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俺、第1王子なのにモブだった。だから「言葉」で勝つことにした  作者: チュチュ


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モブになった王子


謁見の間には、重苦しい沈黙が満ちていた。


ユリアン・フォン・アルデンヴァルトは、玉座の傍らに立ち、謁見の間の中央で片膝をついている近衛騎士へ、冷ややかな視線を向けていた。


「つまり、東部の食糧備蓄が底をついたのは、お前の管理不行き届きだと言うのだな」


跪いているのは、レオン・エーレンバルト。今朝がた、東部から届いた急報を持ってきたその男だった。


本当のところ、備蓄が尽きた原因は、半年前にユリアン自身が決めた予算配分にある。それを誰よりもよく知っているのは、他ならぬユリアン本人だった。


けれど、王の御前で「自分の失策」と認めるつもりは、微塵もなかった。


「レオン・エーレンバルト。お前には、しばらく謹慎を命じる。それから――」


言葉を続けようとした、その瞬間だった。


頭の中に、何かが雪崩れ込んできた。


満員電車。スーツ姿の自分。会議室で頭を下げる自分。「申し訳ございません、私の確認不足です」と、取引先に謝罪する自分。


――営業だった。前世の、自分。


そして今、目の前で膝をついている男に、無実の罪を着せようとしている自分。


(待て。待て待て待て。これ、俺がやってること、完全に――)


「……モブだ」


思わず、声が漏れた。


「殿下?」


レオンが顔を上げる。ユリアンは、自分の口から出た言葉に、自分自身が驚いていた。


(俺、悪役モブみたいな真似してるじゃないか。責任転嫁して、部下に押し付けて――こんなの、どこかで見たことのある展開だ)


心臓が、痛いくらいに脈打っていた。前世の記憶は、まだ断片的にしか繋がらない。名前も、正確な年齢さえも、はっきりとは思い出せない。


けれど一つだけ、確信できることがあった。


これは、間違っている。


「……撤回する」


ユリアンは、玉座の王に向き直った。


「父上。東部の備蓄不足は、私の采配ミスです。半年前、予算を軍備に傾けた判断が、原因です」


謁見の間が、ざわめいた。玉座の王は、値踏みするような目でユリアンを見ている。


「今さら、何を言い出すのだ」


「事実を申し上げているだけです。レオンに、責はありません」


沈黙が落ちた。やがて王は、興味を失ったように「下がれ」とだけ言った。


謁見の間を出たユリアンは、廊下でレオンを呼び止めた。


「レオン」


「はい」


「先ほどの謹慎の件は、撤回する。それから――お前が受けるはずだった処罰も、できる限り軽くするよう手配する」


てっきり、驚くか、あるいは礼を言われるだろうと思っていた。


だが、レオンの表情は、微動だにしなかった。


「今さら、何のおつもりですか」


その声には、感謝どころか、わずかな刺さえ感じられた。


「……何?」


「殿下は昨日まで、私に何を命じても構わないと考えておられたはずです。それが今日になって、急に手のひらを返された。理由を伺っても?」


ユリアンは、言葉に詰まった。まさか「前世の記憶を思い出したからだ」とは言えない。


「……色々と、思うところがあった。それだけだ」


「そうですか」


レオンの返事は短く、そこに温度はなかった。


「処罰の軽減についても、結構です。あなたに恩を売られたとは思いません」


「レオン」


「失礼します」


一礼して、レオンは去っていった。その背中を、ユリアンはしばらく見送った。


(そうだよな。今さら「変わった」なんて言われても、信じられるわけがない)


自分がこれまで、この男に――いや、この国の誰に対して、どれだけのことをしてきたのか。ユリアンには、まだその全貌さえ分かっていない。


けれど一つだけ、はっきりとしたことがあった。


このままではいけない。


何かが、根本から変わらなければならない。


自分の部屋に戻ったユリアンは、鏡に映る自分の顔を、じっと見つめた。


銀に近い金髪。青灰色の瞳。「冷たい」と評されてきたこの顔の裏に、これまでどれだけの人間を傷つけてきた記憶が眠っているのか。


想像すると、背筋が冷えた。


だが同時に、前世の記憶――誰かの前で言葉を尽くし、頭を下げ、時には人の心を動かしてきた記憶が、確かに自分の中にあることも分かった。


(この力を、今度は正しく使う番だ)


窓の外では、夕暮れが城壁を赤く染めていた。ユリアンはまだ知らない。この日の選択が、半年後、玉座を懸けた戦いへと繋がっていくことを。

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