさ。
近付くのは厳禁。でもどうしても戦わないといけなくなった時は逃げ回って、他の挑戦者達と戦わせた後の消耗した所を狙う、だろ?」
「そうそう、ちゃんと覚えてんなら良いんだよ」
だからこそ、俺は頭に叩き込んでいた内容をそっくりそのままドラゴン進への返答とした。
ちなみに俺もそうだが、コイツの方も『割と挑戦者に対しての理解が深い』と思ったかもしれないが。
それは上記したように、俺、ドラゴン進、リンの三者で以前からしっかりとその事について予習していたからなのである。
まあそれは良いとして、レイターの話に戻ろう。
勿論、奴もまた要注意人物の一人である。
─────
[ステータス](検索結果による推定)
レイター:職業『上級職:剣闘士』
HP 3000〜4000 前後
MP ??? データ不足
[パラメータ](簡略:検索結果による推定)
ATK 350以上
DEF 300以上
INT ??? データ不足
RES ??? データ不足
AGI 200〜250 前後
LUK ??? データ不足
Lv 60〜70
─────
そして、そんなレイターのパラメータ、ステータスはこのようなものとなっている。
『MP 、INT 、RESの数値がデータの不足により算出不可能となっていますが。
これは『レイター』氏が今現在検索、視聴可能な配信中において、過去一度も魔力、魔法攻撃を使用した事例が無いからです。
まあ恐らく、彼は近接戦のプロですから、その引き換えとして魔力を持っていないのでしょう。
なのでご主人、『レイター』氏と戦闘になった際には遠距離攻撃の心配は無用です。
まあ、だからと言って簡単に倒せる相手ではありませんが……』
前にリンがこう言っていたように、奴から遠距離攻撃を受ける心配はまず無いと言えるだろう。
だがしかし、一瞬たりとも気を緩める事など、出来るはずもない。
むしろ、それが命取りとなるだろうからな。
ひとまず、『レイターに近付いてはならない』という部分だけは徹底したい所だ……
▽
そしてあと一、二分もすれば、企画が開始されようかという頃。
会話を締め括るようにして、ドラゴン進が最後に指差したのは。
「……もう、そろそろか。
それじゃ、俺達もいい加減移動しなくちゃな。
だがその前に、コイツの事だけは話しておかなくちゃならねえ、ちゃんと聞いとけよ……まあ、散々話したんだから分かるとは思うが。
……あそこにいる、銀髪の縦も横もデカい野郎。
あれが通称、『剛拳のドブ』こと土部河御堂だ。
アイツはこの企画の発案者にして、レイターの相棒。
そして俺達だけじゃなく。
挑戦者全員が一番用心しなくちゃならない、マジで危険な野郎だ。
……なあ、スマホクラフター。
最悪の場合、本当に最悪の場合だ。
その時は、さっき言ったオヅカやレイターなんてどうでも良い。
だが、アイツにだけは。
土部河御堂にだけは注意を怠るなよ、分かったか?」
『剛拳のドブ』。
この企画の、生みの親なる人物であった。




