エピローグ
数年後。
朝の光が、寝室の窓から差し込んでいた。
ユリアンは、机に向かい、今日の演説の原稿を、最後まで読み終えたところだった。国王として立ってから、もう何度目になるか分からない、恒例の演説だった。
「どうだ?」
原稿を差し出すと、隣に立つレオンは、それを一通り読み、少し眉を寄せた。
「長いです」
「そこ?」
思わず、聞き返した。もっと、内容について何か言われるかと思っていた。
「あと、格好をつけすぎです。ここの、"我々が共に歩む道を"のくだりとか」
「……悪いか」
「国王にもう少し、敬意はないのか」
そう返すと、レオンは、涼しい顔で言い返した。
「敬意があるからこそ、正直に申し上げているのです」
軽口を交わしながら、ユリアンは、小さく笑った。何年経っても、この男の遠慮のなさは、変わらない。
かつて、命令にすら背いたあの男が、今は、隣で、当たり前のように、原稿に目を通してくれている。その事実が、ユリアンにとっては、何よりの安心だった。
「じゃあ、少し削るか」
「そうしてください。演説は、長ければいいというものでは、ありません」
「分かってる。お前に、一番、教わったことだ」
原稿に手を入れ終えると、ユリアンは、身支度を整えた。窓の外には、王城前広場に集まり始めた人々の姿が、小さく見えていた。
扉に手をかけたところで、ユリアンは、一度、足を止めた。
振り返ると、レオンが、いつものように、静かな目で、こちらを見ていた。
「レオン」
「はい」
「見てて、くれ」
かつて、鍛錬場で、不安を抱えたまま告げた言葉と、同じ言葉だった。だが、その響きは、あの頃とは、まるで違っていた。
あの日は、縋るような願いだった。
今は――ただ、隣にいてくれる人への、当たり前の言葉だった。
レオンは、しばらく、ユリアンを見つめたあと、静かに、微笑んだ。
「ええ。ずっと」
その一言を背に、ユリアンは、扉を開けた。
朝の光が、まっすぐに、二人を照らしていた。




