5/7(金)『同級生の不安/退院と帰宅』
上手く書けたどうか分かりません。蔑ろにしてないかが心配です。
5月7日金曜日
今日も後ろの席の奴は休んでいる。俺の後ろの席の奴、...斎藤忍。
身長180cm程度と長身で外見は不良のような目付き悪いが、クラスの中であまり馴染めていなさそうな俺のクラスメイトだ。
実際、彼はクラスに馴染めていないし、自ら交友関係を築こうなんてしていない。
普段から教室内では彼が喋っている所を見ない。
唯一、彼が口を開いて言葉を発するのは彼女に対しての挨拶程度だ。
彼女というのは立木青葉の事である。
外見は整っており、清楚なイメージがピッタリな彼女に対してはちゃんと挨拶をする。どうやら、二人は互いに知り合いのようだ。
そんな彼が二日続けて、休んでしまっている。
それがどういう意味を指しているかなんて、俺には分からないし無関係な事なのだ。
そう、今の俺には関係ない。
授業を終えた後、昼食を食べに移動する為に教室に出る。
「ハル君」
俺に誰かが声をかけてきた。
コイツの名前は新谷優斗。小学校からの付き合いで、俺の数少ない友人だ。
「どうした?」
「久し振りに一緒にご飯とか...どうかなって思って」
「別に良いけど」
大抵、一人で食事をしている。別に友達がいないという訳じゃない。
ただ個人的には一人でいる方が気が楽でいいという所がある。
そう考えると俺も後ろの席の奴と同類だったりするのだろうか?
「たまには誰かと食事するのも悪くないか...
そんじゃあ、教室で待っててくれるか?俺、購買でパン買ってくるから」
「あのさ、ハル君のクラスの教室じゃなくて、僕のクラスの教室で食べない?」
「...?」
少し疑問に思いながら、コイツの顔を見る。すると少し、目を背けられてしまった。
「分かった。じゃあ、お前んとこの教室で待ってろ
買ったら、すぐ行くから」
何かあるのだろう。
アイツがそういう風に態度を取ったという事はそういう事だ。また何か悩み事でも抱え込んでしまっているのだろう。
そう思って、急いで購買へと向かった。
「神宮寺君」
パンを購入した後、一人の女子生徒に声を掛けられた。
俺の目の前に立っていたのは立木青葉だった。
「ん?立木さん、俺に用事?」
「その......、新谷君...
新谷優斗君、見なかったかなって...」
「ああ、アイツなら......」
ふと、優斗の顔が過った。恐らく、そういう事なのだろう。
「いや、違うな...。俺の気のせいか
悪い。教室にいないんだったら、俺にも分からない」
「...そっか。ごめんね」
そう言って、何やらシュンとした残念そうな表情でどこかに行ってしまった。
おそらく、アイツは教室にはいない。自身の教室では待っていない。
こういう時、アイツはすぐに逃げてしまう癖がある。
それでどこにいるのかというと、誰も近寄らなさそうな場所...
今回のアイツの避難場所は恐らくあそこだろうな。
「お、いたいた」
「......ハル君...」
「探したぞ」
「その割にはすぐに見付けたよね...」
「まぁ、お前が行きそうな所ぐらいは大抵予想が付くからな」
「...」
優斗がいたのは図書館の奥で、隅に置かれた椅子に座っていた。
コイツが逃げる時は人がいそうな、それでも人が寄りそうじゃない場所に姿を隠す。だから、周りの人には逆に見付ける事が出来なかったりする。葉を隠すには葉の中、人を隠すには人の中といった感じだろうか?
「立木青葉......、お前の悩みはそれだろ」
「......どうして、それを...」
分かりやすい表情で「なんで分かった」と書かれてそうな顔で優斗はそう言った。
「どうしてって......、探してたぞ。立木さん」
「......僕は青葉さんには相応しくないと思うんだ」
「相応しくない?
何でそう思うんだ?」
コイツと立木さんは付き合ってると噂で聞いた。だが、その噂は本当のようだ。
少し驚いたが別に不思議じゃないし、普通の事だ。
確かにコイツは背は高くなくて、存在感があると言えるような奴ではないが根はいい奴なのだ。
「何でって、僕じゃ青葉さんを守れないし、それに......」
「何があったか、知らないけど
お前を探してたって事はまだお前の事を好きだって事だろ?
それなら、その手を離すなよ。お前だって彼女の事が好きなんだろ?」
「それは......」
と優斗は口は止まる。見ていて正直、何かイライラしてしまう。
さっさと言えよ。これはお前だけの休憩時間じゃねぇんだぞ。
そう言いたかったが、俺はぐっと耐える。
「お前さ、ウダウダ悩むんだったら
その悩み、俺に吐き出せ。悩みだったら、ちゃんと受け止めてやるからよ」
「......ハル君、分かった」
優斗からようやく彼自身の不安な悩みが口から語られた。
内容としてはゴールデンウィークの彼女のデートとの出来事だった。その時に不良に絡まれてしまった。
だから、優斗は優斗なりにその不良達に抗った。でも、自分の力じゃどうにも出来なかった。本人としてはそれが悔しかったのだろう。
その窮地を救ってくれたのは通りすがりの誰かで、それは彼女の知り合いだったらしい。
それで、今のコイツはこう思ってる。もしかしたら、彼女はあの通りすがりに気持ちが移ってしまったんじゃないのかと。
「成る程な
それで今、自分が不安でどうして彼女と顔を合わせる事が出来ないか...
