ちょっと反則。でもなんか刺さった。
仕事帰り。
何となく遠回りしたくて、駅の反対側の、人通りの少ない高架下を歩いていた。
別に理由なんてない。家に帰っても静かすぎて落ち着かないだけだ。
ふと、ギターの音が聞こえた。
上手いとか下手とかじゃなくて、胸の奥に妙に引っかかる音。
誰だよ、こんなとこで弾いてんの。
そう思って音の聞こえてきた方を探したら、一人の男の姿を見つけた。
スーツのまま、膝にギターを抱えてる。
指先には迷いがなくて、表情はいつもより少し柔らかい……って、
「……は?」
その横顔を見た瞬間、思わず声が漏れた。
あいつ、職場の……!
いやいや、嘘だろ。
あの真面目で、落ち着いてて、頼んだら何でも引き受けてくれるあいつが? ギター?
聞いてないし。
てか、そんな雰囲気じゃないだろ。
でも……音を聴いてたら、なんか分かる気がした。
ああ、あいつも俺と同じように、“どこかに戻りたくない夜”があるんだなって。
それからしばらく、俺はちょいちょい高架下に寄るようになった。
ただあの音が耳に残って離れなくて。ただあの音に触れたくて。
あいつはいつも同じ場所で、同じ姿勢で、同じ静けさでギターを弾いていた。
俺は物陰で聴いていた。
声をかける勇気なんてないし、かけるにしたって何て言えばいいかも分からない。
それに、あいつは俺に気づいてない。気づいてても、たぶん何も言わない。
同期で、同い年で、同じ部署で。
普通に話すし、仕事も一緒にする。
飲み会にだってあいつ顔出すよな。付き合いは悪くない。
でも、深い話なんてしたことがない。
ただ、俺はずっと前から、あいつの落ち着きとか、仕事の丁寧さとか、無駄に騒がないところとか、そういうのがちょっと羨ましかった。
俺にはないものばっかりだから。
その上、俺が昔出したくても出せなかった音を出せるなんてずるいよな。
ある日の午後、コーヒーを買いに休憩室に行ったら、あいつが一人、椅子に座ってた。
紙コップを手に持って、ぼんやりしてる。
「よう、おつかれ」
「ああ、おつかれ」
自販機の前に立ってボタンを押しながら、なんでか緊張しつつ俺は声をかけた。
別におかしくないよな。同僚と休憩室で会えば挨拶ぐらいするもんな。
でも、ここ最近聴いてたあの音を思い出したら、胸の奥がざわついた。
別に、沈黙が気まずいとか、そんなんじゃないけど、
「あのさ……友だちになってくんねえかな」
言った瞬間、心臓が跳ねた。
何言ってんだ俺。
この歳になって小学生じゃあるまいし、女の子に連絡先聞いてるわけでもないのに。
いやむしろ女の子に声かける方が楽じゃねえ?
うわーコーヒーもっとでかい音立てて注がれてくれよ。
内心動揺しながらふと横目で見ると、いつもの夜と同じ、深いところに何かを宿した目が俺を見ていた。
そして、静かな声が聞こえてきた。
「どうして?」
そうきたか。
やぎ座は意外に音楽に適性がある




