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美少女コピペ令嬢  作者: けい
11/18

コピペ令嬢、春を待つ

第一章ラストになるためガリガリ書いていたら長くなり2日かかりました。

 欠けるところのない月が空に浮かぶ夜。まだ雪が降り積もり移動が困難な中決められた日にちに間に合うよう、陛下の使者、五宮の管理を任された色部の者たち、は白水はくすいの屋敷に到着していた。毎度のことながら物理的な距離であれば最も紫黄の都より遠い白水は最も顔見せの任を任されたくない場所、部署内ナンバーワンである。そもそも移動がキツイ。気候も極寒で、何を考えているのか最も降雪量の多い地域に屋敷があるため足場も悪い。新手の嫌がらせかと思う。

 紫黄国内でも有数の温暖地域である都住みの人間にはかなりキツイ。しかしこれが仕事であるためえっちらおっちら妃候補の姫君たちの顔を見に着たのだ。別に絵でもいいじゃんと色部にきた者は百回は思うがその度にまあ、絵だと色々誤魔化せるからな、と思い直している。容姿を盛るくらいなら良いけど病気持ちとかは洒落にならない。

 残酷な事実ではあるが、国の一番偉い人の妻というのは健康体であり、容姿に優れ、教養深くあるのが好ましい。さて、やっと仕事ができる、と屋敷内でようやく定刻まで一息つく。何せ本当にやらなければならない仕事に付随する移動がキツかったのだ。侍女が運んできてくれた飲み物が沁みる。

 さて、定刻だ。ふかふかの椅子から立ち上がり、また寒い外に出なくてはならない。なぜならこの白水はくすいでの顔見せは窓から行うのだ。なんで、嫌がらせ?となるが文化だそうだ。昔、姫君に惹かれた者が窓から顔をどうにか一目見ようとしていた、と言うエピソードからであるらしい。いや普通にドアノックして一人ずつ待機してる部屋にお邪魔して顔見ていけばいいじゃんと思う。でも文化らしい。なら仕方ない。でも待機してる姫君も窓を開けてこられたら冷えるから嫌だろうよ、とは皆思っているが変わらないのが伝統というものだ。

 さて、と白水での顔見せを任された計八人は書類を確認する。今回顔見せに参加するのは四から十二の姫君たち、計九人。それを割り当てられた部屋順に見ていく。左の屋敷本館に近い方から見ていき最後に最も離れた部屋の姫君を見る。一見公平なようだが、しかしこれがほぼ出来レースなことは色部のほぼ全員が知っている。

 まあまず、家から陛下に嫁がせても良いなって者が選ばれるのだ、良くも悪くも。だから最低限妃の素質を持った者以外は選出されていないし、逆に言えば、飛び抜けて良い姫も選出されたりしない。白水は元から、態度に出したりはしないがあくまで自分の土地をうまく回すことを念頭に立ち回る。要はそこまで陛下自体を重んじてはいないのだ。ただ今は国の一部として従っているのが都合がいいから従っているだけで。

 割と嫌らしい地域である。

 さて、話を戻そう。

 選出された姫の話だ。その中でも明らかにこの姫とこの姫がオススメだよ、というような暗黙の了解のようなものがあるのだ。大抵それは顔見せの一番最初と一番最後に配置されている。いやあ実に謀略いっぱいだ。別にこの地に限ったことじゃないけど。

 さて、一番最初の姫は五の姫である。齢は二十一、少し婚姻の適年齢は過ぎているものの女の盛りと言って良い健康的な美女だ。月に負けぬよう、明るくされた室内から光が漏れている窓をノックする。鍵はかかっていないので我らが自分で開けるのがルールだ。

 カラカラと窓を開ける。すると、中から熱気と言っても良いかもしれない暖かい空気が押し寄せてくる。それには香を焚いているのか上品で少し甘い香りが含まれている。部屋の内部はまるで宝石箱を開けたかのように豪華な飾りが施された家具が所狭しに並んでいる。その中央のクッション付きの椅子に飾りと全く見劣りしない着飾った姫君が座っている。白水の住人に多い白銀の髪をまとめ上げ、この地でよく取れるという宝石を惜しげもなく使った飾りで髪を彩っている。また、白水の住人によくある特徴の如く、上背が高い。長い足に合うようなドレスは膨らんでおらず直線的な印象がある。それがこの姫君の健康的な肉体美とよく似合っている。

「ご機嫌よう、五の姫でございます」

 まるで演奏される楽器の如くのびやかで華やかな印象のある声でそう挨拶した五の姫の表情に緊張している様子はない。堂々としたその立ち振る舞いは妃に相応しいとさえ、思わせる。

