十四話 ドラゴン進の謀略
「……紅丸。
実はアイツって、ドラゴンの中でもかなり頭の良い方でな、フツーに話せんだよ。
でな、俺はお前達がいなくなった後で、また紅丸に「どうしてアイツらをぶっ飛ばしてくれなかったんだよ!」ってキレたんだけどよ。
そしたらアイツ、こう言ったんだ。
『進よ、最近のお前はどうかしている。
まあ、常識外れなのは昔からだが。
しかし、今回ばかりは流石に見過ごせん。
無論、私とて分かっているさ。
お前が汚い手を使ってでも地位や名誉、そして金銭を欲するのは。
『私が食うに困らぬ生活を送れるように』というのが始まりだとはな……だからこそ、今の今まで大目に見てきた。
だがそれも過去の話、今はどうだ?
近頃のお前は欲に塗れるだけに留まらず、本来の目的を忘れより過激な事ばかりするようになった。
それが自分自身のみ傷付ける行為ならばいざ知らず。
当然のように他者を巻き込んだ挙句、その者がどれだけ迷惑を被ろうと、苦しもうと我関せずとした態度でいる。
だがその癖、自身に火の粉が降り掛かるとなると途端に狼狽する……あの時だってそうだ。
私は、紋章なぞ無くとも。
お前が『戦え』ではなく、『助けてくれ』と発したのならば、いつでも動く準備は出来ていたと言うのに。
……もう沢山だ、これ以上は我慢ならん。
これ以上、主人と認められぬ者に付き従う阿呆が何処にいようか。恥ずかしくて堪らんわ。
進、お前は少し私と離れて頭を冷やせ。
そして学べ、『真の強さとはいかなるものか』を。
『他者を傷付けるのではなく、愛すべきその理由』を。
そうしてお前が再び、我が主人となるに相応しいと判断した時はこの紅丸。
例えそれが火の中水の中、何処であろうとお前の元に駆け付けよう。
それまで私はここを動かん』ってな。
……分かったかよ?
だから俺はわざわざお前達の所にまで来たんだ」
怒声が牛華族に響いてから、暫くして。
再び落ち着きを取り戻し、語り出したドラゴン進の話はこのようなものであった。
そこで判明した事柄をまとめると。
・どうやらコイツは本名である『進』からヒントを得、それを音読みにして『ドラゴン進』という活動名を生み出したのだと思われる。
・紅丸というドラゴンはかなり出来た人物、もとい魔物であったらしい。それこそドラゴン進とは比べものにならない程。
・そんな紅丸からコイツは見放されてしまったとの事。正直、処置としてはむしろ妥当過ぎるし、と言うか遅過ぎるくらいだとも思う。
と、このような具合だろうか。
「何と言うか、その。
俺、あのドラゴンにちょっと同情しちゃうな……今の話を聞いた感じだと、結構苦労してたみたいだし。
もしかすると、紅丸にとっては離れて正解だったんじゃないかな?」
『私もそう思います。
『紅丸』は人間性……ではなく『竜性』、そして人格……でもなく、『竜格』に優れていると言うだけでなく、とても心優しい魔物であったようですからね。
これは私の推測ですが、恐らく『紅丸』が動かずにいたのは、『元とは言え主人が他の魔物に襲われぬよう、ダンジョンから出るまでそうして見守り続けるため』と言った意味合いもあったのでしょうから、それが何よりの証拠と言えます。
本当に、何故『ドラゴン進』氏の魔物となったのか、正直言って全く理解出来ません……
百歩譲って彼と契約を結ぶにしても、本来ならば『主従を逆転させる』のが自然だと思いますよ』
「なるほど、確かにな……あ。
それで思ったんだけどさ、もしかしてあのダンジョンで全然魔物と出会さなかったのって、紅丸がいたからなんじゃないか?」
『まあ、『ドラゴン進』氏達がダンジョンに入ったのは私達よりも後ではありますが、確かにその可能性もゼロとは言い切れな……』
……等々、奴の話を聞いた俺とリンがそんなやり取りをしていた所。
「おい!!さっきから軽くディスってんじゃねぇ!!
というか無視すんな!!たった今俺が喋り終わったんだぞ!?他にもっと言う事あるだろ!?」
例えるならば、それはまるでジェットコースターのように。そのように感情の起伏が激しい男、ドラゴン進はまた怒り出したかと思うと。
奴はそのように言って俺達を批難するのだった。
「え?い、いや、特に無いけど?
