八 かがやくものは②
焼きそばもイカ焼きも食べてお腹いっぱい、と思いきや涼也はまだ食べたいと言ってもう一度屋台に行くらしい。さすが食べ盛りの男子と思っていたら、思いがけず希湖もかき氷がほしいからついて行くと言う。デザートは別腹らしい。新もちゃっかり、涼也に自分の分をお願いしていた。
「優姫は?かき氷食べない?」
「わたしはいいや~。」
さっき食べた分がお腹に出ていないか気にしながら返事をする。
涼也と希湖はすんなり手をつなぎながら、浜辺へ歩いて行った。
その姿を見送って、わたしはすっと新の隣にぴったり座った。
周囲はにぎわっているけれど、パラソルの下にいると、少しだけ、二人だけの空間になっているように感じて、少しドキドキする。
新は何か考えているのか、じっと海を見つめている。
わたしも同じように海を見ながらぼんやり考える。
前世のこと、マコトのこと、将来のこと、色々悩んできたことが、果てしなく広がっている海を見ていると、波と一緒に消えていくような気がした。
いつか、この広い世界で、また、雪にも会えるといいな。
そんなことも、ふと思った。
「そういえば、進路調査票は、結局なんて書いて出したんだ?」
ふと、新から聞かれて、わたしも「ああ」と返した。
「とりあえず、進学、とだけ書きました。まだまだ勉強した方がよさそうということだけは確実だったので。それで、これから時間割を自分で自由に組めそうな大学を探そうと思っています。」
「なるほどな。いや、俺、海とか山とかで働く仕事に憧れてた時もあったなーって思い出してさ。」
わたしは驚いて新を見上げた。てっきり、ものごころついた時から演劇一筋だと思っていた。
新は相変わらず海を見ている。
「さっき海で迷子になった話しただろ。その時、助けてもらった兄ちゃんのことを純粋にかっこいいなと思って、俺も兄ちゃんみたいになる!なんて言ってたんだよな。」
そんな新を想像して、可愛くて思わず笑ってしまう。
「でもさ、実際に自分がそういうところで働く姿を想像しても真似しても、なんかしっくりこなくて。それで、学校でちょっとした小芝居をやるってなった時に、あ、俺って、演劇の方が好きだって気づいたんだ。」
「そうなんだ。」
「だから、優姫もさ、決めた道を必ずたどり着かなきゃって思わないで、途中で変えるっていうこともありだと思うぞっていうのを、言いたかった。そういう意味では、たくさん学べることがある大学に行くっていうのは、すごくいいと思う。」
「ありがとう。」
「・・・よし、泳ぎに行くか。」
新は気恥ずかしくなったのか、ゴーグルをつけて立ち上がった。
「わたしはここで見てるね。」
「えっ。じゃあ、やっぱり・・・。」
「泳いできていいよ。体動かしたいんでしょう?」
新は少し迷っていたけれど、ここで遠慮する関係でもない。
「すぐ戻るから。」
そう言って、海へ走っていった。
本当なら、引き留めたほうが可愛げがあるのかもしれないけれど、お互い素直に、我慢しない関係性が気に入っている。
小さいけれど、新が泳いでいる姿が見える。
平泳ぎ、クロール、毎年来ているからか、泳ぎが上手な気がする。
そろそろ二人も戻ってくるかしらと周りを見回すと、二人組の男性と目が合ってしまった。
すぐに目をそらしたけれど、口元がいやらしく笑った気がして、気持ちがざわざわする。
さりげないふりを装って、海の方へ歩き出す。
人を探すふりをして確認すると、やはり、さっきの二人組がついてきているようだった。
少し歩みを速めて、泳いでいる新を目指す。
もう振り返るのも怖いので、ひたすら突き進んでいたら新も気づいてくれた。ゴーグルを外してこちらに向かってきてくれている。
ざぶざぶと波をかき分けて近づく。
「どうした・・・わっ」
勢いで新の首に腕を回して抱き着いた。そのまま振り返ってさっきの男性を探すと、途中であきらめていたのか、別の女性グループに声をかけているところだった。
ふうっと体の力を抜いたら「何かあったか?」とぎゅっと抱きしめられた。
前を向けば、心配そうな新の顔。
んんん!なんかデジャヴ!
わたしは慌てて腕をほどいて、新の胸元を軽く押したけど、初めて直で触れた感触にまた手が泳いで、目も泳いだ。
「す、すみません!なんか、ナンパかもって思って、慌てて逃げてきて、勢いで、こう」
「そうか。やっぱり一人にするべきじゃなかったな。ごめんな。」
またぎゅっとされて、慌てて腕を離そうとするけれど、腰に回されてほどけない。
「進展したいってこういうことかと思った。」
「えっ、ちがっ、いや、ちがわないけど、えっと」
「覚えてろって、言ったよな?」
新の顔が近づいてきて、思わず目をぎゅっとつぶった。
こん、と頭どうしでぶつかる感触がして、腰に回されていた手が、わたしの手に移動した。
「はははっ、からかい返し。ここじゃしないから。」
「も~~~!」
「顔、真っ赤だな。」
恥ずかしくて、つないでいない方の手で海水を自分の顔にかける。
「もっとかけてやろうか。」
ざぱんっと勢いよく水しぶきがあがった。
「わぷっ。わたしだって!」
と頑張って腕を振ったつもりなのに、新の半分以下の水しぶきしか上がらない。
「かわいいな~。」
結局、新にめちゃくちゃびしょ濡れにされて海からあがった。
パラソルに戻れば、もう涼也がとうもろこしにかじりついていた。
わたしも、希湖に少しかき氷をもらう。
休んだところで早めに撤収。
女性陣は身支度が大変だろうと配慮してもらったので、お言葉に甘えて片付けも新と涼也に任せることにする。
本当は希湖と喋りたいことが山ほどあるのだが、待たせるのも悪いのでテキパキ整えていく。
髪の毛も生乾きだけど仕方ない。濡れたところが服にあたらないようにお団子にまとめる。
メイクも軽く整えて、希湖とお互いにチェックをして急いで二人のところに戻った。
「お待たせしました~。」
二人で頭を下げながら近づく。
「そろそろ電車着そうだよー!」
涼也の声で急いで駅に向かう。
さすがに乗ってすぐは座れなかったけれど、しばらくしたら四人並んで座ることができた。
そして、遊び疲れて希湖、涼也、新と順番にうつらうつらし始めた。
隣の希湖の頭と、新の頭が両肩にもたれかかってくるおかげで、わたしはどうにか意識を保つことができた。
希湖と涼也を最寄り駅に着く手前で起こす。
「ふわぁ。ごめんね、優姫。わたしもたれかかってたね。」
「いいよ。涼也も起きた?」
「うぉー、なんとか。」
涼也が大きく伸びながら起きた。一応、新にも声をかけておく。
「新、希湖と涼也はここで降りるよ。」
「んうぉっ、寝てた!?」
その反応が面白くてくすくす笑ってしまった。
「優姫は?降りないの?」
希湖が聞いてきた。
「うん。今日は夕飯まで新と食べるから。」
「そっか。じゃあ、また、クラス準備で会おうね。」
「新先輩、今日ありがとうございました。」
涼也が律儀に頭を下げている。新は笑いながら手を振った。
「いやいや、俺こそ誘ってもらってありがとう。楽しかったよ。」
希湖と涼也が電車を降りていった。二人とも、最後まで手を振って見送ってくれた。




