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魔法学園物語~サー・トールの恋愛事情~  作者: ゆめあき千路
第六章 新米魔法使いは偉大な魔法使いの来臨を乞う

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(九)さあ、フェスティバルのはじまりだ!

『多次元管理局とは』


 境海世界では、国境ばかりか異世界の境界すらも越えて逃亡をつづける、特異な犯罪者が存在する。

 そんな恐るべき異能力を持つ犯罪者を追跡し、逮捕・拘束までを行う、境海世界で唯一の絶対中立の行政機関にして国際的司法組織、それが多次元管理局である。


 所属する捜査員は、単独であらゆる境海と国境を越え、境海をまたいだ犯罪捜査に従事することできる。それが可能なのはすべての局員が極めて優れた魔法使いであるが故だ。局員の身分と肩書きは、それを知る文明社会において、特異な犯罪者を制圧するために行われるあらゆる超法規的措置を認める許可証なのである。


 魔法使いピリオ著『多次元管理局と局員の話』より抜粋


 待ち合わせは学院の、白く寂しい通りに面した正門前だ。


 といっても、寮からは学院の敷地を囲む塀の外には出ることなく来られるから、寮の玄関から歩いて七分くらいの距離だけど。


「あ、サー・トールが来たわ」


 エリカが手を振っていた。


「ごめん、待たせた!」


 休日とは言え、僕が個人授業で取ってる剣道の教官に挨拶してきたように、他の生徒も個人授業とかいろいろ用がある。それを済ませてからの集合なのだ。


「いや、僕らも来たとこだ」


 アイルズとカイル、スミスくんとそのクラスメートに、家政学部の女子たちもいる。


 白く寂しい通り商店街フェスティバルの開幕は一〇時だ。

 僕らは一〇時ジャストに白く寂しい通りに立って、驚いた。


 通りの風景は、一夜にして、祭仕様に飾られていた。


 店舗以外の建物の前にはフェスティバルだけの露店が並んでいる。

 道のそこかしこは七色のリボンや紙製の輪飾りで華やかだ。


 そして白い花がたくさん!


 店の軒先や壁や街灯の柱には、数え切れないほどの白い花が生けられていた。白薔薇に白百合、白いかすみ草、白いガーベラ、白いチューリップに白いフリージア。しかも造花ではなく、朝露も瑞々(みずみず)しい生花だ。


 どこからともなく、行進曲みたいな軽快なテンポの曲が聞こえてくる。


 そして、たくさんの人,人、人!

 通りを埋めるその人数を目にして、僕らは青ざめた。


 この小さな町に、これほど多くの人が住んでいたのかと思うほど大勢の人が、通りに出ていた。

 人の壁のせいで白く寂しい通り商店街の風景が見えない。


 ときどき見かける人たちもいれば、まるで知らない人々がいる。どうやら近隣の街などからも大勢の見物客が来ているらしい。


 ふだんの静かな白く寂しい通りに慣れていた僕らには、まったく想定外の景色だ。


 ポーン、ポポーン!


 どこかで軽い破裂音!

 晴天の空に、花火が三発、太陽の光を濃縮したような金色の火の花がえがかれた。打ち上げられた。


 大勢の人たちが、わっ、と動き出す。

 フェスティバルのはじまりだ。


 商店街の店が扉を開ける。

 たちまちできる行列や人だかり。

 人出のすさまじさは僕らの想像と予測をはるかに超えていた。


「こりゃだめだ……」


 僕らは魔法学園の正門前から動けず、行き過ぎるおおぜいの人々を眺めていた。


「いくらなんでも人が多すぎる……。この中から、顔も知らない一人を探すなんて、できるんだろうか……」


 スミスくんの絶望に塗れたつぶやきが、僕らの心の声を代弁していた。

 そんなとことん生真面目なスミスくんのすぐそばで、アイルズとカイルは掛け合い漫才をやっている。


「これが、砂漠の砂から砂の一粒を探すってやつか」

「いや、藁山(わらやま)の中から一本の針を探すってやつじゃないか?」


 どちらも似たような意味で、不可能な難事をたとえたことわざだ。二人は真面目に考えているようだが、縁起でもないことを大真面目に言わないで欲しい……。


 ほら、せっかく集まってくれた他の生徒が不安になってる。


 カイルも女子には受けがいいし、アイルズはとくに女子に人気だから、影響力があるんだよ。親友として、アイルズがエリカ一筋で他の女子には見向きもしないと知っているが、今日くらいは顔面の良さを自覚してくれ。


「偉大な魔法使い捜しだけど、まず女性は確実に除外できる。大人で、ある程度年配の男というのだけはわかっているんだ」


 言いながら、僕はドキドキしていた。

 行き交う見物客の多くが、背広ネクタイに山高帽子を被った年配の紳士が多いような気がするのは、僕の気のせいだろうか……。


 ちなみに、いちばんの問題であった、みんなでおこなう〈偉大な魔法使い〉の捜索方法だが、次のような作戦でいくことにした。


 まず、集まってくれた有志のみんなには三、四人のグループに組んでもらい、それで行動してもらう。その後は三十分おきに正門前に集まって、メンバーの入れ替えをするのだ。


 たとえばここに四人組のグループが四組いるとしよう。

 これが第一次の四グループだ。


 その四グループで、まずは三十分間この商店街を回ってもらう。


 そこで四人で見つけたまだ見ぬ〈偉大な魔法使いかも知れない見知らぬ見物客〉へ、「あなたは偉大な魔法使いですか」という〈問いかけ〉をする。


 これはグループメンバーの一人につき問いかけできるのは二回。つまり見物客のおじさん二人までだ。

 一人で九回、つまり九人へ〈問いかけ〉を使い切ると、〈偉大な魔法使い〉がそれで見つからなかった場合、おそらくその場で教官の魔法が発動して、フェスティバル会場から強制離脱させられる。


