表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔法学園物語~サー・トールの恋愛事情~  作者: ゆめあき千路
第六章 新米魔法使いは偉大な魔法使いの来臨を乞う

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

65/66

(七)人に九回誰何するのは古い魔法のルールらしい

レディ・ドルリス著『境海世界の伝説の真相と古の魔法の法則についての解説』

『女王の昔語りの章』より抜粋


 それは遠い遠いむかしのことですわ。

 わたくしのもとへ美しい貴婦人がこっそり訊ねて参りました。その方は当時、その国を治めていた王の妃でした。

 その頃から人間のあいだでもわたくしのことはよく知られておりました。王の妃は礼儀正しく挨拶されましたので、わたくしは快く謁見を許しました。

 しかし、その方の願いはたいへん困ったものでした。王の妃に選ばれるために己の特技を偽り、さらにその偽りを本物とするため、境海の悪魔と呼ばれる者と魔法の取引をしたというのです。

 さすがにわたくしはお説教をしましたわ。その取引の内容というのが、彼女が妃となり、子を産んだきっかり一年後に、その境海の悪魔の〈真の名〉を九回のうちに当てなければ、母子ともども境海の悪魔のものとなり、人間の世界から去らなければならない、という愚かな取引でしたの。

 でも、さいわいにして、彼女には反省が見られましたし、母としての自覚もありましたので、わたくしは助けることに致しました。

 彼女から境海の悪魔の特徴を聞くと、すぐ名がわかりましたので、それを教えたのです。

 そしていよいよ問題の当日、用心のため、その場にはわたくしが隠れて付き添いました。彼女には八回までデタラメな名を言って相手を油断させ、九回目で〈真の名〉を当てさせました。それで魔法の取引は効力を失うはずでした。

 ところが、彼女をか弱い人間だと舐めていた境海の悪魔は、案の定といいますか、真の名を当てられても彼女を連れて行こうとしました。

 そこでわたくしが出てひと声威嚇し、尻尾のひとふりで、そいつが二度とこの地を踏めないよう、境海の彼方へ吹っ飛ばしました。

 灰神の使徒は頑丈なので、滅ぼすのがとても難しいのです。ですから、一番手っ取り早い方法を使ったのですわ。

 王の妃は反省し、王にすべてを打ち明けました。王はたいへん驚きましたが、わたくしの口添えもあって、妃は許されました。

 わたくしは神代の時代より、〈冷たき灰色の神々〉との戦いを繰り返しておりますから、人間におかしないたずらを仕掛ける灰神やその使徒はだいたい知っているのですわ。王の妃がわたくしに知恵を借りに来たのは正しかったのです。

 みなさまも灰神の使徒の誘惑にはお気をつけあそばせ。

  * * *


 リリィーナ教官が去った直後は呆然としていた僕らだが、すぐに気を取り直した。

 (やさ)しいルールだと思ったからだ。


 それから三分くらいは「あのルールで探すなら楽勝だよな!」と、笑いながら図書室の散らかった本を片付けていた。

 生徒ひとりが九人に訊けるなら手分けして探せる。生徒全員とはいかなくても、百人近い人数で協力すれば、百人α×九人、単純計算で九百人には問いかけ可能だ。


 白く寂しい通り商店街は、直線で百メートルもない小さな町だ。ちょっとしたお祭りとはいえ、そんなに大勢の観光客が押しかけるとは思えない。せいぜい数百人規模だろうし、その中から魔法使いピリオらしい年配の男性だけ探すなら難しくはないだろう。


 僕らは楽観的に考えた。


 図書室を片付けているこの時間までは、心に余裕もあったから。

 それもあってローズマリーとエリカには先に図書室を出てもらい、後の片付けは僕とカイルとアイルズとスミスくんで引き受けた。


 あと少しで本の整理が終わるというとき、大机から本棚まで本を運んでいたカイルが、ハッと僕へふり向いた。


「なあ、サー・トール。明日、俺たちは町中で、『あなたは魔法使いのピリオリアン・ペリアンダーストンですか?』と、かたっぱしから訊ねるんだよな」


 変だな、なんだか怯えているみたいだ。

 多次元管理局の編集局の記者をめざし、インタビューを得意とするカイルが、まさか初対面の人に話しかけられないはずがない。


「そうだよ。ほかにやりようがないだろ?」


 明日やるのは、単純に人海戦術である。

 フェスティバル会場である白く寂しい通りで、僕らは手分けして見知らぬ年配の男を探し、見つけたら『あなたは〈偉大な魔法使い〉ですか?』と訊ねる。


「一人が九人に訊けるなら、一日あれば探すのは十分じゃないか?」


 下手な鉄砲も数打ちゃ当たる、あのことわざの実践である。


「いや、そうじゃないんだ。俺が言いたいのは、相手が〈偉大な魔法使い〉じゃなかった場合で……」

「あ、もしかして」


 本を棚へ順番通りに並べ直していたアイルズが手を止めふり向いた。


「訊ねた後で、〈偉大な魔法使い〉ではなかった対象者の省き方を考えたのか?」


 ちょうどアイルズも似たことを考えていたそうだ。本棚で本を順番通りに並べ替える作業をしていたら、『まだ訊ねていない人』と『すでに訊ねて違った人』を、手分けしてあちこちに散らばっている生徒が、どうやって見分ければいいのかと。


