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六 進んでみる②

 そうしているうちに、電車が目的地に停車した。

 改札を出ると、すぐに劇場っぽい看板が目についた。

 その建物の隣には居酒屋があって、またすぐ劇場があって、レトロっぽい雰囲気の街並みだった。


「雰囲気のある町ですね。レトロっぽくてお洒落。」

「いいよな、こういう雰囲気。今日行く劇場はこっちな。」


 新が歩き出した方についていく。

 歩きながら見ていくと、古着屋や書店、雑貨屋さんなども並んでいた。


「お店も多いですね。探検したくなっちゃう。」

「あぁ。今度は開演前にこの辺回ってから行くのもいいな。」

「いいですね。」


 今度はいつ、一緒に行けますか?

 それを聞くのはまだ早い気がして、ぐっとこらえて街並みを眺めることに意識を向けた。


 十分歩いていないくらいで、劇場に着いた。新からチケットを受け取り、受付で半券をもぎってもらうとパンフレットをくれた。厚みがあるなあと思っていると、他の公演のチラシがたくさん挟んであった。


 ホール内は小ぢんまりとしていて、階段状になった床に椅子が並んでいた。中央付近でまだ空いているところがあったので、そこに並んで座る。席に着くと、新は挟んであったチラシを見始めた。きっと、これが開演前のルーティンなのだろう。わたしも邪魔をしないように、パンフレットやチラシを見ていた。


 他のお客さんで席が埋まり始めた頃、開演の合図の音が鳴り、諸注意がアナウンスされると照明が落とされた。

 スポットライトが一人の俳優を照らした。

 舞台の内容はコメディだった。男性が一枚の映画のチケットを拾ったところから、警察官や落とし主、スリの常習犯などが出てきて、てんやわんやする話だった。


 さすがプロ、というべきかすぐに話に引き込まれてしまって、声を出して笑ったり役者さんと一緒に息をつめたり、とても楽しかった。

 新を時々ちらと見ると、やはり同じところで笑っていたり、時には何か観察しているような目で見ていたりしていた。やっぱり、演劇好きは観点がちがうのかなぁと感じた。


 カーテンコールで心をこめて拍手を送り、劇場を出てすぐ「面白かった!」と新と顔を見合わせて笑った。


「優姫も楽しんでくれてよかった。」

「はい!とっても面白かったです!特に、あの俳優さんの演技が、ええと」


 お名前がとっさに出てこなくて、パンフレットをめくろうとしたら、新が肩をすっと抱き寄せてきた。そして、わたしのすぐ横を自転車が通り抜けていった。

 

「わ、す、すみません。」

「いや、さっきの自転車、携帯見てたぞ。」

「でも、わたしも不注意でした。」

「ま、それで?誰が気になった?」


 肩の手がすっと離れた。

 こういうのも、きっと無自覚なんだろうなあ!と荒ぶる心臓を抑えながら、俳優さんを確認するとパンフレットをしまった。


「ああ、この俳優いいよな。表情もそうだし、身体全体で演技してるというか。」

「はい、惹き込まれちゃいました。劇場で見ると、距離も近くて、肌感覚が違いますね。」

「だよな!」


 劇を見終わった新は、興奮しているのか笑顔がいつもより輝いている気がした。まあ、多分、わたしの好きフィルターもかかっているかもしれないが。

 電車に乗っても話は尽きなかった。帰りは一緒にドアの近くに立っていたが、次第に乗客が増えてきてさすがに会話も難しくなってきた。

 映画館のある駅でどっと人が増えて、わたしは壁にぴったりくっついた。すぐ前に新が立って、わたしがつぶれないように腕を張ってくれている。


「優姫、大丈夫か?」

「大丈夫です。ありがとうございます。」


 そう、人込みは大丈夫なのだが、この思いがけない至近距離が全然大丈夫じゃない。今顔を挙げたら多分真っ赤になっている。

 でもどうしよう、このまま電車で解散かしら。さっきの劇の感想、まだ言いたいことがあるんだよね。家に帰ってメッセージのやりとり?ううん、それより、この熱量のままお喋りしたい。誘ってみようかしら。言わずに後悔するより、はっきり断ってもらった方がまたふんぎりがつく。


 わたしは意を決して、新の服の裾をくいくいっと引っ張った。

 すぐに気が付いて、顔を合わせてくれる。

 わたしは小声で話しかけた。


「あの、もし時間があれば、もう少し、あの喫茶店で、お話がしたいです。」


 新は一瞬目を丸くさせて、口元を押さえると「いいよ、俺も話したかった」と返してくれた。


「じゃあ、次の次の駅ですね。」

「ああ。」


 わたしは笑顔でうなずき返して、視線を足元に落とした。そうでないと、どんどん緩んでいく口元を見られてしまいそうだった。

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