五 思い返すと③
翌日もいつも通りに登校すると、教室の前に新がいた。
後輩からの視線もものともせずに、相変わらず背筋を伸ばした立ち方に思わず見ほれた。わたしが来ると目を合わせて「おはよう」と声をかけてきた。
「朝からすまんが、部室まで来られるか?」
「はいっ。すぐ行きます。」
わたしは鞄を机に置くとすぐに新のところへ行った。そのまま、無言で階段をあがっていく。
多目的室のある階は教室がないので、朝は静かだ。その廊下で、新と向かい合うと、いきなり「すまなかった」と頭を下げられた。
わたしは慌てて手を振った。
「いえ!こちらこそ、育ちゃんに変な相談しちゃってすみませんでした。」
「いや、俺が不安にさせるような態度をとったのが悪いんだ。」
「いえいえ、わたしが思い上がっていたのが悪いんです。」
「いや、その原因も作った俺がやっぱり悪いから。」
「いえいえいえいえ、たった一日も我慢できないわたしが軟弱なだけなので。」
「いや、自分の心境の変化に追いつけなかった俺も軟弱だから。」
わたしがまた反論しようとする前に、新に手を取られて少し詰め寄られた。
「俺は、今まで優姫のことを上辺じゃないところも見てきたつもりだし、これからだって、ありのままを受け止めたいと思ってる。だから、今回も、素直なところを教えてほしい。」
まっすぐに言われ、わたしも観念して正直に言った。
「・・・少し、さみしかったです。」
小さい声だったけど。
新は軽く息を吐きだした。
「俺も、正直なところ、今まで構いすぎていたかもって気づいて、それで、なんか、緊張しちまってた。でも、優姫はいつも通りがいいんだな?」
「はい。その、できれば。」
そう言うと、新が手を伸ばしてわたしの頭を軽くたたいてなでてくれた。
たった一日分触れなかっただけなのに、それが嬉しくて顔がほころんでしまう。
「優姫から見て、俺は」
新が話しかけたところで、予鈴が鳴った。
「なんでもない。じゃあ、また部活で。」
言いかけたことが気になりつつ教室に戻った。今日の授業は昨日よりふわふわした気持ちで過ごしてしまった。ふわふわ過ごしているうちに、クラスの文化祭の出し物がお化け屋敷になっていた。
わたしの学校では、お化け屋敷やクイズラリー、軽食販売などの出店を各クラスごとに行う。ただし、三年生は進路の準備があるため、有志での参加となっている。
「優姫、大丈夫?お化け苦手じゃなかった?」
希湖に言われて、わたしはあいまいに笑った。わたしは中学の肝試しの時、ずっと目をつぶったまま希湖に手を引かれてゴールした経緯がある。
「驚かされるのが苦手なだけだから、多分、作る側なら大丈夫かな。」
「というか、多分、優姫は出演者側になりそう。」
柊悟に指摘されて、自分がお化け役になるところを想像する。
「う~ん・・・なんか、わたしがびっくりしちゃいそう。」
「なんでだよ。」
涼也がけらけらと笑った。
とりあえず、クラスの出し物は実行委員が中心になって考えてくれるので、手伝えることがあったら手伝うことにしようと思った。
部活の時間になって、朝に話した通り、新がいつも通り育をひっぺがしていつも通り肩をたたいて練習が始まって、チェックタイムも自分の方を見てくれて、帰りは一緒になれなかったけれど、すごく満たされた気持ちになれた。
こっそり、育にあらためてお礼を言うと「お兄ちゃんと優姫先輩の仲が良いのはわたしも大歓迎なので。また何かあったら言ってください。」と言ってくれた。