 カイルは協力者のリストを作り直そうと思って気がついた。


「手分けして片っ端から声を掛けたとして、違った人を、どうやって対象から外していくんだ? その人たちは俺らの用が済んだからって、すぐに〈白く寂しい通り〉商店街から出ていくわけじゃないだろ。祭り見物でしばらくうろついていたら、問いかけ済みとは知らない別の生徒が、また声を掛けるかも知れないんだぞ?」


 うわあ、そんな落とし穴が……。

 同じ人に違う生徒が同じ問いかけをするのはムダな行為であると同時に、相手にとても失礼なことだ。


「それ、まずいじゃないか!」


 スミスくんは心なしか青ざめていた。


「これが課題テストだと知っている〈白く寂しい通り〉商店街の関係者なら笑って許してくれるだろうが、本当に通りすがりの見物客だったら、失礼だと怒られるかも……」

「たしかにそうだな……」


 僕はローズマリーの禁止魔法解除と課題テストに合格することばかり考えていたから、僕らの行動に対して派生するほかの可能性を忘れていた……。


 いまさらかも知れないけど、不特定多数の見物客から、顔も格好もわからない一人を探すんだから、当然そうなるよな。


「そうだな、僕らはあちこちに散らばって〈偉大な魔法使い〉を探すんだ。フェスティバル見物に来た対象者を、僕らの都合で一カ所に集めるわけにはいかないし……」


 一般人へそんなふうに指示できる権限なんて、僕らには無い。

 アイルズとカイルもダメ出しをしてきた。


「対象者が数十人とは限らないぞ」

「それを確実に確認するには、みんながタイムリーに訊ね終えた対象者の情報を共有できるリストが必要になるんだよな」

「たとえば、いちいち声を掛けた人の写真を撮って、顔写真付きのリスト表を大急ぎで作って、みんなで回覧するとか?」


 むむ。これも、自分で言ってて現実的じゃないなと思う。

 カイルが歯をむき出して苦笑した。

「ひとりひとりにカメラを持たせる気かよ。名乗りも写真も拒否されたらどうすんだ。手間と時間がかかりすぎるって。一日目で見つかりゃいいけど、へたすりゃ写真付き名簿を作るだけで四日間つぶれちまうぞ」

「――だよな」


 僕は両手で頭をかきむしった。


「サー・トール、落ち着いてくれ。それはあんまり効率的じゃないというだけの話だ。……きみ一人を悩ませるつもりはないから」


 アイルズも呆れてる。

 スミスくんは居心地悪そうに視線を明後日へ向けた。スミスくんが〈偉大な魔法使い〉に会いたいことから始まった課題テストだ。僕らが困っていると身の置き所がないように感じるのだろう。


 僕が天井を見上げていたそのすきに、アイルズとカイルがスミスくんに話しかけ、次の意見をまとめた。


「こんな方法はどうだろう。サー・トール、きみがまとめ役として、質問可能な生徒に九回ずつ付き合っていくんだ。時間はかかるけど確実だぜ?」


……って、カイル、なんで僕に訊く?

 たしかに、次善の策としては悪くない方法だけど、おおいに問題はあるぞ。


「カイルかアイルズがそれをやるとしても、時間がかかって効率が悪いと思う。僕は、最速で明日の午前中には〈偉大な魔法使い〉を見つけたいんだ!」

「一日なら予定の範囲内だろう?」

「早くしないとローズマリーが寮から出てフェスティバル見物をできないだろ」


 それに僕の計画は〈偉大な魔法使い〉を探すかたわら、〈白く寂しい通り〉でテイクアウトできる軽食を片っ端から買い集めてローズマリーへ差し入れに行くつもりだ。自分の時間がまったく取れないと困るんだよ。


「あー、そうだったな、スマン。できるだけ早く、だよな……」

「カイルくん、それは僕がやるよ。なんといっても当事者だし」


 雄々しくもスミスくんが名乗りを上げた。

 僕は焦った。いくら僕でもカイルやスミスくんが苦労しているのを横目に見ながら、ローズマリーへの差し入れを買いあさるというのも寝覚めが悪いじゃないか。


「いや、やっぱりそれをやるのは効率が悪い。明日の朝までに別の案を考えるよ」


 なんといっても、ローズマリーのことだから僕がやらなくては。

 三人はホッとしたようだった。非効率的なのはわかっているんだ。


 それにしても憎らしいのはリリィーナ教官である。


「まったく、なにが激励だよ。あとからルールを付け足すなんて、リリィーナ教官のルール違反じゃないか?」

「あ! それだが、リリィーナ教官は昨日のルール説明で言い忘れていただけだそうだ」

「なんで知ってるんだ、アイルズ?」

「じつは、今日の休憩時間に、思い切ってポール教授にこの件を投げてみた」


 アイルズもなんとか抜け道がないものかと、アドバイスをくれそうな講師をつかまえて質問をしてきたようだ。


「このルールはリリィーナ教官の思いつきではなく、魔法学の課題テストでは正式な規約として昔からあるそうだ。タイミングは後出しになってしまったが、違反ではないと言われた。そして、『頑張りなさい』と励まされた……」


 結果は撃沈か……。

 僕らは必死で〈偉大な魔法使い〉を探すしかないというのが身に染みただけだった。


「こっちにしてみりゃ卑怯(ひきょう)な後出しにしかみえないのに……」


 なんでいつもリリィーナ教官にしてやられたようになるんだろう。なんとか鼻を明かしてやりたいが……。


カイルとアイルズと別れ、自分の部屋でひとりになってから、僕はあることに思い至った。


〈偉大な魔法使い〉捜しは課題テストだ。見つけて合格すれば良し。もしも不合格なら、僕らはどうなるのだろうか、と………………。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