 そうして、定められた採点の基準をチェックして一番最初の姫君、五の姫の顔見せは終わる。一回目からお分かりだろうが、顔見せとは、もうこれ以上はいないだろう、という姫君の連続の中からたった一人を選ぶという過酷なものなのである。

 さて次は、とまた書類を見る、その繰り返しだ。白水がこの選抜で選ばれなかった姫君をどう扱うか、は知らないが、この選抜で人一人の人生が大きく変わるだ。中には妃に選ばれることだけを目指して人生を送ってきた姫君も少なくない。そういうことを思うと少し気が重くなる。だがしかし、そんなことを言っても仕事なのでやるしかないのである。

 そうして、何回か繰り返して、劣っているわけではないけれどもっと良い姫がいたから違うなぁなどジャッジされていく。やはりというか最初から妃になることを一番期待されているであろう、最初の五の姫が印象深い。やはり後は彼女と一番最後に見ることになっている四の姫が一騎打ちになるのだろうか、とそう思って。次の窓を見る。その姫君は特に白水の家からも、審査員からも注目されてはいなかった。故に記憶に残りにくい六番目に割り当てられていたのだ。

 その姫君の部屋は外から見て、他の姫君の部屋と比べて少し暗かった。しかし月の光を邪魔することのない光はかえってその場に静けさと印象深さをもたらしていた。そう、ほとんどの姫君の部屋は姿がよく見えるように明るく灯りを何個も使用していた。故に姫本体が見えやすく五の姫など特に目立つ姫との差がつきやすかった。

 しかし姿が見えにくいのでは意味がない。もしや最初から選ばれる気がないのかと思っていると、ちょうど月が明るくなる。驚いてよく見ると屋敷の本館から程よく離れたため月を屋敷が隠すことがなくなったのだ。ああ、月がよく見える。そうして照らされた部屋の窓に手をかける。どうしてだか息が詰まる。コンコン、とノックしてそうして、窓を開ける。

 目に見えたのはぼんやりとした光だった。床と天井どちらもに置かれた灯りは覆いが付いていて直接的な光でなく淡い。そうして、それを伏目がちに見ながら手を伸ばしていた姫君がゆっくりとこちらを見る。

 髪と同じ色の白銀の長いまつ毛が目元に影をつくる。まるで劇や舞の一動作であるような優雅な動きですっと立ち上がる。少しのものしか置かれていない室内は他の姫君のものとは違い外のように空気が冷たい。しかしそれで鼻や肌が赤くなってもない姫はまるで人ではないようでそれがいっそう神秘さを増していた。

 震えのない身体がゆっくりと礼を取る。これは姫君の中でも判断が分かれているところだった。五の姫を筆頭とした者たちは自分が将来の妃である、という態度を崩さず高貴な振る舞いとして礼をしなかった。

 逆に今の姫君と同じく、審査員たちを陛下の代理、つまりは陛下そのものにする態度をとっている者たちは礼をした。この国の民が一人残らず陛下への敬意を示せるように、と古くに考案された簡単な、しかし最上級の礼を。

 別に審査員としてはどちらでも良かった。しかし、この時この姫君の礼の動作は酷く美しかった。再度伏目がちになり強調される大きな目を彩る、長いまつ毛、すっと通った鼻筋、薔薇色の綺麗な形をした唇、全てのバランスがよく整った顔が礼をしたことで少し前方に出てよく見える。そして礼をしたことで顔のそばでしゃらり、と髪飾りが鳴る。それは静まり返った部屋の中で唯一の音を立てていた。

 足跡のついていない新雪の如く真っ白なドレスの裾を摘む手は少しも荒れたところがなく、爪まで艶があって美しい。礼をしても崩れることなく、まっすぐ伸びた背筋は教養を示しているようだった。

 それから礼を終えて、その姫君が口を開く。その声を何と言ったらいいだろう。名乗りそのものが短い歌であるかのようなふうにさえ思ってしまう。楽器が得意なことを表すために窓を開くまで楽器を爪弾いていた姫君もいた。しかし、この姫は。声だけで、名乗りだけで、それに相対してしまえる流麗な声だった。

「ご機嫌よう、七の姫でございます」

 そうしてかの姫君は初めてこちらの目を見て微笑んだ。開かれた目は宝石や月を思わせる冷たい色彩であったが、微笑むことで氷の如く冷たく鋭い神秘の美貌が柔らかさを持つ。その花が綻ぶような美しさと儚さを何と表現したら良いのか、暫し言葉を失った。が、姫君の髪飾りを見てそれを形容する語彙を獲得できた。