だってほら、お前の話ってまだ……」
『ご主人の言う通りです、『ドラゴン進』氏。
確かにアナタは長い話を終えましたが、私のした『私達の元にやって来た、その意味を教えて欲しい』という旨の質問に対しては、まだ納得出来るような答えを貰っていません。
ですから、私達はまだ続きがあるのではないかと思い、一度話が途切れたこの間を利用して、雑談に興じていたというだけなのですよ』
だがしかし、謝るつもりなど毛頭ない。
引き継いだリンの言葉通り、俺達はまだ奴の話が本題に入っていないと勘違いしただけであるのだ。
そう、だからこそ紅丸の話を整理した際にも若干ふざけてしまったのだし。
と言うか、まずそもそもとして友人でもない炎上系配信者の長話など、むしろそうしていなければ場が持たないと思ったからそうしたまで。
そこに何の意図も無ければ、悪意もまた〝僅かだけ〟しか有りはしないのである。
……と、まあそのようにして。
こちらにも言い分はあったのだが。
それを知ったドラゴン進は謝罪……など、勿論するはずもなく。
「だーかーらー!!
そんな感じで紅丸が動いてくれねえから!!
その〝原因になった〟お前らに手を貸せって言ってんだよ!!全く、あそこまで言ったら分かるだろ普通!!」
また何ともふざけた主張からなる発言を大声に乗せ、再び店内にそれを轟かせるのだった。
「そ、そんな無茶苦茶な……
大体〝原因〟も何も、そんなもんお前にしかないだろうに……なあリン。
どうしてコイツって、そこまではっきり言い切れるんだろうな……お前なら分かったりするか?」
『いいえ。流石の私でも、微塵も分かりません。
盗人猛々しいとはまさにこう言う事なのでしょうかね、ご主人……』
▽
「と言うか、もう答えは紅丸が言ってるようなもんなんだしさ。こんな事してる暇があるならさっさと動いた方が良い気がするのって俺だけ?」
『いいえ、私もですよご主人。
『ドラゴン進』氏は余計な事を考えずに、もう少し真摯にダンジョン探索を続けていれば恐らくそれだけで……』
「おいお前ら!!ま〜たコソコソ二人だけで話してんじゃねえ!!それ止めろ!!禁止!!
お前らは黙って俺の手伝いをしてくれればそれだけで良いんだよ!!
ほら、分かったらさっさと連絡先を教え」
『勿論お断りします。
と言うか、もう帰りたいのですがよろしいでしょうか?
アナタとこれ以上同席していると、いつ悪い噂を流されるか分かったものではありませんので……』
「あ〜、確かにそうだな。
じゃあ、そろそろお会計にするか。
あ、一応俺の方からも言っとくけど。
連絡先の交換は悪いけど無理だよ。
だって嫌だもん、それに悪用されるかもしれないじゃん」
「しねーよふざけんな!!
てか何なんだよマジで!!
お前ら俺の事なんだと思ってんだよ!?」
『「炎上系配信者」です』
……という訳で。
今度は「連絡先を教えろ」などと言い始めたドラゴン進を前に、俺は帰り支度を始めた。
そのような事をしたとて、こちらにはデメリットしか無く。
と言うかまず大前提として、〝濡れ衣を無理矢理着せようとしてくる〟ような奴に協力する義理も道理もありはしないからだ。
だからこそ事がより面倒とならぬ前に、俺達は一刻も早く帰宅せねばならないのである。
……だと言うのに。
それを見たドラゴン進は、素早く俺達の前に立ちはだかると。
自身を肉壁とし、こちらの進行を妨げながら口早くこう言うのだった。
「お、おいちょっと待てよ!!待てって!!
分かった!!
俺の言い方が悪かったのは謝るから!!
だから頼むって!!
頼むから手伝ってくれよ!!
他の奴等には殆どブロックされててさあ、連絡が取れねえんだよ!!俺にはもうお前らしかいねえんだよ!!」
「うわぁ……」
『身から出た錆、ですね……』
最早、存在自体が迷惑としか言えなかった。
俺は凶器として皿を持ち上げそうになるのを何とか抑え。
リンは『緊急SOS』機能で110番しそうになるのをどうにか堪える程には。
なのでと言うか、何と言うか。
いつしか自然と、それを煩わしく感じていた俺は。
どうにか奴に諦めてもらおうと考えた上で、やや冷たく、そして嫌味な発言を敢えて口にしたのだが。
皮肉にも、それが悲劇の引き金になろうとは……
この時の俺にはまだ、知る由もなかった。
▽
「……とにかく。
そんな事言われても駄目なものは駄目だ。
何をさせようとしてるのか知らないけど、俺達はお前の手伝いなんて御免だね。
まず人にものを頼む態度じゃないし、誠意の欠片も見えないしな。
分かったら他を当たってくれ。
まあ、それが無理なら紅丸に土下座して謝って、戻って来てもらえば良いんじゃないか?
