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美少女コピペ令嬢  作者: けい
13/18

コピペ令嬢、学校見学する

[#改丁]

「はー、疲れた」

 私はキングサイズ相当であろうベッドに寝転び思わずそう呟いた。というのも、陛下の妃になることが決定したのでそのためにやることがたくさん増えたのである。最初に理解度を測られ、国の歴史だ、他の地域の文化だ、礼儀作法だ、と一日中詰め込まれている。ああ、あの顔見せの結果を待っていた間の七の姫との穏やかな時間が恋しい。

「随分、お疲れなのね」

 そう言う七の姫と会える時間も、限られてきたのでとてもテンションが下がる。こうして話せる二人だけの時間など就寝時くらいになってきたのだ。なんて寂しい。

「でもそれだけ頑張っていると言うことよね、偉いわ」

 あいも変わらずとても優しい。誰かの望んだ言葉をかける選手権があれば確実に優勝できるであろうこの子は穏やかに微笑んでいる。

「ありがとう。あなたがいてくれるからやっていけてるよ」

 本心から言ってそして、少し間をおいて私は再び口を開く。

「お名前は、まだ?」

 七の姫が無言で目を伏せたことで私も察する。今日も何もなしだったのだろう。この話題になるとお互いしょんぼりしてしまうのだが、しないと言うわけにもいかないのだ。

 数週間前に顔見せで私が陛下の妃になることを勝ち取ったため、七の姫には新しい名前がもらえ身分を保証されて好きな人と結婚できる、はずだったのだ。そう言う約束を結んだのだが御当主様は以前何も言わない。あの時のことはただの口約束だ、と言われたら特に何も言えることがない。ああ、誓約書でも取っとくんだったと自分の愚かさを嘆きつつ考える。

 七の姫の名付けと婚姻が遅れているのは何故か?厳密に言えば公的な立場は七の姫改月華妃は私であり、本当の七の姫であるあの子は名のない姫である、ということにされてあるはずだ。白水の姫は家の繁栄のため、基本的に誰かの嫁になるために家を出る。だから、そりゃそんなにないかもしれないが、家臣に下げ渡すような感覚でお抱えの職人と姫を婚姻させることもなくはないのではないだろうか。

 白水の土地には貴族のような階級がない。あるのは、御当主様を筆頭とした土地の名前を冠することが許された長の一族、それとそれに支配される民と言う二つだ。こう言うのを完全なる中央集権型、独裁、と言うのだろうか?と無知な私は思う。そこら辺は社会に詳しくない私の頭では無理である。理系選択だったのだ。理系科目ができるわけでもないのに。

 貴族の階級がないことが何を示すかと言うと、別の土地の有力者との婚姻でない限り白水の土地のものとする婚姻は全て現代でいう下降婚である。親戚同士の婚姻は白水では禁止されているらしいし。つまり、誰とやっても下降婚ならばお抱えの職人と結婚させても良いでしょ、と言うのが私の意見だ。

 さて、それに待ったをかけそうなものは何であろうか。まあ安直に言うなら七の姫の美貌を下降婚にするのが惜しくなって、他の土地の有力者との婚姻をさせたいな、と思っているとかはあり得るだろうなぁと思う。それなら私に何ができるかな、と思いながら可愛い七の姫を慰められるようなことを考える。

「あ、そうだ。あのね、明後日ぐらいから、私、白水の土地を少し回ることになっているの。ねえ、この屋敷の外って出たことある?」

「ないわ、屋敷の庭で遊んだことがある程度かしら。名をもらって大人になったら家の人間としてお外に出ることがあるそうだけど。妃教育の一環かしら、良いわね、」

 楽しんできてね、と言いそうな声を遮るように私は七の姫の手を取って言う。

「心細いからついてきてくれない?妃教育の一環だから、公的なものだし、ね?」

「良いの?」

 七の姫の目は中で星が瞬いているかのように輝いていた。姫君がおいそれと家の外に出られる機会は得られない。それどころかこの異世界は近世ほどの価値観がありふれている。高貴な立場の女性が外に行くなど馬鹿にされるようなことなのだろう。でも、だからこそ七の姫は外に出たかったはずだ。だって言っていた。夜に散歩したい、自分の足で外を歩きたい、と。

