八 かがやくものは①
「本当に、きちゃった・・・。」
わたしは、目の前に広がる景色に改めて言葉を失った。
たくさんの人々、色とりどりのビーチパラソル、香ばしい屋台の匂い。
何よりも、足元のざらつく砂の感触と、目が焼けそうな海の輝きが、鼓動を高めて仕方ない。
「来ちゃったねぇ・・・。」
隣に立つ希湖も、海に見入っていたけれど、頭を振ってわたしの手をとった。
「早く行こう。涼也君と新先輩、待たせちゃってるかも。」
「う、うん。」
人込みを縫いながら、わたしはつい先日のことを思い返す。
陽太とのわだかまりが解けたと思ったら、希湖から突然「今から家に行っていい?」とメッセージが来た。いったい何事かと思って部屋に迎えたら、なんと、涼也に告白して付き合うことになったという報告だった。
希湖がひとしきり「緊張した、幸せでいっぱい、夢じゃないよね?」と繰り返し騒ぐのを受け止めた後、「じゃ、ダブルデートで海に行こう!」と言い出したのはさすがに驚いた。
「待って、涼也はそれでいいって言ってるの?」
「これから聞いてみるけど、まずは優姫からかなって思って。」
希湖から上目遣いでお願いポーズをされる。
「お願い!夏っぽいことはしたいけど、わたし、海水浴って行ったことなくて、でも、人数いればなんとかなりそうじゃない?」
「すごくテキト―・・・。でも、新先輩忙しいし、予定合うかわからないよ?そもそも、ダブルデートをOKしてくれるかどうかもわからないし。」
「聞いてみて!お願いします!」
希湖も頼み込んでくるし、わたしもちょっと『海でデート』というのに惹かれないこともなかったので、新に電話してみた。
すると、意外にも快諾してくれた。何でも、新のお母さんが超アクティブな人で、夏が来るたびに海・山・川に連れまわされているらしい。ただ、今年は新が劇団の練習体験などで家族との予定が合わなかったそうだ。だから、わたしから誘ってくれたことを喜んでくれた。
「優姫は俺が忙しそうだからって遠慮しそうだからさ、嬉しいなぁ、優姫から誘ってくれるの。」
そう言われて思わず頬が緩んでしまった。
希湖と涼也も一緒であることも、了承してくれた。二人が付き合ったことにも驚いていた。
ひとまずわたしの方は通話を終えて、今度は希湖の番。
電話越しでも頬を赤らめながら話をする姿が可愛いなと思いながら眺めていたら、あっという間に了解を取り付けて通話をきった。
それから四人の予定をすり合わせ、よさげな海水浴場を新に教えてもらい、希湖と水着などを買いに行き、あっという間に当日になった。
集合場所に戻ってくると、新と涼也がもうビーチパラソルとレジャーシートを広げて待っていてくれた。
「ありがとうございます。準備手伝えなくてすみません。」
「気にするな。あと、今日は敬語はなしって言ったろ。」
新に軽くデコピンされて、おでこをさする。
「そうで・・・そうだった。」
「あと、水着似合ってる。可愛いな。」
「あ、ありがとう。」
ストレートに褒められて頬が熱くなる。よく見れば、新も耳が真っ赤だ。
希湖と何時間も悩んだかいがあったと、内心ガッツポーズをする。可愛く見せたいけれど、布面積は残して置きたいのに可愛いやつは面積が小さい!二人でどうにか恥ずかしさ最小限で可愛いものをえらんだのがこのデザインだ。胸元と腰回りにフリルがあって、隠しつつも華がある。わたしは青のグラデーションで希湖はオレンジのグラデーションのカラーにしておそろいにした。ただ、お腹はばっちり出すので、悪あがきとして二人でおやつと夜食を食べないように気をつけて今日をむかえた。ちなみに、髪型も二人でおそろいにし、ポニーテールにした。
ちら、と隣を見れば涼也と希湖は向かい合わせになってお互いもじもじしている。新がみかねて涼也のことを小突くと、やっと「希湖も、水着似合ってて・・・か、か、かわぃぃ・・・」と小さい声で言えた。
「よし!じゃあ、まずは準備運動だな!」
経験者として新が号令をとってくれる。
足を伸ばしながら、新をちらと見る。見ちゃう。
意外と身体が引き締まっていらっしゃる。
マッチョ、ではないけれど、だらしなくもない。
あまり見るとわたしまでむっつりだと思われるので、足元の砂に集中する。
「これぐらいかな。じゃあ、早速入るか!」
新の方がはしゃいでいるように見えて、ちょっと可愛いと思ってしまった。毎年家族で行くくらいだもの、新もアウトドアが好きなのだろうな。
「優姫っ、行こうっ」
