コピペ令嬢、準備完了
「ドレスってオーダーメイドのものしかダメなの?」
私は現代地球のイメージからそう聞く。しかし、その問いに七の姫と織は両方少し困った顔をする。
「オーダーメイドじゃなくても時間は間に合わないと思うわ。えっと生地を買って自分で縫うんでしょう?」
「そうですね、庶民はそのようにします。お嬢様の言う通り時間は足りませんし、そもそも正装自体自分で縫えるもんじゃありません」
何をいっているんだ?と言う顔をしているので気づく。そうかそもそもできた服が売っている、というのも現代のことなのか。じゃあどこかで買ってくる、と言うのはできなさそうだ。
「そっか、ごめんね物知らずで。うーん後は元々あったドレスを着ていく、とかは?」
私からしたらドレスが新品か一度着たかなんて見分けがつかない。案外、一度着たら着ない、とか新品であらなければ、とかが染み付いているだけで着たところで皆見分けなんてつかないんじゃないかな、と思っての発言だった。
「そうね、そうするしか無いかも。衣装部屋を覗いてみましょう」
しかし、それはよほど苦肉の策だったようで七の姫が見るからにシュンと落ち込んでしまう。それを見かねたのか織がひとつ提案をする。
「ドレスを探す前にテーマを決めてはどうでしょうか?お召し物、部屋の内装、お化粧、飾り、テーマがあれば統一感が出ます。その他たくさんのものを選ぶのにやりやすいかと」
それに落ち込んでいた七の姫が考え始めて、顔が明るくなる。うまくやれそうじゃないか、と思いながら私も考える。テーマ。私の魅力、と言うよりは七の姫の容姿、スタイルをより魅力的に見せるもの。可愛い、がそれはどちらかと言うと七の姫特有の振る舞いによるものだ。私は初めて見た時、どう思ったんだっけ。確か、精霊みたいに神秘的だって。あ。ティロンと私の頭がひとつ閃く。
「神話、は!?」
それを聞いて七の姫が本棚から前に見せてくれた本を取り出す。白水神話集!
「ああ、月華の精霊のですか?」
織がそう言えるくらいには皆が知っている話なのだろう。それに、使うものすべて白水のものなのだ、ならば白水の伝説を使った方がいいだろう。
「いいですね、ピッタリだと思います」
「そうね、髪と目の色、同じだったもの。後は確か全体的に白が基調だったのだっけ」
好感触だ。しかしもう少しだけ聞きたいことがある、主にそこの男に。
「ちょっと借りていい?あと少し耳を塞いでいてくれる?」
そう七の姫に言って健気にも言葉通りに耳を塞いだところで織に話しかける。
「何だよ」
「七の姫のこと好きな人から聞こうと思って、この見た目ってその月華の精霊に合う?」
顔見せの時に見せる相手を惚れさせるくらいの勢いで挑まなければならないだろう、と私は現に七の姫のことを好いている男に聞く。なっ、と少々顔を赤らめさせて狼狽えていたが、やがて答えを吐き出す。
「ああ、と言うか出会った時精霊様かと思ったんだから、ピッタリだよ。お前じゃなくて、姫さまに」
「それが聞きたかった、外面にあってればいいよ」
こうしてテーマは決まる。そうすると、私と七の姫はとりあえずドレス探し、空いた時間に小物や化粧の方向性を固めることになり、織は月華をモチーフにした髪飾りのデザインをねることで今日のところはお開きになった。
「それではお嬢様、七の姫様、また次はデザイン画をもって参ります」
そう言って家に帰って行った後ろ姿を今はお嬢様と言われている七の姫がジィッと見つめていた。
さて、ドレス探しだ。七の姫の衣装部屋は寝室に向かう部屋と反対方向の目立たない位置にあった。ガチャリと扉を開ける。すると、そこには現代でいうウォークインクローゼットのようなものが広がっていた。
七の姫と最低限しか話すことが無くともそれでも仕事はしているのだろう。隅から隅まで掃除が行き届き、埃も見当たらない。恐らくストッキングやらの小物や、下着類が入れられているだろうチェストは曲線の猫足バスタブのような足がついていて可愛らしい。しかし何よりもこの場を美しく見せているのはやはりドレスだろう。
現代地球でいうマネキンに着せるような保管がされている。二列に並ぶように配置されたそれらは見やすいようにかドレス同士で背を向け合うように置かれて、グラデーションのように同系色のものから並べてある。ずらりと並んだドレスはまるでそれ専用の美術館に来たようで見る者の目を楽しませる。
「きれい……」
思わず私が見惚れていると、七の姫が横をすり抜け、白のドレスがあるところに迷わず行く。そして真剣に選び始める。手に取り、色の濃さ、使われている布、刺繍を見ている。私はそれにあわててついていく。しかし、あまりにも真剣に見ているため私が後を追って近くについたことも気づいていないようだ。驚かせないように後ろから見ようと、少し視線をずらしたその時。
