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俺、第1王子なのにモブだった。だから「言葉」で勝つことにした  作者: チュチュ


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19/28

内乱の火種


王の容態が落ち着いたのも束の間、今度は、地方から不穏な報せが届いた。


南部の穀倉地帯、リンデン地方で、領主に対する住民の反乱が発生したという。


「詳細は?」


謁見の間に集まった四人の王子に、宰相が報告した。


「リンデン領主の重税に耐えかねた農民たちが、蜂起いたしました。領主の館が一部、焼き討ちに遭ったとのことです」


「重税、だと? リンデンは、確か、豊作続きのはずだが」


セドリックが、眉をひそめた。


「税率自体は、例年通りです。ですが、今年から、新たな"防衛税"なる名目の徴収が、上乗せされていたようです」


「防衛税?」


「南部国境の防備強化を目的とした、臨時の税とのことですが……我々は、そのような指示を出した覚えがありません」


ユリアンは、報告を聞きながら、背筋に冷たいものを感じた。


(南部の国境――あそこは、マクシミリアンと一緒に、物資輸送の経路を見直した地域じゃないか)


自分たちが動かした改革が、何らかの形で、この"防衛税"の口実に利用されているのではないか。そう思うと、嫌な予感が、胸の奥に広がっていった。


「マクシミリアン」


「兄上も、気づいたか」


マクシミリアンも、同じ場所に思い至っていたらしい。表情が、明らかに強張っていた。


「俺たちが見直した国境防衛の話が――誰かに、都合よく使われている、ということか」


謁見の間に、緊張が走った。


「では、誰の指示だ」


「調査中ですが、領主の独断、あるいは――何者かの入れ知恵か、と」


ユリアンは、レオンと視線を交わした。演説の記録、資金の流れ、司教の言葉。そこに、また一つ、不自然な糸が繋がった気がした。


「兄上」


マクシミリアンが、ユリアンに顔を向けた。


「これも、あの件と関係あると?」


「断定はできない。だが、無関係とも思えない」


謁見のあと、四人の王子は、珍しく、揃って別室に集まっていた。これまで、互いに競い合う立場でしかなかった四人が、初めて、同じ卓を囲んでいた。


「まとめると、こういうことだな」


セドリックが、帳面を開いた。


「不自然な資金移動。演説を執拗に記録する謎の男。教会関係者の、政治への不審な干渉。そして、今回の、根拠不明な"防衛税"による内乱」


「教会関係者、というのは」


ジークフリートが、静かに尋ねた。その声には、すでに、嫌な予感が滲んでいた。


「はっきりとは言えないが」


ユリアンは、言葉を選びながら、答えた。


「お前が、いつも世話になっている、あの司教だ。資金の流れが、あの人の周辺と重なっている」


ジークフリートの顔から、みるみる血の気が引いていった。


「……そんな」


しばらく、声が出ない様子だった。それから、絞り出すように、続けた。


「あの人は、俺に、孤児院のことでも、いつも良くしてくれていました。信じられません」


「まだ、確証があるわけじゃない」


「ですが、もし――もし、本当に、俺を、いいように利用していたのだとしたら」


ジークフリートの声が、次第に、震えを帯びていった。


「それは、絶対に、許せないことです」


普段の穏やかな彼からは、想像もつかないほどの、鋭い響きだった。ユリアンは、その横顔に、これまで見たことのない、強い意志を見た気がした。


「バラバラに見えて、繋がっているように思える」


ユリアンが、続けた。


「誰かが――俺たちの王位争いを利用して、この国を、裏から動かそうとしている」


「目的は?」


ジークフリートが、静かに尋ねた。


「分からない。だが、王位争いが混乱すればするほど、得をする誰かがいるのは、確かだ」


沈黙が、部屋に落ちた。それぞれが、それぞれの立場で、この不穏な流れを、噛み締めていた。


「今は、まだ、確証がない」


ユリアンは、静かに続けた。


「だが、残りの演説の期間中に、何か仕掛けてくるかもしれない。もし、そうなったときは――」


「表向きは、これまで通り、俺たちは競い合っている。だが、裏で仕掛けられた話には、乗らないでほしい」


「兄上を、疑えと言われても?」


マクシミリアンが、鋭く尋ねた。


「そうだ。もし、俺が何かをやったという証拠が出てきても、まず、その出所を疑ってほしい」


「兄上も、同じようにしてくれるなら」


セドリックが、口を挟んだ。


「約束する」


四人の視線が、静かに交わった。これまで、競い合うことしか知らなかった兄弟たちの間に、初めて、共通の警戒心という名の絆が、生まれつつあった。


その夜、ユリアンは、レオンと共に、夜更けまで、集めた情報を整理していた。


「まだ、点が線になっただけだ」


「ですが、確実に、何かが近づいています」


レオンの言葉に、ユリアンは頷いた。


「次の演説の儀まで、あと一回。その前に、これ以上、何か起きなければいいが」


窓の外、南部の空の方角を、ユリアンは、しばらく見つめていた。嵐の気配は、すでに、すぐそこまで迫っているようだった。

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