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二 怖いくらいにあなたが嫌い③

 やはり気づかれてしまった。そしてわたしを”白雪姫”だと認識した。涼也と柊悟も彼のことを”王子”だと気づいて、近づくなとけん制してくれた。けれども、彼は”白雪姫”と関係を修復したいらしい。


 相変わらず、自分勝手な人だ。

 先ほどの会話を思い出していたら、だんだん腹が立ってきた。


 彼は昔の”王子”のままだった。自分が一番可愛くて一番大事。自分は完璧な人間だから、何をしても許される。自分に都合のいい言葉しか耳に入らない。


 白雪姫は確かに彼に救われた。継母もいなくなり、二人で国を治めることになった。王子は末っ子だったため、姫の救世主である彼が王位に就くことに誰も異論を唱えなかった。

 元女王は自分の美の探究者ではあったが、政治的には優れており平穏な国を築いていた。白雪も継母には嫌われていたが、民には愛されていたため女王の急死による代替わりもつつがなく行われた。


 姫から女王になり、白雪は多忙な日々に追われた。新婚の甘い雰囲気はすぐにかき消された。白雪が忙しくしているうちに、王となった彼は次々と愛妾を作るようになった。あちらこちらに手を出し、子を作り、ついに大臣の娘に手を出して妊娠させてしまった。


 白雪には子どもができなかった。世継ぎを考えると、一番地位が近いその大臣の娘の子を養子にすることが考えられた。

 大臣の娘は王子の実母という立場になり、まるで女王のような振る舞いをするようになった。王もそちらの味方になり、一緒に白雪を見下すような態度をとるようになった。


 それでも白雪は国のために働き続けた。仕事を評価してくれる臣下も多く、前代の女王から引き継いだ薬品事業が他国の目に留まり、貿易によって国はより美しく豊かになっていった。

 しかし、国が豊かになるにつれて、もっと富を得たいと考える貴族たちが増えてきた。それは大臣も例外ではなく、娘を女王にしようと白雪に刺客を送り込むようになった。


 今までも暗殺計画はあったが、未遂に終わっていたのは魔法の鏡のおかげだった。真実しか述べることのできない鏡に暗殺について尋ねれば、計画の一部始終がわかるのであった。そのおかげで、白雪は今まで生き延びることができた。皮肉なものである。前代女王が鏡に美しい人を尋ねたおかげで命を狙われたというのに、今は自分が助けられているのである。

 王と言う後ろ盾がいる大臣は暗殺計画を追求されても、のらりくらりとかわして今の地位に居座り続け、チャンスをうかがい続けた。そして、あろうことか王の手によってそのチャンスは作られてしまったのである。


 王が魔法の鏡を壊したのである。


 いつもの謁見の時間に、王はいきなり立ち上がると「女王は悪魔の鏡に取りつかれている」と告発した。そして、白雪に弁明の時間も与えず、真っ先に魔法の鏡を自らの剣でつき壊した。それから「女王は悪魔によって精神を犯されている。決してその言葉に耳をかたむけてはいけない。拘束してそのまま牢屋に連れていくように」と命令した。

 あっという間だった。白雪は離れの塔に幽閉され間もなく毒殺された。女王の座は大臣の娘がついた。それからのことは死んでしまったのでわからないが、いいかげんな彼のことだから、国政もろくなことにならなかったのではないかと思う。


「優姫・・・優姫?」


 はっと顔を上げると、希湖が心配そうにのぞきこんでいた。


「ごめんね。何度か話しかけてくれてた?」


 希湖は首を横に振った。


「ううん。考え込んでいるみたいだったし。でも、そろそろ昼休み終わるからさ。」

「本当だ。ありがとう。」

「いいよ。でも、涼也君のあんなに怒っているところ初めて見た・・・。マコト君って、何をやらかしたの?あっ、その、無理に話してほしいわけじゃないよ。でも、その、びっくりしちゃって、ううん・・・。気にならないっていえば、嘘になるんだけど。」


 確かに、希湖からしてみれば、自分の好きな人が転校生に絡んでいっているのを見過ごせるはずがない。ここは柊悟に相談して口裏を合わせるか。


「そうだよね。ただ、簡単に説明できないから、放課後まで待っていてくれる?」

「うん、わかった。」


 わたしたちは急いで教室に戻り、授業を受けた。わたしは授業中にわからないところを相談するフリをして、隣の席の柊悟に校舎裏でのやり取りを見たこと、マコトとの関係を希湖にどう説明したらよいかをノートの端に書いて見せた。


 柊悟はそれを見て『いたの!?』と目で訴えてきたので、わたしは両手を合わせて『ごめん』と合図した。柊悟はため息をついてしばらく考えていたが、ノートにさらさらと書き出した。


・優姫と涼也とマコトは小学一年生の夏休みの間に会った

・優姫の生みの親の形見をマコトが壊した

・マコトは自分のせいじゃないと言い張って、謝らないまま引っ越してしまった


 柊悟が『どう?』といったふうにメガネを上げた。わたしも、これならあまり深くは突っ込まれずごまかせそうと判断してうなずく。

 すると、柊悟がさらに書き足した。


・壊されたのは、手鏡


 わたしは、ゆっくりうなずいた。嘘の中に少し真実があった方が、話が本物らしくなる。柊悟に他意はないはずだ。


・涼也にはぼくから話すね


 最後にそれだけ書いて、柊悟はまた前を向いた。

 わたしも授業を聞きながら、希湖に説明する物語を頭の中で構築していった。


 幸いにも、転校初日は彼はクラスメイトにずっと囲まれたままで、休み時間もこちらに近づいてくることはなかった。

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