第13話~シンプルで何が悪いっ!~
「ただいま~」
修は玄関で靴をだるそうに脱ぐと力なく呟いた。
あの後、二人と駅まで向かっていたのだが駅に近づくにつれ学生の姿も多くなってきたので変な噂が流れるのを防ぐために先に帰ると言い出したのだ。
ちょうど疲れてもいたのでそれを理由にして帰ろうと思っていたのだが、百合奈がなんとなく不満な顔をして美希は「それじゃあまた明日にでも話をしよう」とにんまりと口の端を吊り上げていた。
結局、二人とは携帯のメールアドレスを交換して別れた。学校の奴にこんなことを知られたらきっと修は明日から男子の殺気のこもった視線を四六時中受けることとなるだろう。いや、もしかしたら闇討ちされるかもしれない。
その面からも考えてあまりしたくはなかったのだが、しないと帰らしてくれそうもなかったので渋々、交換する事にしたのだ。
身体を引きずるようにしてリビングの方へと向かうと奥のキッチンで母である楓がエプロン姿でいつものように夕飯の支度をしていた。
「あら、修おかえり」
楓はこちらに気付くと少し顔をあわせた後、また夕飯の支度をした。匂いから察するに今夜はカレーだろうと、修は内心そう思いながら自分の部屋へと向かった。
フローリングの階段を上り、手前から二つ目の部屋のドアを開けた。部屋のレイアウトはいたってシンプルでデスク、ベッド、本棚、ミニテーブルがバランスよく置かれている。デスクの上にはノートパソコンが置いてあり、他にもフィギュアが飾られている。
修の部屋はまさに『普通』であった。
ベッドの近くに適当にカバンを置くと修はそのまま倒れるようにしてベッドに身を預けた。
「ほんとに今日は面倒だった」
仰向けになり、見慣れた天井を見ながら小声で愚痴をこぼした。確かに今まで極力、普通の人としか接してこなかった修だが、今日は学校で一位二位を争うほどの美少女二人と下校した上に不良どもに絡まれ、最終的に帰るときにはメールアドレスまで交換した。
(あー! 今思ったが大変な事をやらかしたっ)
頭をわしゃわしゃとかき乱していると、ふとズボンのポケットが振動してデフォルメ設定のメロディが聞こえてきた。ポケットに手を入れ携帯を取り出して画面を見てみると、それは百合奈からのメールだった。
メール内容を確認してみると『今時間空いてるかな?』との事だった。
正直なにもしていなかったのでとりあえず『特に何もしてないから暇だ』と返信しておいた。
数分後、またメールが来たので確認すると『そっか私も暇なんだ』と書かれていた。それからメールでのやり取りをしていたのだが、夕飯が出来たので修は『飯だからまた』とだけ送ってダイニングがある下へと下りた。
食卓に着くともうすでに料理が並べられていた。
そこには特盛のカレーだけでなく、サラダやスープ、コロッケ、煮物までたくさんの料理が出揃っていた。
修はいただきますと手を合わせた後、さっそくカレーに手をつけた。皿いっぱいに盛られていたカレーは、みるみるうちに減っていきさらにはサラダ、コロッケとすべて食べきった。
この量は楓が考えて作っているもので、母親だけあって修が良く食べることは分かっているらしい。現に、修は出された物をすべて綺麗に平らげている。
「ふぅ、うまかった」
「ふふ、そう言ってもらえると母さんも作った甲斐があるわ」
腹を撫でながらそう告げると、楓は満足そうな表情をして食器を台所へと運んだ。すぐに風呂に入ろうとも思ったが、食後にすぐはさすがにきつかったので時間をおいて入ることにした。
食休みのため、リビングでテレビを見ながらジュースを飲んでいると、楓が洗い物をしながらからかった口調でこう言ってきた。
「そういえば修、彼女でも出来た?」
「ぶふっゲホッゲホッ……いったいどこから仕入れたネタだ!」
修は口に含んでいたジュースを盛大に撒き散らしむせ返った。まったく予想外な母親の問いかけに修は驚いた。
一方の楓は、図星ね? といった顔をしてさらに続けた。
「修が帰ってくる前ななちゃんと会ってね、そこで言ってたのよ。 修が女の子とイチャイチャしてる~ ってそりゃあもう不機嫌そうにね。」
ななちゃんとは七海の事で小さい頃よく遊んでいた時から「ななちゃん」と楓は呼んでいる。
楓はなぜか最後の部分だけ強調して呆れ顔で修に話した。
「あいつか……大体そんなことあるわけ無いだろっ」
「まぁ、女の子の気持ちが分からない修にはそんな事もないでしょうね」
「くっ……風呂入ってきまーす」
余計なお世話だ! と言いそうになったが、言ったら言ったでまたややこしい事になりかねないので、そそくさと風呂場に逃避することにした。
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「ふぅ、いい湯だった」
親父くさい事をいいながらリビングに入ってきたのは修である。
上がってきたばかりなのでまだ頭から湯気が立ち上っている。そのままキッチンの方へ向かい、冷蔵庫の扉に手をかけると中からパックのミルクティーを取り出して、それを勢いよく飲み干すと自分の部屋へと戻った。
「やることねーな」
ノートパソコンをつけたものの、修がやることと言えば漫画かライトノベルの新刊発売日を確認するか、ゲームの攻略サイトを見るくらいだ。
ブログやつぶやきなどは一切しておらず今まさにやることの無い状況だ。
「ガラじゃないけど黙想でもしますか」
そう呟きながらベッドに倒れこみゆっくりと息を吐いた。今までにあった事を思い返すかのようにしていると、今までのことを思い出したのかいきなり頭を抱え込んだ。
重くなるまぶたに反射して頭ははっきりと今までのことがフラッシュバックのように流れている。
「俺、明日からどうしようか?」
そんな自問自答を繰り返しているうちに、次第に意識ももうろうとしてそのまま眠りについたのだった。
今週からテスト期間に入るので恐らく来週の木曜まで更新は無理かもです。




