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第十一話

 昔、小学生くらいの時。


 祖父の葬式の後、人間は死んだらどうなるのかと父に訊ねた事がある。


 「骨だけになって、土に還るんだ」


 私は、その後は?と聞いた。


 「その後なんてないよ。それでおわり」


 テレビによると、死んだら天国という所にいくとされていた。それを信じていた私はそれなりに絶望した。父はこうも言った。


 「死んだら何も残らない。おじいさんのように燃やされて、土に還るだけだ」


 「何故、燃やされるの」


 「土に還るためさ」


 「還らなければいいのに」


 父は私の頭を撫でた。


 「死んだら何も残らない。だから皆、生きている間に頑張るんだ。悔いまで残さないようにね」


 では、頑張っていて、夢半ばで死んでしまった人は、どうしたらいいんだ。


 どうもしないよ。骨になって土に還る。


 それでおわり。




 家に帰ってから、ネットで心霊現象や除霊に関する掲示板やホームページを検索した。


 元々幽霊などの怪奇現象について、肯定的な人間ではなかった。好きか嫌いかでいえば好きな方であるが、それはあくまでエンターテイメントとしての話だ。人間は死んだら土に還って、それでおわりだ。


 しかし、直接見たわけではないから信じていないというだけの話であって、本当に死後の世界――天国や地獄。そこに行き損ね現世をたゆたう霊の存在があるとしたら、それはそれで夢のある話だと思う。


 次はお前の夢に出るかもな。


 頭の中で山下が囁きかけてきた。


 「……」


 幽霊なんていない。


 私があの廃屋で見たものは私の妄想であって、事実、木名瀬や久慈は目撃していない。


 髪の長い、白いワンピースの女。


 テレビ番組、私の幻覚、山下の夢。証言は奇妙な一致を見せている。しかし、髪の長い白いワンピースの女なんて幽霊の姿形としては相場で、偶然の一致と言っても十分に説明がつく。私も詳細な内容こそ覚えていなかったものの、あの番組は過去に確かに視聴しており、そのイメージが残っていたという事もあるだろう。山下もしかりだ。


 山下は、彼が人形の腕を壊したから、そのあと廃屋に訪れた全員を殺したがっているかもしれないと言った。それについても彼の妄想で、山下に同行した筈の人間が奇妙な夢をみただの、山下のように入院しただのという話は、今のところ流れてこない。のちにあの廃屋を訪れた私、木名瀬、久慈も同様。山下の話の信憑性は、全くない。


 しかし妄想では片付かない現象もある。


 あの小屋で私達が聞いた音。


 ラップ音というやつだろうか。空気のつめた紙袋を勢いよく叩いて割ったような音。あの音だけは、私だけの幻聴ではなく、あの場にいた全員が聞いていた。


 だがそれすらも説明のつく何かはあるだ筈だった。ラップ音の解明について昔何かで見た事がある。私はラップ音について検索をかけた。


 案の定、おもしろい記事があった。


 ひとつに、気圧の変化によって生じる音。もうひとつに老朽化のすすんだ建物に生じる軋みなどの音。


 あの時の現象を説明するのであれば後者で、やはり全てが妄想ないし偶然で説明がつくのだ。


 明日は木名瀬にその事を説明してやろう。彼女は怖がりだし、安心させてやらなければ。




 その夜また夢を見た。


 私は電車の踏切の前で、遮断機も降りていないのにぼーっと突っ立っていた。


 「木名瀬、遅いなあ」


 夢の中の私が呟く。意味は私自身にも分からない。何かの約束で彼女を待っていたのだろうと思う。


 背後から、背中を叩かれた。私は振り向き、よお、と言ったがそれは木名瀬ではなく例の白いワンピースの女だった。


 「遅かったな」


 女は何も言わない。ただニヤリと笑っている。やがて踏切の警報器が鳴り、遮断機が降りてきた。私と女は線路の外側に居たが、これからの展開は読めていた。私は足元を見つめ、ははあん、と言った。


 「そういうことか」


 女が私を突飛ばし、私は、線路の上に倒れた。五月蝿い音が鳴り響いて列車が近付いてくる。私はおかしくて笑っていた。


 「がたんごとん、がたんごとん」


 音に合わせて陽気に歌う。


 「がたんごとん、がたんごとん」


 歌っているのは私だけで女はただニヤニヤしている。まあ、死ぬだろう。ただし夢の中の話だ。列車の車輪が私にかかり、私の首は宙を舞った。私はそれでも歌っていた。


 現実に戻ってくると、ベッドがぐっしょり寝汗で濡れていた。私は舌打ちし、山下め、と呻いた。

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