五 思い返すと④
そんなこともあったけれど、あっという間に土曜日になった。
短期間ではあったけれど、同級生や先輩からの証拠も集められた。立ち向かう準備は万端だ。
練習を終えて、育に帰りを誘われたけれど、今日は予定があるからと断った。
希湖と柊悟は土曜の部活動はないので、わたしと涼也だけで教室でお弁当を食べる。
あえてマコトの話はせずに、涼也の部活の先輩の愚痴や、テレビの話題などで時間をつぶす。
時間になったのでファミレスに向かうと、お店の前で希湖と柊悟と陽太と楓賀が待っていてくれた。
「なんだ、陽太もいるのかよ。」
涼也が軽くこづくと、陽太が睨み返した。楓賀がおろおろしているけれど、陽太はかまわず言い返す。
「大切な人の一大事だよ。見届けないわけがない。」
「優姫、本当に離れた席の方がいいの?」
希湖が心配して聞いてくれたけど、前世の話をする以上、あまり聞かれてほしくないし、多分マコトもわたしだけの方が本音が出るはずだ。
「大丈夫。何かあったらすぐ呼ぶから。」
席を分けるため、先に五人だけで入ってもらう。
わたしが後から「待ち合わせで二人です。」と伝えると、もしかして、と案内された方をみるとすでにマコトが窓際の席に座っていた。
希湖たちの姿を探すと、中央寄りの席にいて、二席は離れているけれど、お互いに姿を確認できる場所だった。お昼のピークを過ぎたからか、客数もまばらだった。これなら、落ち着いて話ができそうだ。
「お待たせしました。」
わたしが声をかけると、マコトがぱっと顔を上げた。
「ああ、心待ちにしていたよ。ドリンクバーを二つ頼んでおいたんだ。先に持ってくるといいよ。」
わたしはウーロン茶を手に持って、マコトの前に座った。
「さて、何から話そうか。」
「そうね・・・まず、わたしが亡くなった後のことが聞きたいわ。」
「わかった。まず、端的に言えば僕らの国は隣の国に攻められて負けた。そして、僕も妃も、息子も大臣家族も、処刑された。」
なんとなく、想像はついていたが、改めて聞いてため息が出た。
「どうしてそうなったのかも聞かせて。」
「うーん。色々あったけど、一番痛手だったのは、貴族も民もみんな逃げちゃったことかな。君が亡くなってすぐだよ。大臣側以外の貴族はみんなこっそり出て行っちゃった。中には隣国に行って戦争の手引きをしたやつもいたみたい。民も民で、貴族付きのメイドとかから噂が広まって、半分以上はいなくなったかなあ。」
「そうなのね・・・。それで、どうしたの?」
「うーん、大臣たちが新しい女王の戴冠式を盛大に開いて、残った民に金貨を配ったり、新しい薬品を開発したりしてみたけど、まあ、残ったやつらが無能だったからね。全然人が戻ってこなかったよ。妃も貿易相手からなめられてぼったくられるしさ。いやあ、君を女王からおろしてしまったことを後悔した日はなかったね。」
言い返したかったけど、まずはマコトの話を聞く番だ。わたしは気持ちを静めながら話をうながした。
「あなたは、何もしなかったのですか?」
「あ~まあ、交渉はしたよ?でも、そもそも女王制だから、色々な権限は妃にあったし、というか、アレも浪費家で大変だったよ。自分の周りをイケメン執事で固めてさ。顔さえよければ出自の怪しいやつも雇ったりしてさ。残ってくれた兵士も顔でえこひいきするから、隊卒もとれなくなっていくし。」
「そこを、攻め入れられたのでしょうか。」
「そうだね。ほぼ内乱にも近かったかなあ。敵が来たと知れると、味方の兵士がどんどん寝返ってあっという間に捕まっちゃった。処刑は怖かったよ。ほんとに。民衆からは石を投げられるし、みじめだった。もう二度と味わいたくないね、あんな思いは。」
下唇を噛んで耐える。
「・・・前世を思い出して、どうですか?」
「あぁ?うん。まあ、僕はやっぱり選ばれた者だったんだなと思ったね。家は金持ちだし、僕自身のルックスも頭脳も上等だし。僕は完璧な人間だ。あとは、未来の伴侶に完璧な姫が戻ってきてくれれば、ね」
目を合わせてほほ笑まれて、ぞぞぞっと悪寒がはしった。
「いい加減にしてください。」
思っていたより、低い声が出た。
「女王制だったから、自分に何の責任もないというのですか。自分だけ責務から逃げて、周りのことばかり悪く言って、無能なのはあなたじゃないですか。白雪の代からそうですよね。自分はもとの国で政治のことは学ばせてもらえなかったから、軍の指揮だけすると言って、結局その軍も隊長任せで上辺だけ。白雪がかまってくれなくてさみしくて浮気したと言っていましたが、白雪のことを忙しくさせていたのはあなたですよ。あなたが全ての元凶です。」
