十六話 潜入 ダンジョン[不戻の湖底](探索ナシ)
─────
上野ダンジョン[不戻の湖底]
全冒険者平均探索成功率[66%]
全冒険者平均死亡率[4%]
危険度[低〜中]
脅威度[低〜中]
佐藤大吾:職業[上級職:スマホクラフター]
[懸念事項]
ダンジョン探索経験(低)
状態『緊張(高)』
算出:佐藤大吾 [ダンジョン探索成功率]
〝51%〟
─────
『ほらご主人、この計算結果をご覧下さい。
素晴らしい、何とダンジョン探索成功率が過去最高の数値を記録しましたよ。
で、ですので、その……ど、どうでしょう?
少しは前向きになれたりとか、しますでしょうか?』
「いや、無理だろう。
ってか意味ないじゃんその数字。
どうせ入るのはダンジョンの一部だけなんだし。
それにその一部だって、企画の前に安全確認ぐらいはしてるだろうしさ……」
「お、おいおいスマホ野郎……じゃなくて、ええとリンだったか?
まあ何でも良いけどよ、悪い事は言わねーから今ご主人様をおちょくるのだけは止めといてくれねえかな?
別にコイツを庇いたいんじゃねえよ。
ただな、これ以上コイツに精神攻撃されると、いよいよ使い物にならなくなりそうでな。
流石の俺も、そうなると困るんだよ……」
『そ、そんな……!!
『ドラゴン進』氏、言いがかりを付けるのはよして下さい……!!
私はただ、ご主人を励まそうとしただけです……!!』
「今のが励ましになってるんなら、こんな事は端から言ってねえよ……」
▽
それから約数分の後。
目的のダンジョン入口に辿り着いた俺達はというと。
勿論、確認するより他無いという事で。
ダメ元で、受付のスタッフにスマホの持ち込みを例外的に許可してはもらえないかと相談してみたのだが。
「あの僕、スマホクラフターなんですけども。
僕だけ、『スマホ所持OK』とかにはなりませんでしょうかね……?
あ……ダメ、「ダンジョン内に設置されているロッカーに入れて下さい」と。
で、ですよね〜、そりゃそうですよね〜……」
残念な事にも『特例は認められない』として、こちらの訴えはやはりと言うべきか却下されてしまった。
「なあ、マジで頼むよ!!
だってコイツ職業がそれなんだぞ!?
商売道具なんだぞ!?
それで食ってるようなもんなんだぞ!?」
またその際、珍しくもドラゴン進が俺の肩を持ち、そのように言って援護射撃をしてくれたのだが。
「だったら、そんなん他の奴が付けてる装備と何も変わんねえじゃんか!!なんでそれがダメなんだよ!?
……ざけんなこの野郎!!馬鹿にしてんのか!?
もうテメェじゃ話になんねえ!!
上の奴呼んでこいやタコがコラァ!!」
段々と奴の語気、態度と共に荒く尖り始めるのを察知し、『これはマズい』と悟った俺は。
「ちょ……お、おい、止めなってススム君。
そんなクレーマーみたいな事言ってると、牛華族だけじゃなくここまで出禁にされるかもしれないだろ?」
「誰がススム君だ!!」
反射的にドラゴン進の手を引き、気が付けば自ずから会場へと足を踏み入れてしまっていたのである。
そう、だからつまり。
冒険者としては丸裸も同然だと言うのに。
リンがいなければ俺は、『ただのクラフター』に過ぎぬと言うのに。
自らの足で俺は戦場ならぬ、死地へと赴いたのだ。
今だけは〝相棒〟であるはずのあの男が、お得意の迷惑行為を始めようとしたお陰でな。
ああ、帰りたい、逃げ出したい。
けれどもう、そんな事は出来ない。
考えずしてあんな行動に走ってしまった、『良識ある自分』が今だけは嫌になってしまう……自分で言うのもどうかとは思っているが。
とにかく、そのせいで俺は暫くの間自責の念に駆られていたのだった。
▽
だがしかし、地獄に仏とはまさにこの事か。
そんな俺の前に現れた唯一の救いとも呼べる〝彼女〟だけが、不毛の地が如く荒み切った俺の心にまるで雨のように癒しを注いでくれた。
「あ、大吾さん!リンちゃん!」
その彼女とは勿論、クルセイドちゃんの事だ。
「随分お早いご到着ですね!とにかく、良かったです!始まる前にお会い出来、て……あ、あれ?
ね、ねえリンちゃん?
その、もしかして大吾さんに何かあったりした?