それなら、当たって砕けてこい」
「でも...」
「でもじゃない。お前があまちゃん過ぎるんだよ
彼女なんか作った事のない俺な言われても、しっくり来ないだろうけど、恋愛ってのはそんなに甘い物じゃない
それで駄目だったなら、仕方ないだろ」
「うん......、分かった」
未だにアイツは不安の渦中に取り残されている。それでもアイツは彼女にぶつからないといけない。そうしなければ、優斗は前に進まない。進まないと成長も出来ない。
昼休憩、俺はどうにか食事する事が出来た。
〈ご主人様、本当にこれで良かったんですか?〉
ふと、誰にも聞こえない声が聞こえた。
「いいんだよ。あれで」
俺は独り言のように声を出す。
〈ご主人様がそう言うんだったら、そうなんですね
それにしても、意外ですね〉
何がとは俺は問わない。
〈ご主人様、昔からこんなんだから経験済みだと思ってたんですが
本当に意外ですよ~。まさかご主人様がまだ童貞だったなんて〉
とこの声はからかうようにそう言葉を紡ぐ。
「はぁ」
溜め息を吐きながら、無視をしておく。
こんな事で言葉を返してては相手の思う壺だ。
〈......もしかして、怒りました?
ごめんなさい、もう悪ふざけしないのでお仕置きとかそういうのは...〉
「して欲しいのか?」
と小声で言ってみる。
〈私はそんな変態じゃありませんよ!!〉
へぇー、して欲しいのか。
〈ちょっと、そこで不敵に笑みを作るの止めてもらえません!!怖いんですけど!?〉
自分で墓穴を掘ってくれるので今は目に見えないコイツをイジルのが割りと楽しい。
そういや、優斗はどうなっただろう。ちゃんと砕け散ってしまったのだろうか。それとも、勇気が出せずに未だに逃げているのだろうか。
はたまた、お互いの気持ちはまだヒビ入っていなくて砕けずに済んでいるのだろうか?
まぁ何にせよ、それはまた後日だ。
◇◇◇◇
時刻16:00頃、俺は無事に神宮寺病院を退院する事が出来た。
ようやく、病院から解放されたというのに違和感を拭えないでいる。
それはというのも、今この場に保護観察役の警察がいないのだ。
「いいんだよな...」
思わず、誰もいないというのにそう言葉が出てしまった。
神宮寺病院。滝山町の都会部の中にある大きな病院だ。
現在、俺はその病院の出てすぐの所にいる。
保護観察役がいない為に、何かあるじゃないのかと疑りと戸惑いの間に挟まれてしまっている。
はぁ、帰るか。
しかしながら、こんな場所でジッとしている方が時間の無駄でしかないので、俺は帰る事にした。
神宮寺病院を抜けて、滝山商店街に入る。
ここ、鬼上市にはデパートという物が一切ない。隣の市に行かない限り、デパートに巡り会えない。その為か三ヶ所程、商店街が存在しており、現在でも繁盛しているらしい。
因みに滝山商店街の他に、桜町商店街と鎖穴商店街の二つがある。
特にここ、滝山商店街は鬼上市の中心だけあって広い。
その広い場所で顔も知らないあの男は彼女に対して銃口を向けた。
アイツの予知がなければ、完全に出遅れてた筈だ。
そんな商店街の中、見知った声の聞き覚えのある歌声が聞こえた。
「上を向いて歩こう
涙がこぼれないように
思い出す 春の日
一人ぽっちの夜」
呑気そうな、それでいてちゃんと音程が合っているそんな歌声の主に俺は視線を向けた。
そこにいたのは俺の知る人物だった。
「あ、しの君だ」
その呼び方は懐かしい。昔、小さい頃は両親や青葉からそんな呼び方をされていたが、今では半大人半子供扱いをされてからはその呼び方をする奴はいなくなった。
ただ一人残をしては。
「大樹兄さん」
くるっと巻かれたような天然パーマの髪型に少し小太りで、呑気に歩いている様は立木青葉の兄、立木大樹だった。
血の繋がりはないものの、俺にとって兄弟みたいな存在だ。
「どうしたんだよ。おばさんは?」
「おばさん?」
「母さんはどうした?」
「いない」
「......一人なのか...」
「うん、一人」
受け答えはしっかりしているものの、それはこっちが聞いてるからだ。
「しの君は?」
「ああ...、俺は退院した所」
「退院?」
「青葉から聞いてないか?」
「青葉ちゃん?」
「ああ、青葉から聞いてないか?」
「聞いてない」
そういうのは話してないのか?