 雪の降る冬の白水で唯一咲くと言われる月の花。月華がその花弁をゆるりと開く様に喩えられる。

 そうして、顔見せは終わった。正確に言えば七の姫の顔見せは終わった。しかし、審査員達はしばらく夢見心地でいた。今の姫君のあまりの美しさに皆心を奪われたのだ。どこからか、楽器の音色が聞こえたが、それも耳には届かなかった。

 

 

 いよいよ今日が顔見せの本番である。正式なものであるため、いつもは見ない侍女の方が大勢朝から部屋に来てあれやこれやと世話を焼いてくれた。その中で一番嬉しかったのはやはり昼過ぎくらいのお風呂である。浴槽に入る文化はあるものの、現代のように毎日入る、というわけにはいかずせいぜい蒸しタオルで身体を拭いて済ますことが多かったのだ。

 しかし私は元現代日本人である。お風呂が好きだ。毎日入りたい。だから久々に入ったお風呂はもう極楽で溶けるような心地がした。すごいことにお風呂に入るのにも多くの侍女の方が付き、血行が良くなるように、浮腫みが取れるようにと、今で言うリンパマッサージのようなものをされる。

 手のひら、首、頭、足の裏をギュッギュッと少し強めに揉んでもらえるのが、とても気持ちが良かった。そして足のふくらはぎを足首から膝裏にかけてグーッと流してもらうことの気持ちよさと言ったら筆舌に尽くし難い。マッサージに加えて、お風呂といえば気持ちはいいが面倒な工程は多い。いっそ人間用洗濯機に突っ込んでくれと言いたくなることもあったが、なんと、お姫様だと自分で何もしなくても良いのだ。ぼーっと浴槽に浸かっていれば、何でも侍女の方がしてくれる!頭を念入りに洗い、泡を流し、また身体用の泡を立てて体を洗ってくれる。顔も洗ってくれた後は液体に浸したガーゼのような布を顔に貼ってくれる。それを暫し放置すると肌が柔らかく、スベスベになるのだ。これは所謂パックでは、と思いながら、私は何も自分でしなくて良い極楽なお風呂を堪能していた。

 お風呂を堪能して出ると、付き添ってくれた侍女の方がずらずらとまた世話を焼いてくれる。大きなタオルをぱさりと体にかけて現代日本人のバスローブのようにした後、濡れた髪に櫛を通す。オイルを塗りながら少しずつ水気を拭い取り、乾かしていくのはとても手がこんでいてまさにお姫様扱いだと私の心を踊らせてくれた。現代日本であればドライヤーでゴーっである。

 そして髪が乾き、さらに別のオイルを丹念に塗ってもらった後、爪のケアをしてもらう。先っぽは丸く尖らせないように削ってもらい表面も軽く削ってもらうことで滑らかにしてもらう。そうして、その後爪紅を塗ってもらう。これは、素の爪の色と同じくらいの淡いピンクだ。現代日本でも流行っているようなナチュラルで可愛いちゅるちゅるのピンクの爪は指は細長く整った、私のもとい七の姫の、手によく似合う。

 そうして下準備が終わると少し早いが顔見せの衣装を着付けてもらう。大筋はいつも着ている時と変わらない。ストッキングを履かせてもらい、固定される。そして、今日はドレスと揃いの刺繍が入った少し踵のある靴を履かせてもらう。私の目にはそれはシンデレラのガラスの靴であるかのように見えた。

 そうして、キツイコルセットを締めてもらい、今日は寒くないように一枚多く下の服を着る。なんせ私の待機する部屋は演出的に堂々と温められないのだ。そして、七の姫と見つけ出したドレスを着る。やはり、鏡を覗くともうとても綺麗だ。御当主様に会いに行った時が可愛いならば、今回は美しい、綺麗が出る。最高の見た目だな、と私はこの場でくるくる踊り出したいのを我慢する。

 今日着たドレスはデコルテの出たノースリーブになっているので、それの肩を覆い隠すようにショールを纏う。今日のショールは毛皮ではない。羽衣のような薄いショールだ。それとは別に膝掛けに毛皮も持っていくが、この羽衣のような薄い布のショールがまた幻想的な雰囲気を醸し出していて我ながら最高だな、とますます思う。

 そんな最高の見た目にますます美しさを足すが如く髪に飾りをつける。なんと、今日はシンプルな美しさそのものを味わってもらうため髪を結いあげたり、アレンジしないのだ。ストンとそのまま下ろした髪にひとつ、飾りをつける。織が昨日に間に合わせて作って持ってきてくれた飾りだ。簪のように棒の先に大きな月下美人のような花、月華と言うらしい、を模したものがついていて、そこから雫のような艶々とした宝石がしゃらしゃらと溢れている。思わずうっとりとしてしまいそうな美しさの髪飾りを誇らしそうに前にも髪飾りをつけてくれた侍女の子がつけてくれる。

