三 ほんとうのわたしは②
翌日の放課後は俊斗のいる駄菓子屋さんへ行った。部活が終わってから向かったので、もう店じまいをしていた。
「こんばんは、俊斗おじさん。」
「こんばんは。こんな時間に珍しいな。」
「お仕事中に悪いのだけど、進路のことで少し相談にのってもらえませんか?」
「わかった。すぐ終わるから、そこに座ってて。」
わたしはレジ横の上がり框に腰をかけた。こういう造りは昔ながらと言う感じだが、店内は板を張り替えてあるし、清潔感さえある。でも、お菓子が所狭しと並んでいるところも『駄菓子屋』という雰囲気があって妙に落ち着く。
俊斗はレジを操作した後、奥に行ってマグカップを二つ持って戻ってきた。
「はい、麦茶しかなくて悪いけど。」
わたしはお礼を言って受け取った。そして、早速本題を切り出した。
「俊斗おじさんは、どうして駄菓子屋をやろうと思ったの?」
「うーん・・・この場所を、失くしたくないと思ったから、かな。」
俊斗は店内を見回しながら言った。
「ここはさ、色々な人が来るんだ。近所のガキはもちろん、その保護者の方もここでついでにお喋りしたり、昔から住んでる方も来てくれる。そういう人と人が自然に交流しているのが、俺は好きなんだよ。だから、ばあちゃんから引き継いで、駄菓子屋をやることにしたんだ。」
「確かに、ここってなんだか落ち着くのよね。俊斗おじさんは、その、”こびと”だった時からこういうのが好きだったの?」
俊斗は腕を組んで、うーんと唸った。
「そうだなあ。言われてみれば、よく人間街に遊びに行ったり、パーティーに紛れ込んだりしていた気がするなあ。でも、この店が好きだっていう気持ちは、今の俺の気持ちだぜ。」
「・・・今の気持ち、かあ。」
俊斗がずいっと顔をのぞきこんできた。
「優姫ちゃんはさあ、まんま、白雪姫だよな。」
その言葉にどきっとする。
「初めて会った時さあ、俺はまだ”こびと”だった記憶がそんなになかったけど、優姫ちゃんを見て、お姫様みたいな子だなあって思ったもんな。それで、時々会うようになってその仕草を見ているうちに、白雪姫と重なってきて、こんなスピリチュアルなことあるかって思ったけど、俺たち前世で”白雪姫”と”こびと”だったんだって気づいたもんな。」
「お菓子買いに来た時、急に横に来て『ほんものの白雪姫?』って聞かれた時はすごくびっくりしたんだから。」
「それで優姫ちゃんも『そうだよ』って普通に返して、そのまま普通に買い物していくから俺もびっくりしたよ。でも、ちょっと安心した。凜子ねえさんもいい母親やっているみたいだし、お父さんも優しそうだし、”白雪姫”は今度こそ、幸せになれるんだって思えた。」
「幸せ・・・そうだね。」
「あ、でも」と俊斗は眉間にシワを寄せた。
「アイツが転校してきたって、マジ?」
「本当だけど、あ、陽太とかから聞いた?」
「ああ。わざわざ店に来て報告してったよ。あいつには店のもん売るなって。まったく、そもそもアイツがこんなところに来るわけねーよ。」
そう言って俊斗は苦笑いした。
「優姫ちゃんは?会ってみてどうだった?」
わたしは迷ったけれど、正直に言うことにした。
「怖かった。何も変わっていないみたいだった。自信家で自分のことしか考えてない。でも、最初に話したっきり、何もしてこなくなったわ。いつも誰かと一緒にいるようにしているし。」
「そっか。誰かと一緒にいるなら、ひとまず安心かな。しかし、何も変わってないのかあ、あの王子サマは。凜子ねえさんですら、猛省したのにな。」
そして、俊斗はわたしの目を見てはっきり言った。
「人間色々抱えて生きていくもんだけど、俺たちは前世っていうのを始めから抱えることになっちまった。だけどな、生きているのは今なんだ。過去を省みるのも大切だけど、今大事にしたいものを忘れないようにしろよ。どうだろ、こんな感じで答えになったかね?」
にかっと笑う顔を見て、わたしも思わず顔を緩めた。
「ありがとう。話を聞けてよかったわ。」
「どういたしまして。遅くなったな、家まで送るわ。」
「あ、じゃあご飯食べていってよ。」
そして、他愛もない話をしながら、俊斗と一緒に家に帰った。