「何を言うんだ。僕がいなかったら、君は死んでいたんだよ。元凶だというなら、あの母親のほうだろ。」
心臓が跳ねた。隠していた罪悪感が、むくむくと大きくなって体を締め付けていくようだ。
元凶。本当に悪いのは、わたし。
でも、今は違う。今度こそ、間違えない。償うのだ、現世で。
「では、生まれ変わったあなたは、わたしに何をしてくれるのでしょう。」
「全てをあげるよ。お金も、地位も、それから、愛も。」
マコトがテーブルの上で手を伸ばしてきたので、パチンとはたいた。
「冗談もたいがいにしてください。あなた、たくさんの女子生徒に声をかけていますよね。」
「・・・なんのことかな。」
「とぼけても無駄です。彼女たちのメッセージもスクショさせてもらいましたから。」
わたしは短い休み時間や部活前に集めた証拠をマコトにたたきつけた。
マコトはため息をついて天井を仰いだ。
「あのねえ、これも人脈造りの一環なんだよ。これから上位階級として生きていく僕にとっては、社交辞令なんて山ほどあるの。本当に愛しているのは、君だけなんだ。」
「過去も反省しない、あなたの言葉なんて、一ミリも信用できません。誠意のない人をわたしは愛することはありません。改めて、あなたのことが大嫌いになりました。二度と関わらないでください。」
わたしはそう言い捨てると、お金を置いて立ち去った。
お店を出る間際、ちらとマコトを振り返ったが、茫然と座っているようだった。
希湖たちもすぐお店を出てきてくれて、一緒に歩き出した。
陽太が不満そうに言った。
「ねえねえ、席が遠くて話が全然聞こえなかったんだけど!ひどいこと言われなかった、大丈夫?」
しつこく腕をからめて聞いてくるので「大丈夫大丈夫」と繰り返した。
「ただ、中身は王子のままで、無責任で反省もしてないし、誠意も持ち合わせていない最低な人間だってことが再確認できただけ。おかげで、思い切り振ってきたわ。」
「よかったぁ~。さすが優姫姉。」
「振った後は、彼は何か言っていましたか?」
柊悟に聞かれて、首を横に振った。
「言ってすぐに出ちゃったから、何も聞いてないし、なんだか茫然としていたみたいで、何も言えなかったのじゃないかしら。」
そう言うと、柊悟は「ふむ・・・」と考え込んだ。
それから、みんなでお喋りしながら歩いて行った。
わたしは、マコトに全てを言った解放感で陽気な気分になっていた。
これで”白雪姫”は大丈夫だ。もう”王子”が近づいてくることはないだろう。みんな、みんなでハッピーエンドを迎えるのだ。
しかし、駅で柊悟と別れる時、少し重いトーンで言われた。
「優姫、もしかしたら彼は逆上してくる可能性がある。」
「えっそうかしら。」
「彼の性格からして、優姫の言葉を素直に受け止めたとは考えにくい。今日、彼と接近禁止の約束をするまで話し合いができればよかったけれど、話を聞くだけで限界だったでしょう。」
そう言われて反省した。自分が言いたいことだけ言って満足してしまっていた。
「ごめん、詰めが甘かった・・・。」
「いや、でもよ、向こうもこんなこと言われて、もういいやってなるかもしれねえし。」
涼也がフォローしてくれるけど、柊悟は納得いかない顔だ。
「大丈夫。あっちがまた何かしてきたら、こっちも迎え撃つだけよ。それだけ、優姫は強くなったんだから、ね?」
希湖も笑顔で言ってくれて、「ありがとう」と笑い返した。
「ま、ひとまずお疲れ様でした。」
柊悟はそう言うと、手を振りながら駅の方へ歩いて行った。
それから、わたしはいったん荷物を取りに家に帰った。私服に着替えて、これから希湖の家でお泊り会だ。どうやら、陽太と楓賀もうちでお泊り会をするらしい。
「楓賀君、今日はわざわざ来てくれてありがとう。」
「いっ、いえ、無事に済んで、よかったです。」
「うん。今日はゆっくりしていってね。」
楓賀はこくこくとうなずいた。
「希湖ちゃんちまで送っていくよ。」
そう言うと陽太も靴を履きだした。
「え、そこまでしなくていいよ。」
「いいからいいから。それに、今夜は僕と楓賀で夜ご飯作るから材料も買わないと。」
「なんか、陽太は朝は寝坊助だけど、所帯じみたところあるよね。」
「まあ、これくらいはね。あーあ、優姫姉にもご飯食べてほしかったなあ。ねえ、楓賀?」
「ひぇっ、えっ、う、うん。」
「何作るの?」
結局、流れで一緒に歩き出した楓賀に顔を向けると、もじもじしながら答えてくれた。
「は、ハンバーグです。」
「あぁ~いいな~。」
「あ、あの、よかったら、作って、残しておきましょうか。」
「いいの?やったー!」
「僕と楓賀と、両方食べてよ。」
「はいはい。」




