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五 思い返すと⑤

 そんなやりとりをしながら、希湖の家に着いた。

 スーパーへと歩いていく二人を見送って、わたしはインターホンを鳴らした。

 すぐに希湖のお母さんが出迎えてくれて、わたしは挨拶をして入れてもらう。希湖も階段から降りてきて、さっそく二階の自分の部屋へ案内してくれた。


 希湖は一人っ子で、お母さんとお父さんと暮らしている。わたしが泊りにお邪魔すると「姉妹ができたみたいだわ」と言ってよくもてなしてくれる。うちの母親同士の仲もいいらしい。


 美味しい夕飯と温かいお風呂をいただいて、わたしと希湖は夜更かしのための飲み物とお菓子を持つと希湖の部屋へ戻った。

 

 希湖の部屋はピンクと水色を基調としており、ぬいぐるみがあちらこちらに置いてある。それぞれ可愛らしい服を着ているのは、希湖のお手製なのだろうなと推測する。もちろん、カリンちゃん人形の一角もあって、机には布や型紙が出しっぱなしになっていた。本棚には少女漫画の背表紙が並んでいて、映像化された作品もあった。ふわふわのカーペットに座り込み、炭酸の蓋をあけてグラスに注ぐと軽く乾杯した。


「ひとまず、決着をつけられてよかったね。」

「うんきっぱり断ったはずだから、もう近づいてこないと思う・・・のだけど。」

「柊悟君が言っていたこと、気にしちゃうよね。」


 希湖はポテチを咀嚼してから言った。


「でも、また来たらさ、新先輩に守ってもらえばいいんじゃない?」


 あやうく飲んでいた炭酸を吹き出すところだった。


「ただの部活の先輩にそこまで迷惑かけられないよ。そもそも、新先輩は受験もあるし。」

「じゃあ付き合っちゃおうよ。もう向こうは高校生活残り一年切っちゃっているんだよ。夏休みもすぐそこだよ。」

「それを言うなら、希湖だって、そろそろ涼也に告白してもいいんじゃない?」


 わたしがまぜっかえすと、希湖は頬を赤らめた。


「へへ、それが、実はね、最近ちょっといい感じなの。」

「え!?そうなの?」


 希湖は近くにあったもちもちのクッションに顔をうずめてうなずいた。


「あのね、優姫とムーンバックスに行って、マコト君と会った帰りに涼也くんに家まで送ってもらったでしょ?それをきっかけに、最初は優姫の話ばかりだったけど、だんだん色んな事直接やりとりするようになってきてるんだ。お弁当も、今度作る約束したし。」

「はぁ~やっとそこまで進展したかぁ。もう、中学の時からの仲なのに、ずっとわたしがいる時じゃないと話しかけにいかなしい。携帯持つようになってからでも、グループの中でしかやりとりしてないみたいだし。」

「だってぇ、何を話しかけたらいいのかわからなかったんだもん。そうだそうだ、優姫はどうして新先輩が好きだなって思ったの?きっかけは何?」

「きっかけは・・・多分、マコトに絡まれていたのを助けてもらった時だと思う。」

「抱きしめられてドキドキしちゃった?」

「だっ、抱きしめられてはいないよ!?ただ、倒れちゃったのを支えてもらっただけで」

「彼女が襲われているところを、さっと助けて、抱き留める、あぁ!シチュエーションだけでもかっこいい!」

「ねえ、聞いて?」

「あ、ごめんごめん。それで?」


 希湖が勝手にどこかへ行ってしまいそうになるのをどうにか戻す。


「それで、そこから新先輩のことを見ると心臓がぎゅってなったり、照れた顔が可愛いと思ったりするようになったの。それでね、新先輩のことをもっと知りたいって思うようになったの。ねえ、これって、恋ってことでいいんだよね?」

「恋だよ!え!?もしかして、初恋!?優姫、かわいい~!」


 希湖にされるがまま抱きしめられる。

 改めて、言葉にして他人に認められたことで、心の奥が温かくなって浮足立つのを感じた。

 希湖はわたしから腕をほどくと、お菓子をつまんだ。


「でも、新先輩なら親友としても安心感あるなあ。誠実そうだし。」


 わたしもお菓子をつまみながら話す。


「そうだよね。裏表がないって感じ。あと、ありのままのわたしを受け止めてくれるところも・・・その・・・好きで。」

「わかる!そこ大事だよね!」

「希湖が涼也のことを好きになったのも、カリンちゃん人形絡みだったっけ?」

「そうだよ。中学一年生のときにさ、女子の上位グループから目をつけられちゃって、もう中学生なのにまだお人形遊びなんかしてるの?って絡まれたんだよね。ほら、わたし、最初は休み時間も一人で服とか作ってたじゃない?その女子たちに型紙とか取られちゃって、囃されてたところに涼也君が割って入ってくれたの。」