 喜んでくれて、良かった。私はこの子が元気になるためなら何でもやれちゃうだろうな、と思う。


 さて、時間はあっという間に過ぎて約束していた明後日である。今回の土地見学は遠いところまで行くわけではないが、安全と見栄のために私たちは何と、ソリで回る。ソリといっても、現代日本でよく見る雪遊び用のプラスチックではない。犬ぞりともかなり違う。良く近世ヨーロッパあたりの豪華な馬車の乗る部分を思い出して欲しい。飾りがついているアレである。あれをもう少し人が四人ほど入れそうな箱のようにしたものにスキー板を履かせたようなものである。それを生物に引かせるらしい。

 馬、と言うか何か動物、生きてるのか。という驚きが私に走った。まあ、そりゃあジビエのような肉を食べているので生きてはいるのだろうけど、人が飼育できるもので利口にもソリを引いてくれる生き物がいるのか、と感心したものだ。

 御者が大仰な礼をしながら連れてきたその動物は、一言で言うなら、モッフモフであった。なんて毛。あったかそう。もう少し真面目に言うと、雪に紛れるためか白の毛は寒さを防ぐためか長い。身体は大きく四足歩行の状態で人間よりも大きい。トナカイのようなツノが生えており顔つきもどことなく似ているような気がする。

 この異世界ならではの動物なのかもしれない。しかしこれが名前の違う人間と共生を選びより寒冷地に適応した馬かトナカイですと言われたら信じる。そんな動物だった。人慣れしているのか大人しいそれはソリを引っ張るための装備をつけられて大人しくしていた。

「さあ、お乗りください。月華様、お嬢様」

 そう言うのは私の妃教育、主に他の地域の文化を教えてくれる先生である。紙織かみおり先生と呼んでいる。それに、少しはしゃいだ遠足気分でドレスを引っ掛けないように注意しながら手を借りて私たちはソリに乗り込んだ。ちなみにまだ立場が安定しない七の姫はやはりここでもお嬢様と呼ばれている。

「さあ、月華様。今日外出していただいたのは他でもありません。民の生活をその目で見てもらうためでございます。五宮(ごきゅう)でご自分の出身地について話せなければお話になりません。白水とはどのような土地か、その目でその身体で体感して頂きます」

 今日の目標、理由のようなものは紙織先生が言った通りである。五宮ごきゅう、陛下の妃五名が暮らす宮殿、では妃はただ暮らしていれば良いわけではない。一番はおそらく世継ぎを産むことだが、それと同じくらい大事なのは、それぞれの土地と都の変わらぬ和平の象徴であることだ。

 つまり土地と土地の架け橋である。概念的な。公に言える範囲のものではこの異世界の妃とはそう言うものである。土地の代表者、或いはその土地そのものと扱われる妃はそりゃあその土地に詳しくなければならない。

「今日、月華様にご覧になって頂くのは今代の御当主様の変革の象徴とも言える場所、学校。それから白水の変わらぬ伝統を象徴する場所、工場街(こうばがい)でございます」

 そう、今代の御当主様。私というか七の姫の父であるその人は結構なやり手であるらしい。その代表例と言われ、民に最も影響を与えたもののひとつ。それが学校である。

「確か、子供の時から通って自分の適性を測るとともに基本的な教養も身につけるのよね」

 授業で習ったことを私はそらんじる。私にとっての義務教育の学校に職業訓練校もドッキングさせたような形のそれは確かに新しい。

「はい。元々民は決められた職業、家業でございますね。それに着くものでありました。職人の子は職人に、商人の子は商人になるものでありました。故に教育は生まれ育った家に任されるものでありました」

 おそらくその名残で名字が職業の名前なんだろうな。髪飾りやらを作る織は餝。そしておそらく紙織先生のご実家の職業は紙職人なのだろう。

「しかし、誰もが決められた職業に就けるわけではございません。次男以下であれば跡は継げず、そもそも微細もその職業に向いていないということもございます」

 少ししょんぼりしているのはご自分が才能がなかったからなのだろうか。

「だからそれらの民の救済とともに全ての民が一定の教養を得られるように教育を施すための施設をお造りになられた、だったかしら」

「素晴らしい。月華様は覚えがよろしい。ええ、その通りでございます。土地の名の下、御当主様は改革を行いその行いは善政として知られ各地で行われるようになったのでございます。さて、そろそろ学校に着きますね、よくご覧なさってください」

