第十話
帰り道、木名瀬と久慈を家まで送った。
「ここ私の家っす」
学校からわりと近い家だった。
「ん、そうか」
「あの、桐島さん……」
木名瀬は、何か言いたげだったが、やめたらしい。ずっと何か考え込んでいたようで、私と久慈が話題をふってもずっと上の空だったが、最後に笑顔で、また明日学校で、と言った。
久慈の家まで行く途中、それまで下らない話をしていたのだが、話題がきれると、不意に久慈が、
「桐島くん」
「ん」
「ありがとうね」
と言った。
「話してくれて」
私の病気の事を言っているのだと分かった。
「……あの時は、怖がらせてごめん」
「いいのよ。それより何だか、嬉しくて」
「何が」
「何がかな。分からない。なんとなく」
「そうか」
「ちゃんと話してくれた事が、かな」
「そうか」
「幻覚、しょっちゅう見るの」
「大体毎日だ」
「いつから」
「中三の夏」
車のひかれて入院してから。中体連に出損ねた事。それまで積み上げてきたものが崩れて、なんだか人生がどうでも良くなってしまった事、全て打ち明けた。
久慈は時折相槌をうちながら、最後まで黙って聞いてくれた。
「ご両親や中学の友達には話してないの」
「うん」
「どうして」
「どうしてかな。話して、今までと変わらず接してくれるかもしれない。でも心の奥底ではどう思うか、分からないだろう。そう考えるとな」
「私達にはバラしたじゃない。付き合いが短いから、このまま離れてしまってもいいってこと?」
私は黙った。久慈はくすりと笑って、ごめん、と言った。
ぐわぁん、と寺の鐘のような音が響いてきた。
「意地悪な質問だったわね」
不意に、久慈が立ち止まった。振り向くと、彼女は夕陽を背に川の対面を見ていた。視線を追うと商店街の方で祭りの準備らしい事を行っている。そういえばもうそんな時期だ。ただの準備だというのに、大勢の大人達が、対岸のこちらまで聞こえる程賑やかに騒ぎあっていた。
「世の中色んな人がいて、色んな考え方で、色んな生き方をしてる。皆同じじゃない」
「……」
「私が苦手な人は、他人に平気で迷惑をかける人」
それは誰だって苦手だろう。
「変な人は苦手じゃないわ。結実だって十分変だしね」
「木名瀬が聞いたら怒るぞ」
「そうね」
と、笑った。
「幻覚をみるからって、私は桐島くんを嫌ったりしないわ。結実だってそう。きっとご両親や友達も、そうだわ」
「……」
「私の家、この角だから」
久慈は手を振って歩いていった。
私は彼女を見送って、姿が見えなくなったのを確認すると、電柱にもたれかかった。震える手で鞄から安定剤を取り出し飲んだ。
ぐわぁん、ぐわぁん。
寺の鐘の音が段々ときつくなってくる。頭を抱えてアスファルトの地面に座り込んだ。そうして一度座り込んでしまうともう立ち上がれなかった。
また我慢の利かないやつだ。
自分の不様な姿に苦笑する。




