五 思い返すと①
そして月曜日。わたしは儀式をやめた。鏡の前で、身だしなみチェックだけしてから部屋を出る。今日も学校がある、部活がある、新に会える。そう考えただけで、口元が緩んでしまう。
何より、来月はデートだ。新にその気はないと思っていても、二人でお出かけできると思うだけで浮足立ってしまう。今なら何が起きても飛び越えていける気がする。
とりあえず、普段通り過ごすことを意識しながら登校した。クラスメイトや前年度同じクラスだったつてを辿って、情報収集することも欠かさない。授業中もつい新のことを考えそうになるのをぐっとこらえながら、お昼休みになった。
いつも通り、四人で机をくっつけてお弁当を食べ始める前に、わたしはさりげなく聞いた。
「あのさ、今週の土曜の午後にマコトと話そうと思うのだけど、みんなの都合はどうかな?」
一瞬、間があったけれど希湖がすぐに携帯で予定を確認してくれた。
「土曜の午後ね、うん、大丈夫。行けるよ。」
「土曜部活の後だよな?俺も大丈夫。」
涼也もすぐに了解してくれた。
「僕も行くよ。万が一涼也が暴走したら止めないといけないしね。」
涼也が何か反論しようとしたけれど、希湖お手製の玉子焼きを口に入れられて黙る。
柊悟も了承してくれたので、わたしはすぐに立ち上がるとマコトの方へ向かった。
「マコト君、お話し中ごめんなさいね。」
数人に囲まれつつお昼ご飯を食べていたが、わたしが話しかけるとすぐに会話を中断して顔を上げた。
「君から話しかけてくれるなら、僕はいつだって耳を傾けるよ。」
「手短に済ませるから。今週の土曜の午後、ご都合はいかがかしら。」
「君の予定はどんなことより最優先さ。」
返答がいちいち気障っぽくて苛立ちを覚えたけれど、ここは流して話を進める。
「それじゃ、二時にグルーズに来て。言っておくけど、わたし一人で行く気はないから。」
「仰せのままに。」
そこでわたしは踵を返して席へ戻った。
希湖が目を丸くして言った。
「びっくりした。あっさり話しかけに行ったから。」
「もう覚悟は決めてあるしね。あ、場所はグルーズにしちゃったけど、大丈夫だった?」
それぞれうなずいてくれたので、ホッとする。学校の最寄りのファミレスなのだが、そこならほどよく人目もあって安全だろうと考えたのだ。ただ、駅と反対方向なので帰り道が少し遠くなる。
「もしかして、授業中ずっと上の空だったのはこれのせい?」
柊悟に言われて、軽くむせてしまった。
「え?わたし、そんなにぼーっとしてた?」
「なんていうか、ぼーっとしてはすぐ気を取り直すっていうのを繰り返してた感じ。」
「何か考え込んでいるなら、ため込む前に話しといた方がいいぞ。」
涼也の言葉で、ぱっと新の顔が浮かんでしまい、慌てて頭を振って消す。
「ううん、全然、そういう悩みってことじゃないから、大丈夫。」
「・・・恋ね。」
涼也と柊悟が同時に吹いた。希湖は自分の言った言葉に自分で納得してうなずいている。
「そっかー、やっと優姫にも春が来たかー。」
「あのっ、待って、まだ、自覚したばかりで」
「え、カマかけたつもりだったのに、ほんと?」
自爆したことに気付いて、顔から火が出そうだった。
「僕が話を振ったばかりに・・・ごめんよ。で、相手は誰?」
柊悟になぐさめられながら、笑顔で詰め寄られる。逆に怖い。
言い淀んでいると、希湖が元気よく手を挙げた。
「はい!わたし、わかるかも!新先輩でしょ?」
希湖に生き生きと言い当てられて、わたしは観念してうなずく。
涼也も柊悟も「あ~」と言って妙に納得した顔になった。
「あいつなら、いいんじゃねえの。」
「末永くお幸せに。」
「ひゃー!部活の先輩!いいね!」
なんだか、みんなに応援されて、余計に恥ずかしくなってくる。けれど、認められたのが嬉しくもあるのだった。
「でも・・・まだ、その、告白、とかもしてないし・・・。」
「じゃあしよう!告白!」
希湖がまるで自分のことを棚に上げているので、軽くにらむと、小さく舌を出した。
「ごめーん。調子に乗りました・・・。でも、新先輩も今年卒業でしょ?早めに伝えた方がよくない?彼氏彼女として、夏休みとか文化祭とか過ごしたくない?」
「そっ、それは・・・。」
「まあまあ、そういう話も、彼との話し合いが終わってから考えることにしようよ。」
柊悟が助け船を出してくれたのでほっとする。
ちょうど予鈴も鳴ったので、机を戻して解散した。
午後の授業は、集中することに集中して、なんだか疲れてしまった。
そしていざ、部活動へ向かうとなると、また胸が高鳴ってくるのを感じた。
「ふっふっふっ、優姫、なんだかそわそわしてるね。」
「もぉー、希湖はさっきから自分のことを棚に上げすぎ。」
いつも通り、希湖と並んで部室へ向かう。
「だってぇ、いつもわたしの恋バナばかりだったから、嬉しいんだもん。」
「そうなの?」
「ね、後で先輩の好きなところとか、聞かせてよ。そうだ、土曜の後、そのまま泊りに来ない?」
「いいの?」
「いいよいいよ!うちの親、優姫のこと気に入ってるし。じゃ、また後でね!」
希湖と別れて部室のドアの前に立つ。一呼吸おいてから、平常心を意識して中へ踏み入れる。