お前はあの時、俺にそうさせようとしたんだ。
だからきっと、それくらいの効果があるんだろう?
お前の大好きな、その土下座とやらはさ」
ちなみに、そんな俺の発言とはこれだ。
確かに、我慢の限界でもあった。
それに嘘を吐いたつもりも無い。
胸の内をそのまま曝け出したら、たまたまそれが鋭く、挑発じみた刃だったというだけで。
と言うか、こちら側に落ち度なんて無いはずなのだ。
全ては奴の蒔いた種、それだけの事なんだから押し掛けられ、無茶まで言われた俺には怒る権利がある。
例えそれが相手を煽るようなものであったとしても。
という、考え自体は今も変わってはいないのだが。
…………相手が悪かった。
そう、対するはドラゴン進、炎上系配信者。
本来ならば最も慎重に対応せねばならない相手であったのだ。
とは言え、それは当たり前とすら言える話だ。
当然、失念していた訳ではない。決してない。
全ては興奮によるものだ……が。
ああ、悔やんでも悔やみ切れない。
どうしてあのような言い方をしてしまったんだろうと。
どうしてもう少し、アイツに寄り添った思考を、物言いをしてやらなかったんだろうと。
何故ならば、それを聞いたドラゴン進は……
「な、なんだとこの野郎……!!
こっちが下手に出たら調子に乗りやがって……!!
あーそうかよそうかよ!!分かったよ!!
だったらこっちにだって考えがあるからな!!」
そう言った途端、今度は何を思ったのか。
俺達に背中を見せたのである。
「ん?お、おい、何してんだよお前?
いいからそこ退いてくれよ、出れないだろ?」
「まあまあ、そう言うなって……ところで。
これもフォロワーから聞いたんだけどよ。
お前にも〝例の企画〟の案内、届いてんだろ?」
「え?例の企画?」
『……!!』
「いやいい、言わなくても分かるぜ?
お前の持ってるスマホの、その慌てぶりを見ればな……へへ。
まあそういう事だからよ、スマホクラフター。
〝証拠写真〟さえ撮れればすぐにここを退いてやるから、もう少しだけ大人しく待っててくれよ」
奴の意図が理解出来ず、その場でただ立ち尽くすばかりの俺。
『いけませんご主人、今すぐ伏せて下さい!!』
一方で、リンは何かに気が付いた様子だったが。
無機物の声と共に響いたシャッター音。
それを耳にした時にはもう、全てが後の祭りであった。
「アーハッハッハ!!
残念だったなスマホ野郎!!一足遅かったぜ!!
俺とコイツのツーショットはバッチリ撮らせてもらったからな!!
あとはSNSにこうやって載せて……」
『い、いけませんご主人!!
すぐに奴の動きを封じて下さい!!
捏造とは言え物的証拠を入手した今、『ドラゴン進』氏がやろうとしているのは恐らく……!!』
「な、なんだ?よく分からないけど、アイツを止めた方が良いのか……?そ、それじゃあ」
「アーハッハッハ!!
スマホクラフター、何しようともう無駄だぜ!?
たった今SNSにさっきの写真付きで、〝例の企画〟への参加表明を出しちまったからな!!
これでもうお前は逃げられねえ!!
最後まで付き合ってもらうぜ!!
まあ、フォロワーや視聴者がごっそり減っても良いってんなら話は別だがなぁ!!
アーハッハッハ!!どうだスマホクラフター!!
素直に言う事を聞かねえからこうなるんだ!!
ついでに言っとくが、支払いもお前だ!!
俺は今財布を持ってねえからな!!アーハッハッハー!!」
『ああ、遅かったのですね……!!』
「て、テメェ……!!
ふざけんな!!せめて金くらいちゃんと払え!!」
とにかく。
そうして、今度は二人の男のものである怒声が居酒屋には飛び交い始め。
俺達は謎の企画への参加を余儀なくされてしまったのである……!!