 そうすると課題テスト終了までその生徒はローズマリーと同じ監禁状態になっちゃうから、それは避けたい。


 だから一グループが問いかけできるのは全部で八回、対象者は八人とした。


 それなら四人全員が八回の質問をしても、残りの一回があるかぎり、この白く寂しい通り商店街にとどまることができ、フェスティバル見物だけはできるわけだ。


 裏を返せば、偉大な魔法使いが三日間見つからない最悪の場合の次善の策だけど、全員が三日間寮に監禁状態になるのだけは避けたい僕だった。 


 そして、三十分経った時点で〈偉大な魔法使い〉が見つからなければ、課題テストが終わっていないということなので、すべてのグループがいったん正門前に再集合する。そこで四グループのメンバーをバラバラにして、まだ組んだことの無いメンバー同士を順繰りに組み合わせた第二次の四グループを作り、ふたたび散開するのだ。


 そうすれば、第一次のグループですでに問いかけをした人の顔を覚えているメンバー四人が、第二次では違う四つのグループに分かれているから、すでに問いかけ済みの八人の一般見物客へ二度目の問いかけをしてしまう失礼をしなくてすむ。


 実際は生徒の数はもっと多いから、グループ分けも再編成も、ざっくり適当になってしまうが、問いかけが重複する確率は少しは減らせるだろう。


 はたして、この方法がうまくいくかはわからない。あまりに急場だったので、僕らは他のアイデアを考えつかなかった。


「よし、じゃあ、この方法で、いまから三十分後にここへまた集合して……」


 急いでグループを組んでもらい、いざ、散開しようとしたときだった。

 僕は、心臓が、ドキッ! とひときわ大きく鼓動したような感覚に襲われた。


――なんだ、いまのは!?


 その感覚には明確にわかる方向性が在り、僕はパッとそっちを向いた。

 北だ。南北に長い白く寂しい通りの、北の端っこのほう。


 とつぜん、まぶしい光が差した。

 皆がいっせいに北の方角へ顔を向ける。


 そこには一本の光の柱(はしら)があった。青い空まで届かんとする、長くまばゆい黄金色の光の柱が、ズドンと立っていた。


「なんだ、あれは?」


 光の柱は、時間にすれば三秒ほどで、現れたときと同じくらい唐突に消失した。


「なんだったんだ、あれは?」


 僕らがざわついていると、人混みをかき分けて、女子と男子が数人、走ってきた。


「たいへんだ! 占術クラスのユミリが消えた!」


 話を聞けば、あの光の柱は、ユミリ嬢が魔法の光に包まれた瞬間の現象だったそうだ。


 ユミリ嬢は僕らが集合するより早く来て、単独で〈偉大な魔法使い捜し〉を始めていたという。


 僕らの魔法学のクラスと占術クラスは合同授業が少ないので馴染みが薄かったが、ユミリ嬢はローズマリーと気が合うそうで、エリカの次に仲が良い友人だった。僕は知らなかったけど、ローズマリーとはときどき図書室でお喋りしていたそうだ。


「そうか。ユミリ嬢は九回目の質問をしたんだな……」


 義理堅いユミリ嬢は、大切な友のために早起きして、ひとりで白く寂しい通り商店街へ来た。

 一刻も早く、ローズマリーの禁止魔法を解くためである。


 そしてここで、目についた〈偉大な魔法使い〉かもしれない人々に、問いかけた。


 結果は、全員ハズレ。〈偉大な魔法使い〉はそう簡単には見つからなかった。


 この件に付随した問題が一点あった。僕らはユミリ嬢が問いかけてハズレた人々の顔を知らない。その人たちがまだ白く寂しい通り商店街にいれば、またその人たちに問いかけてしまうかも知れないんだ。


「あれが教官の魔法による強制回収なんだな。……わかりやすいね」


 アイルズが引きつった顔で独りごちた。

 カイルは両手で頭をかいた。


「くそ、最初の犠牲者が出ちまったぜ」

「カイルくん、その言い方はやめてくれ。縁起でも無い」


 スミスくんは泣きそうに顔を歪めていた。


「僕は、ユミリさんに謝りにいくよ……」


 と、スミスくんがうなだれたが、それはちょっとちがうと、僕らは止めた。


 すでにこれは課題テストなんだ。スミスくん個人の問題ではなくなっている。


 つまりユミリ嬢は、先頭きって果敢にテストに挑み、一番手で回答を終えた勇者なのである。……――と、スミスくんを説得して留(とど)めたものの、時間が経つにつれて寮に監禁される生徒が増えていくのは目に見えている。


 それがわかっていて、僕らは人海戦術しか思いつかないんだが……。


「みんな、聞いてくれ。質問する回数には、特に気を付けてほしい。質問の最後の一回だけは、絶対に使わないで、残しておくようにしてくれ!」


 そうすれば、少なくとも一人八回の質問をしたあとは、フェスティバル会場に残って見物はできる。


 これでやっと僕らのやるべきルールが整った。……けれど、僕らはそれからまだ五分くらい一般客の波に押されて動けず、学院の正門前に固まっていたのだった。





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