王位争いに巻き込まれる
それから三日後、王は玉座の間に四人の王子を呼び出した。
ユリアンも、レオンを従えてその場に立っていた。並ぶのは、軍人肌の第2王子マクシミリアン、冷静な目をした第3王子セドリック、そして穏やかな笑みを絶やさない第4王子ジークフリート。
「半年後、次期国王を定める」
王の声は、短く、しかし重かった。
「継承順は関係ない」
王は、四人の顔を順に見渡した。
「これより半年の間、月に一度、王城前広場にて"演説の儀"を行う。回数にして、全六回。その都度、貴族と民衆の前で語り、支持を集めよ。半年後、最も多くの支持を得た者を、次期国王とする」
ざわめきが起きた。当然だろう。これまで継承順第一位だったユリアンの座が、初めて揺らいだ瞬間だった。
(俺の――これまでの行いのせいだ)
暴君と呼ばれた過去が招いた結果だと、ユリアンにはすぐに理解できた。驚きはしたが、恨む筋合いはない。
判定方法は、月に一度、王城前広場で行われる「演説の儀」。貴族と民衆、双方の支持を集めた者が、半年後、王太子に選ばれる。
謁見の間を出たあと、ユリアンは自室で一人、考え込んでいた。
正直なところ、王になりたいとは思わなかった。前世でも、人の上に立つことより、目の前の一つの契約をまとめる方が性に合っていた。
(王って、めちゃくちゃ大変そうだな……)
責任の重さを思うと、気が滅入った。このまま静かに、目立たず暮らせるならそれでいい。そう思っていた矢先、侍従長のアルバートが、青い顔で部屋を訪ねてきた。
「殿下。折り入って、お耳に入れておきたいことが」
「なんだ」
「継承順位の通りに次期国王が定まった場合は、他の王子方も、それぞれの地位を保ったまま国に残られます。しかし――今回のように、継承の座を巡って争いが起きた場合は、話が別です」
「……どういうことだ」
「先例では、争いに敗れた王子は、修道院送り、あるいは幽閉、時には国外追放という処遇を受けております」
ユリアンは、息を呑んだ。
「……それは、俺個人の話だろう」
「いいえ」
アルバートは、静かに首を振った。
「争いが起きた場合に限り、敗れた王子に近しい者――側近や使用人も、"第1王子派"として粛清の対象になり得ます。過去、そういう例がございました」
部屋の温度が、すっと下がった気がした。
(側近や使用人も……巻き込まれるのか)
ユリアンの脳裏に、真っ先に浮かんだのは、あの冷たい目をしたレオンの顔だった。
そして、日頃から自分に仕えてくれている侍女や、料理人や、庭師たちの顔も。
自分一人がどうなろうと構わない。それが本音だった。だが――
「俺についてきた人間まで、巻き込むわけにはいかない」
思わず、声に出していた。アルバートが、少し驚いた顔をする。
「殿下?」
「俺は、王になりたいわけじゃない」
ユリアンは、窓の外を見た。城下の灯りが、ぽつぽつと灯り始めている。
「でも、この争いから降りたら――お前たちが、俺の代わりに責任を取らされる。それだけは、絶対に嫌だ」
これは、王になりたいという野心ではない。守りたいという、ただそれだけの理由だった。
「俺は、この半年、本気でやる」
アルバートの表情に、わずかな安堵が浮かんだ。
「かしこまりました。何なりとお申し付けください」
一人になった部屋で、ユリアンはもう一度、自分に言い聞かせた。
(勝つ必要はない。逃げ切ればいい……いや、違うな)
半年間、演説の儀は六回。その一つひとつを、本気で戦わなければ、支持など集まるはずがない。
(前世の記憶がある。人前で話すことには、多少の自信もある。だったら――)
ユリアンは、机の上の白紙を一枚、手元に引き寄せた。
まだ何を書けばいいのか、確信はなかった。それでも、この紙の上から、すべてが始まる気がした。
翌朝、ユリアンはレオンを呼んだ。
「レオン。しばらく、俺に付き合ってもらいたい」
「命令でしたら」
その返事には、まだ距離があった。ユリアンは小さく頷き、ただ「頼む」とだけ返した。
こうして、モブのように扱われてきた第1王子の、半年間の戦いが始まった。