 希湖は目を閉じて、嬉しそうに話した。


「リーダーの女子にさ『人の好きなものを馬鹿にしてる方が、よっぽど子どもだな』って言って、型紙取り返してくれて、わたしが作ってた服を見て『こんなもの作れるなんて、天才だな』って笑いかけてくれて、もう、いっきに、ずぎゅーんと。」


 実は、この話はもう何回か聞いていることなのだが、いざ、自分が恋をしてから改めて聞くと、すごく共感できることがわかった。


「わたしと話すようになったのも、それからだもんね。」

「そうだよ~。だから、涼也君はわたしにとってヒーローなんだよね。」


 怒りん坊の暴れん坊だった頃から知っているわたしからすると、涼也がそう思われていることに感慨深くなってしまう。


「それで?いつ告白するの?」

「・・・・・・・・・どうしよ~!?」


 たっぷり間を開けてから、叫びながらクッションに顔をうずめた。


「だってさ、もしさ、ダメだったらさ、あと一年半もどんな顔して会えばいいのかわからなくなるし、あっちもさ、そんなの気まずいだろうし、そもそも、わたしのこと、ほんとに何とも思ってなかったら、告白すること自体が恥ずかしいし」

「でも、夏休みもすぐそこなんでしょ?」

「ぐぅ」


 ブーメランを返してあげると、希湖はクッションを抱えたまま寝転がった。

 そのまま考え込んでいるようなので、少しそっとしておく。

 

 白雪も、最初はこんな感じだったのだろうか。

 ふと、そんなことを考えた。

 王子に助けられて、白雪もときめいたことがあったのだろうか。


 わたしは、仕事で忙しくしている姿しか知らない。王子が他の女性と関係を持ち始め、泣いている姿しか知らない。うつろな顔で、暗殺計画を阻止しようとしている姿しか知らない。

 思い返してまたマコトに腹が立ってきたので、慌てて振り払う。

 雪が今生こそ、いい人に出会って、幸せになりますように。


 そして、わたしも新と・・・って、そんな、まだ相手の気持ちも知らないで、考えてどうするんだ。


「そうだ!優姫、今日のことは新先輩には話したの?」

「えぇっ!?」


 ちょうど姿を思い浮かべたところに希湖に話をふられて、思わず大声が出た。


「さては、自分のことを考えるのを後回しにしたな?」

「だって、今日は優姫と新先輩の話がメインだもの。」

「メインって・・・。」

「ね、今から電話してみれば?」

「えぇっ!?」


 また大声が出てしまった。急に鼓動が速くなっていく。

 携帯で時計を見れば、ぎりぎり二十一時は回っていない。


「大事な報告だし。直接お話した方がいいんじゃない?」


 希湖はぐいぐい押してくる。


「でも、夜だし、電話は迷惑じゃない?」

「じゃあ、お話したいんですけど、今は大丈夫ですか?ってメッセージしてみれば?」

「えっ、待って、電話、今、ここで?ほんとに?わざわざ?」

「好きな人と電話って、すごく萌えるシチュじゃん。」

「それなら希湖が涼也にかければいいじゃん。」

「涼也君は、今希湖がうちに来てること知ってるから、それこそ何してんの?って思われちゃうじゃん。」

「自分のときめきに、わたしを利用しないでよ。」

「でも、さっきからメッセージ画面開いてるじゃん。」


 わたしは思わず言葉につまる。


「本当は、新先輩の声、聴きたいんじゃないの?」


 本心を指摘されて、完敗した。


「メッセージ送って、十時過ぎても返信なかったら、学校で直接話しますって送りなおすからね。」

「よっし。」


 わたしは本文を入力すると、目をつぶってえいっと送信ボタンを押した。


「どうしよう?本当に送っちゃった。こんな夜に、常識ないって思われたりしないかな?」


 希湖はわたしの肩をぺしぺし叩きながら笑った。


「送ってから心配にならないでよ。もう、優姫って恋すると面白くなるのね。」


 わたしは首をかしげた。

 そんなわたしを見て、希湖はにこにこしている。


「優姫は誰にでも優しくてさ、周りのことをよく見てて、しっかりものっていうか、達観している感じ?だったけど、最近は、悩みもあるし、照れたりもするし、優姫も女子高生なんだなって思うよ。」

「わたしはずっと希湖と同い年なんだけどな・・・」


 喜んでいいのか、複雑に思っているところに、着信音が鳴った。しかも、この鳴り方は電話だ。

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