 そうして最後に化粧をする。七の姫の肌はものすごく白く、シミもシワもニキビもそばかすもない。なので白粉がすごく馴染む。なのでポンポンと馴染ませながら多めに塗ってもらった。顔色が少し見た程度だとわからないくらい。それに目元に薄いピンクとキラキラとしたラメのようなものを塗ってもらい、口紅をつける。口紅は元の唇の色と同じくらいの色味でごく自然な出来上がりになっている。

 これで最高の私が出来上がる。化粧は女の戦支度だ。私は今日、多くの姫の中から選ばれるための、勝ち取るための支度を終えた。

 七の姫ににっこりと微笑む。七の姫もまた可愛らしくいつも通りに微笑み返してくれる。そうして、その声と笑顔を背に私は戦場に赴く。

「いってらっしゃい!」

「行ってきます」

 

 

 

 顔見せで最終的に割り当てられた部屋に入るのは一人、顔見せを行う姫のみだ。それまでは準備などで大体どの姫も自分の侍女の方などを伴っている。私も数人連れてきてはいるもののやはりどこか侍女の方はぎこちない。と言うより距離がある。入れ替わっているのだから私としては当たり前だけど、きっと七の姫本人にもこの態度なのだろう。何か事情があるんだろうとは思うけど顔見せのそれ自体には伴わないルールで良かったな、と思わずにはいられない。

 妃に選ばれるには侍女とかをちゃんと統制できないとダメな気もするが、こちらが歩み寄っても侍女の方のほうがその分距離を取るのなら無理であろう。そこら辺はまた後で考えたい。

 そして特に会話もなく、必要なものを運んでもらい、最低限の設置をしてもらうだけで侍女の方々の出番は終わった。

 しかし、寒い。庭に面した壁一面が窓になっていて空調も効いておらず、凍死する気か?という、デコルテを露出したノースリーブなため倍寒い。ああ、そういや流行ったドレスがくっそ薄いやつでインフルエンザとかでご婦人が死にまくったドレスとかあったなぁと思う。今思い出すことじゃ確実にない。忘れていたかったそんなもん。私は折り返しより顔見せの順番が後なのでこの寒さの中結構待たなければならない。マジで?いや凍死の二文字が頭をよぎる。嫌だよ。極寒の中見栄えのために薄いドレス着て亡骸で発見されるの。そんなことを思いつつ毛皮の膝掛けに包まる。あったかい。もう寒すぎて鼻水も出ない。化粧が落ちないからそれは良い。クッションの影に隠した温石も暖かい。オシャレは我慢という、ならば演出も我慢だ。ただでさえ教養に溢れ美形の、最初から陛下の妃になるために育てられたような姫たちに勝つには、全てを黙らせ惚れさせるくらいの圧倒的美が必要だ。

 だから、私はこの凍死ぬような寒さに耐え、七の姫の外面の美しさを最大限に活用して勝ち取らねばならない。どこの部屋からか何の楽器かわからない音がした。顔見せが本格的に始まったのだ。

 

 コンコン、と近くでノックされる音が聞こえる。おそらく隣だ。さて、まずポーズを取っておこう。一番最初に見せる顔の時点で美しくなければならない。体に纏っていた毛皮の膝掛けをクッションの上に斜めに引く。写真などで見るオシャレな謎布の出来上がりだ。ついでにその下に温石も隠して仕舞えば見える可能性はなくなる。ショールを肩を覆い隠すようにふんわりと纏っていることを確認する。そうして、ぼんやり光るランプシェードのようなものに手を伸ばすようなポーズをする。

 これは数日前に演出の練習をした時七の姫と共に確認済みである。飛び抜けて美人であると、大体どんなポーズを決めてどこにいても絵画かなってくらい様になる!今私は側から見たら、柔らかな灯りに手を伸ばしながら黄昏ている憂いを帯びた儚い美少女のポーズをしている。さあ、いつでも来るが良い。ぶっちゃけ腕を軽く伸ばして灯りに触るか触らないかくらいのところで彷徨わせておくのめちゃくちゃキツイ!何かの筋トレかと思う。早く来て!

 そうした心の叫びが届いたかのようにコンコンと窓が叩かれる。さあ、美少女になりきろう。どこからでも見るが良い。私の外面は完璧だ!

