俺たちで
最後の演説の儀から、一週間後。
王城の大広間には、貴族、官僚、そして市民の代表までもが招かれ、立太子の式典が執り行われようとしていた。
床から起き上がれるようになった王が、玉座に座り、静かに、その場を見渡していた。
「半年にわたる演説の儀、その結果を、ここに宣言する」
宰相の声が、大広間に響いた。
「次期国王――王太子に、ユリアン・フォン・アルデンヴァルトを、任命する」
割れんばかりの拍手が、広間を包んだ。ユリアンは、壇上に進み出て、深く頭を下げた。
「謹んで、お受けいたします」
拍手が収まるのを待って、ユリアンは、顔を上げた。そして、視線を、三人の弟たちへ向けた。
「この半年、私は、多くのことを学びました。中でも、最も大きな学びは――私一人では、この国を、支えきれないということです」
ユリアンは、まず、マクシミリアンに視線を向けた。
「マクシミリアン。お前の判断力と、現場を見る目は、誰にも真似できないものだった。この国の軍事を、お前に託したい」
「謹んで、拝命いたします」
マクシミリアンは、まっすぐに背筋を伸ばし、頭を下げた。
「セドリック。お前の緻密さと、数字への誠実さは、この国の土台を支えるに、ふさわしい。財政を、お前に任せたい」
「異存は、ありません」
セドリックは、いつもの皮肉げな笑みを、わずかに緩めた。
「ジークフリート。お前の善意は、本物だ。だが、一人で抱え込む必要は、もうない。福祉と教育の仕組みを、これからも、お前の力で、育てていってほしい」
「兄上……はい。全力を尽くします」
ジークフリートの目に、光るものがあった。
「かつて、私たちは、王座を懸けて争いました」
ユリアンは、広間全体を見渡した。
「ですが、これからは、争うのではなく、それぞれの力を持ち寄って、一つの国を作っていきます。弟たちを蹴落とすことでは、この結果には、辿り着けなかった。彼らがいたから、私は、ここに立っています」
広間に、温かい拍手が、再び湧き起こった。
そして、ユリアンは、最後に、一つ、告げなければならないことがあった。
「もう一つ、この場を借りて、皆さんにお伝えしたいことがあります」
広間が、静まり返った。ユリアンは、視線を、広間の端に立つレオンへ向けた。
「私の近衛騎士、レオン・エーレンバルトを――生涯の伴侶として、迎えたいと思います」
一瞬の静寂のあと、大広間が、大きくどよめいた。だが、それは、拒絶の色ではなかった。この半年、レオンが陰で王太子を支え続けてきたことを、少なからぬ者たちが、知っていたからだ。
「殿下……」
レオンが、驚いた様子で、一歩、前に出た。
「今さら、驚くことでもないだろう」
ユリアンは、小さく笑った。
「お前が、俺を見てきてくれたように、俺も、これから先、お前を見ていく。それを、この国のすべての人の前で、誓いたかった」
レオンは、しばらく、言葉を失っていた。それから、深く、頭を下げた。
「……謹んで、お受けいたします」
大広間に、割れんばかりの祝福の拍手が、いつまでも、鳴り響いていた。
かつて、モブのように扱われていた第1王子は、今、多くの人々に支えられ、見守られながら、新しい国の形を、歩み始めようとしていた。




