兄弟たちの反応
演説から三日目の朝、ユリアンは約束通り、東部への食糧輸送隊を送り出した。荷馬車の列を見送りながら、レオンが小さく呟いた。
「間に合いましたね」
「当然だ。約束したからな」
軽口のつもりだったが、レオンは何も言わず、輸送隊の列を見ていた。
その日の午後、ユリアンは執務室で、他の三人の兄弟の動きを耳にすることになった。
まず、第2王子マクシミリアンの噂。国境沿いで小規模な武装集団が目撃されたとの報告を受けるや、その日のうちに部隊を編成し、翌朝には現地へ到着していたという。
「判断が速い」
報告書を読みながら、ユリアンは素直にそう思った。軍人肌と侮っていたが、指揮官としての判断力は、本物だった。
次に届いたのは、第3王子セドリックに関する話だった。
先月から、商業ギルドの間でくすぶっていた関税を巡る対立を、セドリックがわずか一週間で仲裁したという。双方に利のある折衷案を提示し、大商人たちが揃って頭を下げたとの噂だった。
「……あいつ、十八だったな」
年齢を考えると、恐ろしい手腕だった。感情を挟まず、数字だけで人を納得させる。ユリアンには、真似のできない領域だった。
そして、第4王子ジークフリート。
こちらは、噂というより、目に見える形で伝わってきた。城下の貧民街を歩くジークフリートの姿を、ユリアン自身、馬車の窓から見かけたのだ。
粗末な身なりの子供たちに囲まれ、しゃがみ込んで、一人ひとりに笑いかけている。護衛もほとんど連れず、まるで気負いのない足取りだった。
「あれは、ジークフリートか。いつもああして街を歩いているのか」
御者に尋ねると、当然のように頷きが返ってきた。
「ジークフリート殿下は、週に二度は貧民街へ足を運ばれます。孤児院の建て替えも、殿下の私財だと聞いております」
ユリアンは、しばらく声が出なかった。
(こいつは、本物だ)
演出でも、票集めでもない。心の底から、民を大事に思っている。そういう人間にしか出せない空気が、あの後ろ姿にはあった。
夜、自室に戻ったユリアンは、机の前で頭を抱えた。
「……三人とも、化け物じゃないか」
軍才、知略、人徳。それぞれが、王の器にふさわしいものを、既に持っている。
対して、自分にあるものといえば――前世の記憶と、多少の口先だけだ。
「弱気になっておられますか」
いつの間にか、レオンが戸口に立っていた。
「弱気にもなる。あの三人を見た後じゃな」
「では、お聞きしますが」
レオンは、部屋の中に入ってきた。
「殿下は、あの三人のうち、誰かになりたいとお思いですか」
「……いや」
考えるまでもなく、答えは出た。
「俺は、俺のやり方でやるしかない」
「でしたら、比べる必要はないのでは」
素っ気ない言い方だったが、妙に芯を食っていた。
「お前、たまにいいことを言うな」
「たまに、ですか」
わずかに、レオンの片方の口角が上がった気がした。見逃しそうなほど、一瞬だけ。
「次の演説の儀は、来月だ」
ユリアンは、机の上の白紙を、また一枚引き寄せた。
「あの三人と同じ土俵で戦うつもりはない。俺は、俺にしかできない演説をする」
まだ、何を語ればいいのか、はっきりとは見えていない。だが少なくとも、怖気づいている場合ではないことだけは、確かだった。