 思わず私と七の姫は顔を見合わせわあっと笑った。見学ではあるがお出かけである。

 さて、恐る恐る降りたその場所は大きな建物が目の前にあった。屋敷と同じくらい大きな、でも質素な建築の、やはり寒さを抑えるために高床式の建物は私の記憶にある校舎とはずいぶん違った。体育館はないし、大きな建物ひとつある有様は集会場とかそういう方が納得がいくなと思う。しかし、あたりを見まわして遠くに見えるおそらく民家はこれに比べることも失礼なほどに小さい。これほど大きな建物が民のために建てられた、というのはやはり大きな意味があるのだろう。

「ようこそいらっしゃいました。尊きご身分の御方に会えるなど光栄でございます。わたくし、学校の長をつとめます、さかきでございます」

 そう、挨拶してくれたのは壮年の男性だ。白水の民の特徴である白銀の髪に、少し珍しい赤い目をしている。

「ご機嫌よう、そう構えなくてもよろしくてよ。今は勉強中の身ですもの、一個学徒と変わりませんわ」

「身に余るお言葉でございます、さ、外は冷えます。中へお入りください」

 そう言われて入った中は所謂土足だった。やはりここら辺は土足の文化なんだろうな、と思い少し日本が恋しくなる。なので、下駄箱は存在していない。

「入って一番最初が初等部、学校に入って最初のうちに入るところでございます。主に礼儀、教養を学んでおります」

 後ろのドアを開いても授業中なのかこちらをチラチラ見た者はいてもほとんど皆前を向いて話を聞いている。

「目上の御方にされる礼、態度、それが意味するものを学び、実践すること、読み書き、簡単な算術を習います。今は礼儀作法をやっておりますね」

 そこにいるのは小学生くらいに見える者たちや中学生くらいに見える者たちだ。

「それらができるようになったら他のことを習いにいきますの?」

 義務教育とは違うんだろうな、と思い話しかけた疑問に学長の榊さんはにこやかに答えてくれる。

「はい、初等部にて習う物事を一定の理解を得たら中等部へと移ります」

 つまりは飛び級、留年もあり得る方式である。日本のぼーっとしててもテストの点が悪くても自動的に学年が上がる義務教育とは違う。

「理解度、というのは何をもってはかりますの?」

 私がやられているように一人につきっきりの教育であればそこまでテストは必要ない。受け答えがはっきりしていれば理解しているとわかるからだ。でも、多くの人数を見るのであれば画一的な基準と評価方々が必要だろう。

「ええ、一年に一度テストを行います。それによって理解度が一定の者は次へ、という仕組みです」

 やはり、テストか。私はテストに悪い思い出しかないのでこの学生たちにいたく同情した。がんばれ。一夜漬けはやめとけ。

 それを見た次は少し奥に入った部屋だ。さっきから見てる部屋は机と椅子がたくさんあるところだけは現代日本と似ているけれどそれ以外はあまり似ていない。大学の講義室のような大きな部屋に図工室のような大きなテーブルに何人かが座る形になっていて机も一人一つずつはいかないようだ。

「こちらは中等部の教室になります。主に職業への適性を見ており、職人たちにも提携を組んで様々な体験を可能にしています」

 今やっているのは小さな掌サイズの布への刺繍のようなものだった。

「確か、冬季の間は農家も多くの民が農業の代わりに屋内でできる手工業に従事しているのよね、」

「その通りでございます。専業として職人にならずとも、冬季の間のみ従事する形でも行われております。そのためこの白水は伝統的な工業の発展した土地として知られているのです」

 やはり、そこら辺は過去の地球とも同じようなことが行われているな、と思う。魔法のようなミラクルパワーとか、よほど科学が発展しているとかがなければ一年の半分は雪が降るような土地はそういうことになるのだろう。夏季の一時的な場合でしか農業ができないなら他で土地として生産できるものをあげなければならない。

「白水の最南端くらいのものです、雪が降らず一年中農業に従事できるものは。我々白水の民はたくましくならなくてはなりません。厳しい自然の中できる限り翻弄されることなく、生きていく術を探していくのです」