何だか、顔色が優れないみたいなんだけど……?」
そんな彼女は俺の顔を見た途端、異変を察知したのかリンに向けこそこそと囁き始める。
と言うか、クルセイドちゃんが敬語を崩す様を見たのは配信以外では初めてかもしれない。
いつの間にこの二人、もとい一人と一個は仲を深めていたのだろうか?
『お、お久し振りです、『クルセイドちゃん』氏。
ええと、これはですね……』
「いや、いいよリン、俺から説明する。
ど、どうもクルセイドちゃん。
実は、かくかくしかじかで……」
まあ、考えても分からないのでそれは良いとして。
俺はクルセイドちゃんにも事の次第を説明した。
「ちょっと待った!俺もいるぜ?
クルセイドちゃん久し振り!!
ねえクルセイドちゃん!
そんな奴放っといてさ、これが終わったら俺と」
「ええっ!?し、私物の持ち込みがダメ!?
今まで担当者と打ち合わせをしていたので全く知りませんでしたが、そ、そうだったんですか……
だから大吾さん、そんなに落ち込んでいたんですね……な、ならせめて」
すると、それを聞いた彼女は懐から何かを探るようにした後。
「ねえクルセイドちゃん!
ねえ聞いてる?これが終わったら二人で」
「大吾さん、スマホクラフターである貴方の助けになれるかは正直な所分かりませんが……良かったら、コレを持って行って下さい。
冒険者となったばかりの頃、私が愛用していた『鋼の盾』です。
ソードマスターとなった今では、盾を使う事は殆どなくなりましたが……初心を忘れぬよう、御守り代わりにいつもこうして持ち歩いているんです。
でも、今日だけは大吾さんにお貸しします。
これなら一応、装備品なのでセーフですよね?」
─────
アイテム[鋼の盾]
[鋼の盾]
合金で出来た小型の丸盾。『バックラー』と呼ばれるものに近い形をしている。通常の盾よりも機動性、近接戦闘において秀でてはいるが、何分小型のため全ての攻撃をこの盾で塞ぎ切るというのは困難を極める。
─────
そう言って、長年愛用して来た事が一目で分かる、かなり使い込まれた様子の盾を俺の目前に差し出すのだった。
「え……ま、まあ確かに、大丈夫だとは思いますけど。
でも、良いんですか?
これはクルセイドちゃんにとって、とても大事な物なんですよね?それを、俺になんて……」
それを見、一度は躊躇したものの。
「良いんです。
ただ、一つだけ約束を守ってくれれば」
「約束、ですか?」
「ええ、ただ一つだけ。
大吾さん、『この企画が終わったらアナタの手で、きちんと私の所に返しに来て下さい』それが約束です」
「ク、クルセイドちゃん……ありがとう」
クルセイドちゃんのそのような話を聞き。
また同時に、彼女がそうする事で勇気を与えようとしていると気が付いた俺は。
それを有り難く借り受ける事と決めた。
「じゃあ、今回だけはこの盾をお借りします。
それと約束の方も、必ず守ってみせますから。
……あ、そうだ、じゃあ僕の方からも。
担保って訳じゃないですけど、代わりにコレを預かっていてもらっても良いですか?
後で絶対に、取りに来るので」
「こ、これは……分かりました。
こちらもリンちゃんを、大事にお預かりしておきますね。大吾さんが無事に戻って来るまで」
『ご、ご主人……宜しいのですか?
確かに、私がアナタ様と共に舞台に立つ事は出来ませんが……』
「大丈夫だってリン、終わったらちゃんと取りに来るって言ってるだろう?
それに、お前も誰が開けるか分からないロッカーの奥なんかに押し込められてるより、クルセイドちゃんの所にいた方がずっと安心なんじゃないか?」
『……それも、そうですね。
ではご主人、どうかお気を付けて』
彼女の盾を、我がもう一人の相棒とも呼べるリンと引き換えに。
「ちょ、クルセイドちゃ」
「じゃあクルセイドちゃん、また後で。
俺達はちょっと準備があるので、そろそろ失礼しますね……
おい、いつまで騒いでるんだよ、ほら行くぞ?」
「ま、待て!!
まだ俺の話は終わってねえんだよ!!
クルセイドちゃん!!
クルセイドちゃ〜ん!!」
その言葉を最後に、俺とドラゴン進はクルセイドちゃんと別れた。
また彼女は、俺達が見えなくなるまで笑顔で手を振りながら見送ってくれた。
だがしかし、心の中では今でも繋がっているのだと俺は強く信じている。
俺はこの盾を介して、彼女はリンを介して。
荒野に恵みを与え、花咲かせてくれたクルセイドちゃんと。




