三 ほんとうのわたしは③
また翌日の放課後には、狩野先生のところへ行った。今朝、部活動に遅刻または欠席することは新に伝えてある。話が終わったら時間によって、部活へ向かうか希湖たちと合流する予定だ。
職員室のドアの前で一呼吸整える。ドアを開け、失礼しますと言うと先生方からちらちらとこちらに視線を向けられた。クラスと名前を告げ、狩野先生に用があることを伝えると、近くにいた先生が少し奥の方の席を示してくれた。
わたしが向かう前に狩野先生もこちらに気が付いてくれて「進路指導室で話そう」と場所を変えてくれた。
教室のと同じ机と椅子が一つずつ向かい合わせに並んだ狭い部屋。壁には赤本や各大学の案内などが並んでいる。換気のために開けられた窓からは、運動部の掛け声が聞こえてくる。
狩野先生にすすめられて、わたしは向かい合わせに座った。
「それで、進路について悩んでいるという話だったが、俺でよかったのか?もっと年配の先生や進路主任の方が詳しいと思うぞ?」
わたしは首を横に振りながら話した。
「狩野先生だからこそ話をしたかったのです。わたしは、これからどんな将来を進むべきなのかわからなくなりました。なので、狩野先生がどうして教職を選んだのかうかがいたいのです。」
「俺が教師になった理由なあ。弓道の指導がしたかったから、というのが一番だな。そもそも、俺は小さい頃から弓矢に興味をもっていてな。それも今思えば因縁だったんだなという感じなんだが、習えば習うほど弓道っていうのが面白くなって、これを次世代にもつなげたいと思ったんだ。」
「前世と同じことをすることに、違和感、というか、恐怖というのはありませんでしたか。」
狩野先生は少しの間をおいて「いや、なかったな」と言った。
「そもそも、時代も場所も全く違うからな。生きるための狩りと、武道としての弓道も違うし。ただ、弓を引く時の緊張感と、的に中った時の安堵感が中毒になるというか、でも、弓道っていうのはただ的に当てるだけじゃなく」
「先生が教師と言う職を選んだことはわかりました。ありがとうございます。」
狩野先生が弓道の話を始めると長くなる、というのはこの学校のほぼ全生徒の知るところなので、早めに止めさせていただく。
「もし・・・もし、わたしが政治の道を目指していくと言ったら、どう思われますか?」
思わず両手に力が入る。
今度は長く間が空いた。
「学校のアイドルが、政治家になる、うん、アリなんじゃないの?応援するぞ、って思うな。」
狩野先生は言いながらも歯切れが悪かった。
「やっぱり、わたしは政治家には向きませんか。」
「いや、向く向かないじゃなくてな、動機がわからんから、なんとも言えんっていうか・・・前は最初からそうなる立場にあったし、自分の国だから、自分でよくしていこうっていうモチベーションがあっただろう?だが、今は一般の高校生だ。どうして政治家になろうと思うんだ?」
「それは・・・やはり”白雪姫”としては人をまとめていく仕事の方が」
「ただ人をまとめるだけだったら、会社でも興して社長になればいい。まあ、それも、どんな会社にするかというところでまた色々あるわけだが。優姫さんは、人を動かして、何がしたい?」
「えっと・・・何も、考えていませんでした。」
わたしは顔を伏せた。自分が考えなしに人の上に立とうとしていると思われていそうで、いたたまれなくなる。
そんな心境を読まれたか、狩野先生はふっと息を吐きだしながら言った。
「まあ、優姫さんが、ただ人の上に立ちたいという人間じゃないっていうのはわかっているつもりだ。あと俺からアドバイスできることと言えば、興味があることに片っ端から手を出していけ。それこそ、政治に興味があるなら、青少年向けのそういうイベントもあるから、それに参加するのもいいと思うぞ。」
「はい、そうしてみます。お時間いただいて、ありがとうございました。」
「おう。そうだ、この部屋だったら資料がありそうだな。ついでに探してみよう。」
とりあえず、政治経済が学べそうな大学の資料や、イベントの案内を探していたら、だいぶ時間が経っていた。
わたしはお礼を言って、進路指導室を後にし、部活へ向かうことにした。
もう部活動の終わっている時間だが、ぎりぎりまだ人がいるかもしれない。
将来のことについて、新にも質問したいと思っていたのだ。
もう三年生だし、新のことなら進路も決めていそうだから、年の近い人の話も聞いてみたい。
階段を上がっていき、部室にしている多目的室をのぞいてみると、残念ながら誰もいなかった。あわよくば階段とかですれ違うことができたらと思ったが、それもなかった。
わたしはため息をついて、希湖に「そろそろ昇降口に行くね」とメッセージを送り、顔を上げて息を止めた。
彼が・・・マコトが、廊下にたっていた。




