俺一人では
三日間は、瞬く間に過ぎていった。
まず届いたのは、マクシミリアンからの報せだった。
「リンデン地方の鎮圧、完了した」
戦装束のまま、マクシミリアンは、報告に駆けつけた。
「反乱を率いていた者たちに、話を聞いた。案の定、"防衛税"の正体を知らされないまま、重税に苦しめられていただけだった。首謀者として祭り上げられていた男も、実際は、司教の関係者から金を渡されて、扇動されていただけだ」
「民への処罰は」
「最小限に留めた。悪いのは、扇動した側だ」
マクシミリアンは、そう言い切った。以前の、力だけを頼みにしていた彼とは、明らかに違う判断だった。
続いて、セドリックが、分厚い書類の束を携えて現れた。
「送金の全容が、掴めた」
セドリックは、机の上に、資料を広げた。
「司教は、複数の貴族家を経由して、資金を洗浄していた。その資金は、演説の記録係への報酬、リンデンでの扇動費用、そして――王の主治医の一人への、不審な支払いにまで、繋がっている」
「主治医、だと」
「王の発病が、自然なものではなかった可能性が、極めて高い。毒物とまでは断定できないが、症状を長引かせる薬を、意図的に処方していた疑いがある」
謁見の間に、重い沈黙が落ちた。
最後に、ジークフリートが、静かに部屋に入ってきた。その表情は、これまでになく、硬かった。
「証言する準備は、できています」
「本当に、いいんだな」
「はい」
ジークフリートは、まっすぐに、ユリアンを見た。
「あの人に、これ以上、誰かを利用させるわけにはいきません」
三日後、四人の王子は、王の寝室を訪ねた。王は、まだ床から起き上がれる状態ではなく、寝台に身を横たえたまま、四人を迎えた。
「……揃って、どうした」
かすれた声で、王が問うた。ユリアンは、寝台の傍らに膝をつき、静かに切り出した。
「父上に、ご報告があります」
マクシミリアンの鎮圧報告。セドリックの資金の全容。ジークフリートの、司教との実際のやり取りについての証言。それぞれが、順に、寝台の脇で、証拠を読み上げていった。
一つひとつが積み重なり、やがて、一つの絵となって浮かび上がった。
司教を中心とした一派は、王位争いそのものを利用し、国を裏から操ろうとしていた。争いを長引かせ、混乱させることで、自分たちの影響力を強めるために。父上の病も、その一環だった可能性が高いこと――そこまで告げると、王は、しばらく、目を閉じたまま、動かなかった。
やがて、王は、横たわったまま、かすかに頷いた。
「……分かった。よく、調べ上げた」
弱々しい声だったが、そこには、確かな怒りが滲んでいた。
「すぐに、然るべき処置を取るよう、宰相に申し付けよ」
王の寝室を出たあと、ユリアンは、しばらく、一人、廊下に立ち尽くしていた。
(終わった……いや、まだだ)
演説の儀は、まだ、一回残っている。だが、それよりも先に、ユリアンの胸を占めていたのは、別の思いだった。
マクシミリアンの鎮圧がなければ、リンデンの混乱は収まらなかった。
セドリックの追跡がなければ、資金の流れは、闇に葬られたままだった。
ジークフリートの証言がなければ、司教を追い詰める決め手は、なかった。
そして、レオンが、命を懸けなければ――すべての糸口すら、掴めなかった。
「俺一人じゃ……」
ユリアンは、誰もいない廊下で、ぽつりと呟いた。
「俺一人じゃ、この国を、救えなかった」
それは、敗北の言葉ではなかった。むしろ、これまでのどんな演説よりも、確かな実感を伴った、一つの真実だった。
窓の外には、夕暮れが広がっていた。最後の演説の儀を、三日後に控えていた。




