九 キスして、目を開けて⑥
『ただいまより、文化祭の閉会式を行います。クラスごとに整列してください。』
アナウンスがタイミングよく鳴った。
着替える時間がなくなってしまったので、そのままクラス列へ戻る。
周りの子たちからたくさん冷やかされて、また顔が熱くなったけれど、すぐに司会が始まったので前を向くことができた。
飲食部門、展示部門、アトラクション部門、鑑賞部門、それぞれお客さんが楽しかったものに投票できて、その部門で入賞すると景品がもらえる、その発表があった。
なんと、わたしのクラスのお化け屋敷はアトラクション部門で一位をとった。
さらに、鑑賞部門でも演劇部が一位をとった。あのラストのアドリブ劇で追い上げたのかしら。
これはまた、副部長が調子に乗りそう。また新のフォローをしなくちゃと内心頭を抱えた。
実行委員の話、校長先生の話が終わり、文化祭は閉会となった。が、この後は後夜祭がある。
クラス担任がこの場で点呼をとって、改めて解散を告げると、みんな帰宅組と後夜祭参加組で分かれて動き出す。
「優姫!後夜祭は参加するでしょ?」
希湖に話しかけられて、歩きながら移動する。
「うん。着替えたら行くね。」
制服は教室に置きっぱなしだったので、急いで取りに行く。
クラスメイトに「お疲れ様」と声をかけつつ、トイレで着替えをすませて校庭へ向かう。
希湖の姿を探したら、涼也と一緒にいるところを見つけた。
これは・・・わたしはいない方がいいわね。
そう判断して他のクラスメイトを探すことにする。
辺りを見回しながら歩いていたら、遠目で新の姿を見つけた。友達っぽい男子たちと、楽しそうに笑っている。
あっちも、邪魔しない方がよさそうだな、と思っていたら、目が合ってしまった。
新が、友達から背中をはたかれながら、こっちへ駆け寄ってくる。
「よかったんですか?こっち来ちゃって。」
「いや、むしろ言って来いって言われた。それに、倒れたって話も詳しく聞きたかったし。」
校庭の端に移動して座ると、マコトに睡眠薬を盛られて保健室でキスされそうになったけど、柊悟が助けてくれて、どうやらやっと諦めてくれたらしいと説明した。
新は顔を青くしてわたしの両肩をもった。
「え!?睡眠薬って、それで舞台に立ってたってことか!?は!?本当に大丈夫だったのか!?」
「新だって、大丈夫だなって言ってたじゃない。」
人込みから離れているので、敬語をはずして話す。
「だって、いや、確かに、顔色は悪くなかったから。」
「だから、本当に大丈夫。むしろ、柊悟に足つぼ刺激されて調子よかったくらい。」
「そ、そうか・・・後で礼をしないとな。それにしても、まさか薬まで使うとは、そこまでヤバいやつだったんだな。」
改めて考えると、ゾッとする話だ。マコトが匙加減を間違えていたら、命に関わっていたかもしれないのだ。
でも、もう証拠もないし、相手が諦めてくれたことなので、深追いするのはやめようと思う。
薄暗くなってきて、キャンプファイヤーの周りで花火が始まった。
手持ち花火も配られているみたいで、中央が明るくなっている。
わたしは新の肩にもたれかかった。
「やっと終わったなぁ・・・。」
そうぽつりとつぶやいたら、肩に腕を回された。
ドキドキしながら顔を上げる。
「いいの?見られるかもよ?」
「みんな花火見てるし、こっちは暗いし、いいだろ。」
新は咳払いして続けた。
「あのさ、さっきの舞台だけど」
「あ!やっぱり怒ってる!?」
「違くて!その、将来の、ことだけど・・・舞台で、勢いで言った、みたいなのじゃなくて、ちゃんと、言うから。」
『将来のこと』と言われて、さっきの舞台上の一幕を思い出す。
そういえば、役とはいえ、プロポーズみたいなことしちゃってた!
思い出し、また顔が火照ってくる。
「だから、待っててな。」
「後でって、そういうこと?」
「まあ、それもあるけど・・・」
新が顔をのぞきこんできた。
まっすぐで、誠実な瞳と目が合って、ああ、そういう雰囲気だな、と察する。
目を閉じて、唇を重ねる。
前世の重りが、ふっと軽くなったように感じた。
自分を縛っていた鎖が、消えていくような感じ。
これから、わたしはわたしとして生きていく。
そしてわたしは、目を開けた。