並んだドレスの列から少し外れたところに白いドレスがあることに気づいた。おや、こちらにも白いドレスがあったのか、と寄ってみる。そして、私はその純白と言えるドレスに心を奪われる。
それは何もかもが白かった。何の素材が使われているのか、少し光沢がある。そこに銀が混じったようなまたドレスの生地より明るい白色で胸元と裾に月と花の刺繍がしてある。プリンセスラインというよりはAライン程度に膨らんでおり、裾は前側は直線的に足が少し見える程度で、後ろの方が長く少し引きずるように波打っている。前きたドレスと同じように胸元で切られていていわゆるオフショルダーのドレスになっている。おそらく、このドレスは上に肩のあたりからショールを羽織るだけなのだろう。しかし、それがすごく幻想的に思えた。
思わず感嘆のため息をこぼしているといつからいたのかひょっこりと七の姫が顔を出す。
「あら!まあ素敵なドレス、しかも最上級の正装だわ」
そう言った後、ニコリと笑って改めて私の顔を見る。
「これ、着たい?」
あくまで私の意思を重んじる言い方に心が温まる。そして、こくりと頷く。心から言える。
「うん、着たい」
「じゃあそうしましょう!良かったわ、決まって」
そう言いながら小物や下着のあるチェストのところに行く。他の小物を決めるのだろう。前に行く七の姫に私もついていく。そして、チェストから肌と同じ色のストッキング、それを固定するリボン、コルセットや、下着を選んでいる時七の姫は独り言のように言った。
「それにしてもあのドレスいつからあったのかしら。見た覚えがないし着たこともないわ」
と。まあ、普通はその日の衣装は衣装係が持ってくるのだろうし、今回だって侍女がずっといれば衣装部屋に直接私たちが入ることもなかっただろう。だから、七の姫が知らないドレスがあってもおかしくはない。破損も汚れもない、美しい最上級の正装。それがなぜひとつだけあそこにあったのだろうか。その疑問は私たちは準備の間に忙しくて忘れてしまうが、その答えを私たちが知ることはない。
「こんなにきれいなドレスがまだ着たこともなく残っているなんて本当に幸運だわ!」
一番の不安であったドレスが見つかりそれに伴いその他の召物も織に任せた髪飾り以外選び終えた。とすれば、次に選ぶのは部屋の装飾品だ。織が家に帰った後、侍女の方に見てきてもらった部屋は確かに掃除はされているものの家具はひとつもなかった、と報告があった。とすると何を持っていけばいいだろうか?そんなことを話しながらその日は終わった。
次の日になると、織はデザイン画を持ってまた部屋に訪れた。
ドレスが見つかったことを喜んだ後、これでどうか、と出された紙には現代日本でいう月下美人のような花が一輪大きくメインとしてあり、そこから溢れた雫のような飾りがしゃらしゃらと垂れているようなものだった。
「素敵だわ!本当、あなたに頼んでよかった、」
七の姫がはしゃいだような声を上げるのを織がこの上なく嬉しそうに眺めていた。
デザインはこれでいいと後は作業に集中して、顔見せの前日までには間に合わせると織は言った。そしてその後三人で部屋の装飾品のことを考えていると織から提案があった。
「月華の精霊がテーマだとすると、淡い光の方がいいと思うんですよね」
そう言って取り出したのは現代日本でいうランプシェードのようなものだった。外側に和紙のようなものが貼ってあり、そこから漏れ出る光は柔らかい。形もころんとしていて可愛らしく、その上多角形のように紙が貼られているため、外見も美しい。
「これを二、三個足元の見えるところにおきましょう。中は今流行りの燃料式のランプみたいなもんなので発火する恐れもなくて置いておけます」
照明が決まった後は、七の姫からの提案があり全体的な方向性が決まった。曰く、
「神話の中では自然と調和しているような方だったから、あまりものは置かない方がいいかもしれないわ」
とのことだった。となると、照明、後は床に敷く絨毯、座るためのクッション程度がいいだろう、とシンプルに決まった。
「そのくらいかしら、後何か用意するものは、」
と言った七の姫とそれに首を捻っている織に私は言う。これだけは私がこの中で一番一家言ある、と言えるだろうことだった。
「いや、まだあるよ、一番重要なのが」
二人の視線が私に集まる。別に特殊なことじゃない。
「演出!」
そうして、時間は過ぎて、あっという間に3週間が過ぎた。