「えっ、あっ、ちょっと」
希湖に手を引っ張られて小走りで砂浜を駆け出す。
少し離れたところで立ち止まって小声で話す。
「どうしよう~~~いざ向かい合うとやっぱり緊張する~~~。」
希湖は頬を押さえて頭を振っている。こういう仕草を涼也の前でもやればいいのに、もったいない。
「海行きたいって言ったの、希湖じゃないの。」
「そうだけど~~~体育男子って、水着姿もかっこいい~~~!」
「のろけ?のろけね?も~だいたい、デートなんだから相手を置いてきちゃってどうするのよ。」
「ちょっとずつ慣れないと心臓がもたない!」
そうやって話していたら新と涼也も追いついてきた。
「ちょっと、置いていくなよ。」
新に言われて、わたしは「ほらね」と希湖を軽くにらむ。
「今日つなぐのは、こっちだろ。」
新に手を取られて軽く引っ張られる。涼也も同じタイミングで希湖の手を取る。
すると、全員で手をつなぐ感じになって、思わずみんな吹き出してしまった。
「せっかくだから、このまま一緒に入るか!」
新が言って、足先から少しずつ水に触れていく。
砂が足の間に入っていく。波しぶきが太ももにかかって、一瞬ひやっとしたけれど、それも心地よくなっていく。潮の香が全身にふりかかってくる。
「うわぁ・・・」
腰までつかって、思わず声がもれた。
「まだ奥まで行けるか?」
新に言われてちょっと遠くを見回す。
「うーん、泳げるけど、ちょっと・・・」
「そぉりゃっ」
いきなりざぱっと音がして水しぶきがあたった。
見れば、涼也がしてやったり顔で笑っていた。
「先手必勝!」
「やること小学生かっ」
新が負けじとやり返す。
希湖が間に挟まれてびしょびしょになっているけど、楽しそうに笑っている。
それから、みんなで水をかけあったり、ビーチボールを投げ合ったりして遊んだ。
ビーチフラッグスもやった。三本勝負で総当たり戦。新と涼也は運動部の意地で涼也が二対一で勝った。わたしと希湖は毎回タッチの差だったけれど、わたしの勝ち。砂浜を走るのは足を踏み込むのが難しかった。男女でやる時は距離でハンデをつけたけれど、運動部と経験者の意地で勝たれてしまった。
たくさん動いたので、お昼ご飯を食べることに。
わたしと新は焼きそばを、涼也と希湖は屋台で一品選んで買ってくることになった。
束の間の二人時間だ。
新が自然に手を出してくれたので、わたしも迷わず手をあずけるついでに、指を絡めてみた。
新の顔がぱっと振り向いて自分の手とわたしの顔を見比べて赤くなった。
少し不安になって、一応聞いてみる。
「こういうの、人前でやるのは苦手?」
「いや、ちょっと、びっくりしただけ・・・こっちもこれくらいしないと、あっちも進展しなさそうだしな。」
ちら、と見ると手をつなぎながら、前ばかり見て歩いている涼也と、ちょっとうつむいて歩いている希湖の姿が見えた。恥ずかしがって、小学生かしら。どことなく、周りのお客さんもほほえましく見ている感じがする。
わたしは新を見上げて言った。
「わたしは、新とも進展したいと思ってるよ。」
「ん?・・・ん!?え!?」
「さ、焼きそば屋さん混みそうだし、行きましょー!」
動揺している新を引っ張りながら歩き出す。
「・・・からかってるだろ。」
軽く肘で小突いて、恥ずかしいのをごまかそうとしてくる。
夏休みに入ってからも、部活の後一緒に帰ったりするようになって、わたしもだいぶ慣れてきた。
「そうだよ。」
「っ~~~後で覚えてろよ。」
案の定、焼きそば売り場は混んでいた。
いい香りにお腹を空かせながら、なんとか四つ買って戻ると、談笑している希湖と涼也の姿が見えた。
二人きりになっても、リラックスできるようになってきたのかなと思って少し安心した。
「すまんな、遅くなった。」
新が声をかけると、涼也が答えた。
「全然。俺たちも今戻ってきたところなんです。」
「迷子の子を見つけて、ライフセーバーさんのところに送ってたんです。」
「それはお疲れ様。」
ねぎらいつつ焼きそばを渡していく。
足元の紙皿にはイカ焼きがのっていた。
「すんません、肉と迷ったんですけど、匂いが良すぎて・・・」
涼也がお皿をすすめてくる。
「いや、ありがとう。めっちゃおいしそうじゃん。」
新が早速「いただきます」と言ったのを合図に、それぞれ食べ始める。
新が海水浴で迷子になった話をしたら、涼也もキャンプで迷子になった話をしてみんなで笑ったり、小学校の夏休みの思い出を話し合ったり、和気あいあいと過ごした。




