二 怖いくらいにあなたが嫌い②
昼休みになった。
いつも通り、涼也たちとお昼をとろうと立ち上がると、涼也と柊悟が示し合わせたかのように彼に近づいて行った。
なんだろう。二人そろってだなんて、嫌な予感しかしない。
「なあ、マコトって言ったよな?」
涼也がまず声をかけた。
「うん。えーと、君は?・・・!?」
彼は名前を聞き返そうとしたのか、涼也を見上げ、そのまま驚いたように固まった。
「ちょっと、話したいことがある。校舎裏についてきてくれるか?」
転校初日に校舎裏に呼び出すなんて、いったいどんな因縁があるんだ?と、クラス中がざわつきだす。
「すみません、僕らちょっとした古い知り合いなんです。少しだけ、僕らだけにしてくれませんか?」
『先生』に丁寧に頼まれては、クラスメイトもうなずくしかない。視線だけ廊下に泳がせながら、それぞれの昼休みに戻っていった。
希湖が、わたしの制服の裾を引っ張った。
「優姫、どうする?涼也君の知り合いって言ったら、優姫も知ってるんでしょ?こっそり、ついていかなくて大丈夫?」
あまりの展開に頭がショート寸前だったが、希湖の言葉にはっとなった。
そうだ。”白雪姫”として、彼らがどんな話をするのか、聞いておいた方がいい。
わたしは希湖に目配せすると、他の人にさとられないように、別の場所でお弁当を食べるふりを装って校舎裏へ向かった。
校舎裏は木々が植わっているが、きちんと整備されていて静かに過ごせるところだ。時々、内緒話をしている女子だちや、告白らしいことをしている人たちを見かけることがある。
そんなところへ涼也と柊悟が彼を呼び出したということは、きっと前世絡みの話をするに違いない。希湖を連れてきてしまったことを、今更まずかったかと思ったが、ここは校内だし、”先生”もいることだし、おおっぴらなキーワードを言うことはないだろう。
わたしと希湖が遅れて校舎裏のかげまで来たところで、涼也の声が聞こえてきた。
「優姫に関わるな。」
わたしは思わず足を止めた。希湖も一緒に立ち止まり、恐る恐る壁から顔をのぞかせる。
ちょうど、三人の横顔が少し見える距離だった。このまま、盗み聞きすることにする。
彼がフッと鼻を鳴らして肩をすくめた。
「どうして、君にそんなことを言われなくちゃいけないんだい?僕が誰と仲良くなろうと勝手だろう?」
「マコト君は、どこまで覚えていますか?」
柊悟がぼかしながら、一番知りたかったことを聞いてくれた。
彼もそれで察したらしく、腕を組んで「うーん」とうなった。
「今まではぼんやりと、僕はどこかの王子様で、きれいなお姫様と楽しく暮らしていた、ぐらいな夢みたいなイメージしかなかったけど、さっき彼女を見て、ビビッときたよ。僕は本当に”王子”で彼女は”白雪姫”だ。僕たちはまた結ばれる運命なんだって。」
「ふざけんな。」
涼也が低い声で彼の声を遮った。
「テメエ、前に姫さんにした仕打ちを忘れたってんのか?だとしたら大分めでてぇオツムだなぁ。あ゛?俺たちはしっかり覚えてんぞ。テメエのせいで、姫さんがどんだけ傷ついて、どんだけ大変な思いをして、挙句の果てに、あんな、最期で。」
涼也は険しい顔でどんどん顔に詰め寄っていった。けれども、彼の方はどこ吹く風だ。
「それは、本当に申し訳ないと思っているよ。だから、これから謝ろうと考えていたんだ。そうすれば、僕らはやり直すことができる。彼女は優しいし、それになんといっても、僕らは王子と姫だからね。」
それを聞いた柊悟が、呆れたようにため息をついた。
「本当に、おめでたいオツムですね。そんなことで、彼女が貴方を許すはずはありません。それに、僕らはもう”今の自分”としての人生を生きています。自惚れもいい加減にしてください。」
「自惚れ?いいや、正当な自己評価さ。僕は生まれ変わっても美しい顔をしているし、財力もある。」
「それはテメエの親の金だろ。」
すかさず涼也が突っ込むが、彼は自慢げにほほ笑んだ。
「今は高校生でも稼げる時代だよ?僕は自分のお小遣いを投資に回している。おかげでそこいらの高校生よりはお金があるよ。今なら彼女も僕のことを見直してくれるさ。」
「埒があきませんね。」
柊悟が再びため息をついた。
「とにかく、僕たちは貴方が優姫ちゃんに近づくことを許しません。僕たちは全力であなたから優姫ちゃんを守ります。」
「そうかい。ま、許しがなくたって、僕は行くさ。」
「なんだとッ」
涼也があわや彼につかみかかろうとしたところを、柊悟が手で制した。
彼は余裕の笑みを浮かべて「どうも」と言うと、その場を立ち去ろうとしたので、わたしと希湖は慌てて近くの茂みの裏に隠れた。どうやら気づかれなかったようで、足音はどんどん遠ざかっていった。
代わりに、自分の心臓がうるさいくらいに鳴っているのがわかった。
「優姫、大丈夫?」
「え、えぇ・・・なんとか。わたしたちも、涼也たちが来る前に戻りましょう。」
涼也と柊悟はまだ話をしているのか、こちらに戻ってくる気配はない。あの二人が何を話しているのかも気になるところだが、今は鉢合わせしない方がいいだろう。
希湖は本当に心配そうにわたしの手を取ると、校舎までエスコートしてくれた。そのまま教室には戻らず、被服室まで来た。ちょうど家庭科担当の教員がいて教室は開けられており、ついでに昼食をとる許可もくれた。希湖は本当に気配りの天才だ。
「お昼休みもう少ないね。ちゃちゃっと食べちゃおう。」
希湖に促されて、わたしもなんとか弁当箱に箸をつけた。希湖も聞きたいことがあるだろうに、黙々と食べていてくれる。おかげでわたしは、状況を整理することができた。