 そう、赤い目を自らの学徒に向けながら独り言のように学長である榊さんは言う。厳しい土地で、誰かに決められるでもなく、生きていく術を探していくことを皆に広めたかったのかもしれない。

 次の部屋に歩きながら榊さんはお話をしてくれた。

「貴方様は都にいかれると聞きました。あそこは良いところです。国中の物が何でも手に入る、気温も穏やかな豊かなところです、まさに都と言うべきでしょう。ああ、私は都へ行ったことがあるのですよ。元々白水(はくすい)灰紅はいこうの混血なのです。貴方様のように直系ではございませんが、父がお屋敷にお仕えしておりまして、そのご縁で」

 穏やかに懐かしむような声は少しだけ寂しいものに聞こえる。

「都は良いところです。いろんな者がいます。髪も目も様々な姿をした者がいます。私も若い頃は素晴らしい素晴らしいとばかり言っていましたし、都で一生過ごすのだと思っていました。」

 やめたのは何故なのだろう。確かに出会った時に思ったようにこの白水では髪は白銀、目は薄青の者がほとんどで彼のような容姿の者は少し奇異に映るだろう。ならば奇異に見られない都はそりゃあ良いところだったはずだ。

「良いところでしたが、ふと思ったのです。この都は何で造られたのかを、その在り方を。私にとってはあそこには愛すべき文化はなかった。貴方様、月華様。どうか、ご自身をお大事に。育んだこの地を忘れぬように」

 私はその言葉を真剣に聞いた。聞かなければならぬと思ったからだ。私はきっとこの言葉を思い出す日が来る。そんな予感がした。

「失礼、老人の戯言に付き合ってもらって申し訳ございません。あれが最後の部屋になります」

 そうして、案内された部屋はこれまでの部屋と違い少し小さかった。しかし一人に一つ机と椅子があり、大人がたくさんいた。

「ここは高等部になります。特に学問に秀でた者達が希望して造られたものです。ここからは宮廷に出仕するもの、他の土地に留学にいくものなどが集まっております。一般的に学徒は中等部で卒業となりますが、もっと学問に取り組みたい者が集まって後から出来上がったのです」

 だからか、と私は思う。学問に集中した者のみが集まっているのだ。要するに初等部と中等部は留年と飛び級のある義務教育だが、高等部はその名の通り高校や大学に近いのだ。要するに高等教育であって義務教育じゃないのだ。

 使われている本もちらりと見たところ様々で、さっきの教室で見たものより分厚い。私が受けるような授業よりも専門的かもなと思う。この中の何人が都に行き、そうして白水はくすいへ帰ってきてくれるのだろう。教育の先が、人口流出だったら目も当てられない、と思う。まあ、御当主様のことだからどうせ初等部の内から愛国心のような土地への愛着を持たせる教育はやってるんだろうけど。うん、まあそこら辺は偉い人に考えてもらおう。

 

「忙しい中、見学をさせてくれてどうもありがとう」

 ソリの前でそう言う。七の姫もあちこち見回ってリフレッシュできたようで何よりだ。見学中は姫としての振る舞いに必死になって七の姫のことはよく見れていなかったことを反省する。

「いえいえ、そちらのお嬢様も、月華様も興味を持ってもらえてとても嬉しゅうございました。どうかお身体にお気をつけて、この地より幸福を願っております」

 そう深々と礼をしてくれた榊さんをそしてかけてもらった言葉を私は忘れることはないだろう。

「次は、工場街こうばがいへと向かいます。少々お時間がかかります。お休みになってください」

 紙織先生にそう言われて、私と七の姫は少し背もたれにもたれかかって力を抜く。今日はできるだけ歩けるような靴と服で来たし、エスコートもしてもらっているが、普段動いていないので疲れる。

 力を抜いた状態から窓の外を眺める。ごとごと、と流石に揺れるソリの中から見た外はまだ雪で白く緑はほとんど見られなかった。

 そうして、ついた工場街こうばがい

「ご機嫌よう、月華様、お嬢様。案内を担当する餝の家の織でございます」

 その言葉に隣の七の姫が顔を赤らめたのが見えた。すごく幸運だなぁ連れてきて良かった、と私は心の底から思った。

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