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俺、第1王子なのにモブだった。だから「言葉」で勝つことにした  作者: チュチュ


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チート演説


一度目の成功は、ユリアンの中に、小さな慢心を生んでいた。


(前世の知識を、もっと使えばいい)


二度目の演説の儀に向けて、ユリアンは書斎にこもり、前世の記憶――ビジネス書で読んだような言葉の数々を、必死にかき集めていた。


成長戦略。効率化。旧弊打破。価値体系の刷新。


どれも、前世では聞き慣れた言葉だった。これを並べれば、知的で先進的な王子だと思われるはずだ。そんな確信が、いつの間にか根を張っていた。


演説の儀、当日。


壇上に立ったユリアンは、用意してきた原稿を、堂々と読み上げ始めた。


「我が国の生産性は、周辺諸国と比較して、著しく低い水準にあります」


「これを打開するには、産業構造そのものの、価値体系の刷新が必要です」


「効率化を徹底し、非生産的な旧習を廃することで、国全体の成長曲線を、大きく引き上げることができます」


数字も並べた。国富を示す指標、成長率、投資対効果。前世の知識をフル活用した、隙のない――はずの演説だった。


だが、広場の反応は、明らかに違った。


貴族の何人かは、興味深そうに頷いていた。だが、民衆の顔には、困惑が広がっていた。


「……何を言ってるんだ、あれ」


「さっぱり分からん」


囁きが、次第に大きくなっていく。ユリアンは、それでも言葉を止めなかった。むしろ、伝わっていないのは理解が追いついていないだけだと、勘違いしていた。


「つまり、我が国の経済のあり方を、抜本的に見直す必要があるということです」


「もっと分かりやすく言え!」


野次が飛んだ。前回とは、明らかに空気が違う。


「……我が国の、成長戦略を」


「戦略とか成長とか、俺たちにゃ関係ねえ!」


広場の前列から、初老の男が、大声を上げた。


「お前は、俺たちの生活を見たことがあるのか!」


その一言が、広場全体の空気を変えた。


「今日の飯にも困ってる家がある。子供が病気でも医者にかかれねえ家もある。それが、その"刷新"とやらで、どう変わるってんだ!」


ユリアンは、言葉に詰まった。


答えられなかった。前世の知識を並べただけの言葉には、目の前の男の生活を変える具体性が、何一つ入っていなかった。


静まり返った広場に、失望の空気だけが残った。壇を降りるユリアンの背中に、拍手はなかった。


その夜、ユリアンは自室で、書きかけの原稿を、一枚ずつ丸めて放り捨てていた。


紙くずが、床に散らばっていく。


「殿下」


戸口に、レオンが立っていた。


「何の用だ」


答えず、レオンは床に落ちた紙の一つを拾い上げた。丸められた原稿を広げ、無言で目を通す。


「……成長戦略、価値体系の刷新、旧弊打破」


読み上げるように呟くレオンの声に、ユリアンは何も言い返せなかった。


「殿下は」


レオンが、原稿から顔を上げた。


「この中に、ご自分の言葉が、いくつありますか」


ユリアンは、答えられなかった。


一つひとつの単語を思い返してみても、それはすべて、前世の誰かの受け売りだった。自分の目で見て、自分の言葉で語った部分が、どこにもなかった。


「……ゼロだ」


ようやく、絞り出すように答えた。


「全部、借り物だった」


レオンは、原稿を、そっと机の上に置いた。


「今日の広場に、殿下の言葉は、一つもありませんでした」


「分かってる。分かってるよ」


ユリアンは、頭を抱えた。


「じゃあ、どうすればいい。何を、話せばいいんだ」


レオンは、しばらく黙っていた。それから、静かに言った。


「聞いたことのない言葉を並べるより、まず、聞くところから始めては」


その一言が、ユリアンの中に、静かに落ちていった。

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