まぁいいや。
「兄さん、帰るぞ」
大樹兄さんは障害者である。別に精神が病んでいる訳じゃないし、肉体が欠損している訳でもない。
ただ問題があるのは頭であり、知的に障害を持った知的障害者なのだ。
「大樹兄さん、さっき歌ってた歌は?」
「上を向いて歩こう」
別にこの曲を知らないという訳じゃない。寧ろ、こんな誰もが知ってる名曲を知らないという人はいない筈だ。
質問すると大樹兄さんは嬉しそうに答える。大樹兄さんにとって、こうして会話をするのが好きで構ってほしいという気持ちがある。
「兄さん。歌える?」
「うん」
そう聞くと大樹兄さんは歌を歌い出した。
「上を向いて歩こう
涙がこぼれないように
思い出す 春の日
一人ぽっちの夜
上を向いて歩こう
にじんだ星をかぞえて
思い出す 夏の日
一人ぽっちの夜
幸せは 雲の上に
幸せは 空の上に
上を向いて歩こう
涙がこぼれないように
泣きながら 歩く
一人ぽっちの夜
思い出す 秋の日
一人ぽっちの夜…」
『上を向いて歩こう』を完全に歌を覚えていた。それも音程を外している様子もなく。
大樹兄さんは体が大人であっても、頭は未だ幼く純粋だ。だから、気になる事があればすぐに聞いてくるし、文字なんて物は読めない。
だけれども、侮る事なかれ。別に知的障害者だからといって記憶力が悪い訳ではない。知的に遅れがあったとしても、読み書き、計算が出来ないとしてもだ。
昔から大樹兄さんは音楽を聞く事が好きで、さっきの歌なんかはいつの間にか覚えてしまっていた。
歩きながら思い出す。昔はこうやって三人で外を歩いてたっけ...。
そう思いながら、新滝山駅を目指す。
金銭を上手く扱えない大樹兄さんは普段から財布は持ち歩いたりはしない。金銭を払えば、物が手に入るという事だけは理解していても計算は出来ないのならいくら財布を持っていても、財布の中にその値段に見合った金額が無ければ意味がない。
そういう細かい事が理解出来ていない。
じゃあ、自宅からこの滝山商店街まで一時間かかるここに電車に乗らず、どうやって来たのか。
当然ながら歩いてきたんだろう。それしか考えられない。
「にしても、よくこんな所まで歩いて来れたな...」
そう呆れる。
「あー...っと、坊主」
不意に声が聞こえたのでそっちを向くと、向いた方向は肉屋で肉屋の店主がこっちを見ていた。
「大樹の知り合いか?」
「彼の隣に住んでる者です。ちょっとふらついてるのを見掛けたので家まで送ろうと思って」
「あぁ、立木さん所のお隣さんか
っていうと、隆己の所の倅か?」
「えっと、...そうですけど」
「そうか...。じゃあ、お前が忍か...
小僧、持っていけ」
そう言われて渡されたのは紙袋に入ったコロッケだった。それも二つだ。
「一つはお前ので、もう一つは大樹のだ
立木さんにまたよろしく言っといてくれ
それと大樹。また来いよ」
割りと大樹兄さんはここら辺では有名だったりする。昔は結構、家を出て立木家を困らせていた。今はどうなのか、分からないが大樹兄さんがあんまり変わってなくて少しホッとした。
その後、どうにか俺はアイツの家の前まで大樹兄さんを送る事が出来た。
きっと、家の中は騒ぎになってるだろう。そう言えば、大樹兄さんは施設に通ってるだっけ?
久々に会ったから覚えていない。まぁ、何にせよ。無事に帰れたのだから、それで十分だ。
◇◇◇◇
時刻17:00頃、
「ただいま~」
と玄関の方で陽気な声が聞こえた。
「兄さん...」
急いで行くとそこには兄がいた。ちょうど、靴を脱いで玄関から上がった所だった。
「外に出てたの?」
全然、気付かなかった。私が家に帰ってから兄は家にいなかったという事実は知らなかった。
「出てた」
その問いに対して、すんなりとあっさり素直に答える。
「はぁ...」
思わず、溜め息が出てしまう。また、外に出たのかと...。
今回は帰ってきたから良かったけれど、真っ暗になっても帰ってこないなんて事が過去にあった。幸い、家族皆で探し回り、見付けれたから良かったものの...、何かあったらと思うと気が気ではない。
「しの君に会ったよ」
兄の口からその懐かしいあだ名が溢れた。
「忍に会ったの?」
「うん、しの君と一緒に帰った」
「忍が...」
忍がここまで送ってくれた。そう解釈しても良さそうだ。
「勝手に外に出ないでよ。皆、心配するんだから」
「皆が」
兄さんはそう聞き返す。
「そうだよ。しの君だって、気に掛けてここまで送ってくれたんだから
また、会ったらお礼を言わないとね...」
忍、今日、退院したんだ。
良かったと、とりあえずは安堵した。
そう安堵。安心。その気持ちに気が付いて、初めて私は彼の事を心配していた事に気が付いた。
書きたい事は書けたけど、広い面で知ってる訳じゃないのでやっぱりこういう事を書くのって難しいですね...。