 カラカラと開けられた窓から外気が入る。やはりそれは中の空気と変わらない。故に私は表情を全く変えずにいることができる。灯りをそんなに持ってきていないのは幻想的な雰囲気を出すためだが、顔が見えなかったら意味がないのでは?と思うだろう。しかし、それは対策がしてある。足元だけ照らすと顔が下から照らされてお化けみたいになるんじゃという対策にもなっているそれは、ひとつ、目立たないように窓から離れた、私の背後に置かれたカバーがされていない白色光の灯りである。

 天井は大抵の場所がそうであるように白いので光を反射する。だからひとつだけ明るめの白色光を天井に向けていることで反射光が部屋全体に行き届き、一定の薄らぼんやりとした明るさは担保してあるのだ。そうすることで下からの灯りのみで照らされているわけではないため、顔もお化けのようにならない。

 これも暗い部屋で実践済みである。現代日本が災害大国で停電になった時にやったことがあったので知っている豆知識だ。

 最初の掴みは終わる。そこからあくまでゆっくりと優雅に立ち上がる。そしてこれまた鏡の前で七の姫や織と一緒に練習した礼をする。ここで重要なのは目を伏せることだ。美人の軽く伏せた目、それはもう兵器くらいの威力がある。それのおかげであら不思議、3週間練習してスムーズにそつなくできるようになっただけの礼が美しく見える。一歩後ろに下げた足先から、軽くドレスを摘んだ指先まで、ひとつひとつが一番美しく見えるように計算して、力を入れる。

 それから声だ、これはもう気合である。寒さに震えず、七の姫の声帯で七の姫のように声を出す。優雅に歌うようにゆっくり焦らず一音一音を大事に言う。

「ご機嫌よう、七の姫でございます」

 目の前の彼らは陛下の正式な遣いだ。だから陛下そのもののように扱うのだ。恋する女の子は可愛いという、だから本当は好きな人のことを想いながらひとつひとつの所作をやれば良かったのだろう。だけど私には七の姫の織のような想い人はいない。だから、妃になったら否応なく想うであろうその人(陛下)であるかのように目の前の審査員である彼らを見つめ、振る舞った。

 そして、最後の仕上げだ。礼の姿勢から頭を上げる。そうして、ふわりと微笑んだ。私の大好きなあの子(七の姫)が微笑むように、それに微笑みを返すように、いつか出会う陛下にするように。それは間違いなく、私の一番美しい笑顔だった。

 そうして、全てを出し切って私の顔見せは終わった。

 

 協議が行われて、その結果が出るまでに2週間ほど時間がかかる。その間は気もそぞろであったが、七の姫とお茶をしたり、消灯した後のベッドの中で話したり、恋愛相談をされたりして、穏やかな時間を過ごした。

 そして二週間が経った頃、私は御当主様に呼ばれた。そうして、いつものように練習したおかげでこれだけは本当に綺麗にできるようになった礼をする。

「ご機嫌よう、七の姫でございます。今朝は陽光がさし、春の兆しを感じますわね」

 そう挨拶すると、

「ああご機嫌よう、月華妃。この分だと雪解けも近いな」

 と返ってきた。今回もまたジャブのような話が続くのか、と思った後、ようやく脳がこの人の言っていることを処理した。

 月華、妃?驚いて、口を開けたままにしている私の顔を御当主様様は面白そうに笑う。

「おめでとう、春には都だ」

 その声の後にも何か言っていたが、私は何も耳に入らなかった。ただ、月華妃という三文字を頭の中で繰り返して、気がついたら七の姫の部屋に帰ってきていた。そうして、気づいたら出会ったばかりの時のように七の姫の顔が、すぐそばにあった。その顔はいつもと同じように、穏やかに可愛らしく微笑んでいる。

「おめでとう、月華」

 その一言で漸く私は妃に選ばれたのだ、という事実を理解することができた。

「やっっったぁーー!!!」

 拳を振り上げ、叫んだと思いきや、手を取りぴょんぴょんはしゃいで跳ねる私に七の姫は続けてこう言った。

「ようやく、あなたを名前で呼べるわね。嬉しい」

 と。

 それに私は七の姫にも相応しい名前が早くつけられると良いなぁと心から思った。

「早く、名前で呼び合えると良いね」

 そう言った私に七の姫がますます、笑みを深める。その可愛らしい笑顔が嬉しくて私ももっと笑顔になる。

 いずれ春が来て、私は都に行き、あなたは白水で好きな人のお嫁に行く。離れ離れになってしまうけど、それでも。私は一生、私にこの世界で初めて居場所をくれた、あなたの幸せを心から願っている。

 陽光に雪が溶け始めた。別れの春は近い。

これで第一章は終わり、おまけと第二章が始まります。

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