↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俺、第1王子なのにモブだった。だから「言葉」で勝つことにした  作者: チュチュ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
10/28

血の通う政策


三度目の演説の儀は、騎士団の間に漂う冷ややかな空気の中で迎えることになった。


「今度は、何を語るおつもりですか」


準備を手伝いながら、レオンが尋ねた。


「兵士のことだ」


ユリアンは、帳面を開いた。市場と兵舎を回った日に書き留めた言葉、そして、あの遺児との対話。すべてが、そこに詰まっていた。


「英雄と呼ぶかどうかは、もういい。俺は、今この国境を守ってる人間の、現実の話をする」


壇上に立った日、広場には、これまで以上に多くの騎士たちが詰めかけていた。ユリアンへの反感が、かえって彼らの関心を引いていたのかもしれない。


「先日、国境で命を落とした四名の兵士のうち、一名の家を、私は訪ねました」


ユリアンは、静かに切り出した。


「その家には、六歳になる息子がいました。父親を、英雄だったかと聞かれ、私は――名誉ある犠牲、とは言いませんでした」


ざわめきが起きる。騎士団の間から、鋭い視線が向けられた。


「なぜなら、名誉や英雄という言葉は、遺された家族の生活を、一つも支えないからです」


ユリアンは、一拍おいた。


「今、この国境防衛に携わる兵士は、二千三百人。そのうち、装備の更新が五年以上滞っている部隊が、四割を超えています」


具体的な数字に、騎士団の空気が、わずかに変わった。


「負傷後、現場を離れざるを得なくなった兵士への保障は、この十年、見直されていません。傷を負って国を守った者が、その後の生活に困窮する。それが、この国の現実です」


「今日から、これを変えます」


声を強めた。


「まず、殉職者の遺族への支援金を、現行の三倍に引き上げます。財源は、来年度予定していた城の装飾費から回します」


「次に、老朽化した装備の更新を、二年以内にすべて完了させます」


「そして、負傷により前線を退いた兵士には、城内の文官職への優先登用を保証します。剣を握れなくなっても、この国を支える道を、失わせません」


広場が、静まり返っていた。だが、それは失望の沈黙ではなかった。


「私は、皆さんを、"英雄"という言葉で美化して終わらせるつもりはありません」


ユリアンは、まっすぐに騎士団を見た。


「英雄と呼ぶことは簡単です。でも、それだけでは、誰の生活も守れない。私は、皆さんの生活を、守ります」


沈黙のあと、一人の古参兵士が、ぽつりと呟いた。


「……あの子供の家に、本当に、行かれたのか」


「行った」


「なぜ」


「知りたかったからだ。俺の言葉が、誰かの生活に届くのか、届かないのか」


古参兵士は、しばらくユリアンを見つめたあと、小さく頷いた。


「……悪くない話だ」


その一言をきっかけに、拍手が、まばらに広がり始めた。前回のような熱狂ではない。だが、確かな、静かな支持だった。


壇を降りたユリアンに、マクシミリアンが近づいてきた。


「兄上」


「なんだ」


「あの演説は――俺には、できなかった」


意外な言葉だった。ユリアンは、少し驚いてマクシミリアンを見た。


「俺は、士気を上げることしか考えていなかった。だが、兄上は」


マクシミリアンは、言葉を選ぶように続けた。


「あの子供に、会いに行ったのか」


「ああ」


「……そうか」


それだけ言うと、マクシミリアンは、短く頷いて去っていった。まだ、雪解けと呼べるほどのものではない。だが、何かが、確かに動いた気がした。


レオンが、静かに隣に立った。


「支持を、奪ったわけではありませんね」


「ああ」


ユリアンは、騎士団の方を見た。まだ半信半疑の顔をした兵士たちの中に、いくつかの、頷きが混じっていた。


「兵士の現実を、見た結果だ。それだけだ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。