5/5(水)こどもの日『お見舞い』
今回は普段と比べて短めです。
「私の負けだよ、少年」
現在、私がいるのは滝山商店街にいる。といっても、その滝山商店街から去っている最中だ。
こんな場所で日本の警察なんざに捕まる訳にはいかない。
それに私は少年に負けてしまった。彼の思いは本物で見事、彼女の盾となり命を散らした。
彼の生死の有無は私には分からない。生きていればいつか彼に称賛したいものだが、それは敵わないだろう。
ああいうのを武士道とでも言うのだろうか?
宿泊していたドラゴンタワーへ戻るとしよう。もう日本には用事はない。
私はただ日本に殺し(あそび)に来ただけだ。
私の今いる滝山商店街が騒がしい。
何やら「人が撃たれた」、「こんな出血じゃ助からないぞ」などと周りの人間は動揺を隠せないでいるようだ。
死んだであろう彼はとても面白い人間だった。願わくば天国に導かれる事を
「アーメン」
◇◇◇◇
5月5日水曜日こどもの日
私は今、神宮寺病院にいる。
とある病院の個室にて眠っている彼の寝顔を覗いている。
彼はまるで死んだように身動きをしていない。
「......忍」
彼の名前を呼んでも返答はない。本当に死人のようだ。
彼は私を庇った。庇ったせいで、頭に包帯をして、今、ベッドの上で横になっている。
彼は私の彼氏ではない。幼馴染みであれど、恋仲の相手ではない。
それだというのに、私の胸に何かが刺さっているようで、とても切ない。
彼の頬に手を置いた。
「温かい」
彼の頬からは体温を感じる事が出来て、一先ず安心した。
大丈夫、忍は生きている。
医者は一命をとりとめたと言っていた。だからといって、医者の言っている全てが正しいとは限らない。
一命をとりとめたからといって大丈夫だという保証はない。生きたまま目を覚まさないかもしれないなんて洒落にもならない。
そう思いながら、何となく前髪をめくる。彼の前髪は少し長い。昔はそこまで長かった訳じゃない。だから、昔の彼のおでこは晒されていた訳だ。
「...」
そんな彼のおでこに一本の古い傷痕が残っていた。私はその傷痕を見て、息を飲んだ。それと同時に今まで忘れていた筈の懐かしくも苦い思い出が自身の脳裏に蘇った。
これは私のせいで彼が作ってしまった物だ。
「...立木」
ふと、声がして彼が目を開けているのに気が付いた。
「忍...良かった...」
「......それより、手を退けてくるか?」
「あ......」
私は慌てて、手を退ける。
「ごめんね」
「別に...」
彼の態度は相変わらず、素っ気ない物だった。それはそれで何だかホッとした。
「ここは...病院か?」
「神宮寺病院」
「じゃあ、俺は生きてるって事か」
「......うん。ちゃんと生きてるよ。忍はちゃんとここにいて、私とこうして話してるよ」
「...そうか......。で、何でお前がここにいるんだよ」
「それは...お見舞い。忍...、忍が死んじゃったって思って、私......、私は何も出来なかった。だから、ごめんね。それとありがとう」
私は彼の言い草に少し腹を立ててしまったものの、それは言い返せなかった。だって私のせいで忍はこんな場所にいるのだから。それに生きててくれて感謝している気持ちは嘘ではない。
今、忍という幼馴染みが私にとってかけがえのない大切な...
「......いや、それは俺の台詞かもな...」
「え?」
「お前が生きててくれて、...俺はそれで十分に満足している。いや、十二分に満足している
お前が死んでたら、俺も死んでたかもな...」
「...忍?」
彼は真剣な顔で私の顔を見ながらそう言った。
「忍、それは駄目だよ。もしも私が死んで」
「なんてのは冗談だ」
彼の言動に対して、何か言おうとしたのだが、矢継ぎ早に言葉が飛んできた。
「俺は俺の為に生きてる。だから、俺の最期も他人の為には死んでやらねぇよ」
これは彼のいつもの言葉だ。最近まであんまり話をしていた訳じゃないものの、これは彼らしい。ひねくれてて彼らしい。
「でもな、お前がいなくなって困るのは人はいるんだって事はちゃんと頭の中に入れとけよ」
今度こそ彼は真剣な顔でそう言った。それは私を心配しての事なのだろう。
彼は私が殺されると、思って行動していた。そういう情報は彼女から教えてもらった。
だから、彼女のそういう情報は本当だった。それを私が信用していなかったせいで彼がこういう目に合ってしまった。
「忍、偲って娘とはどういう関係なの?」
ふと、気になった。彼女は人間じゃない。私の所へ態々、姿を現した彼女自身曰く、悪魔なのだと。
忍と彼女の関係が何となく気になってしまった。もしかしたら、私は彼と彼女の関係にほんの少し妬いているのかもしれない。
「そういやお前、偲と会ったんだっけ
アイツはただのメイドだ。んで、ただの仲間で友人だ。それ以下でもそれ以上でもない」
「でも、彼女は自分の事を悪魔だって」
「まぁ、そうなんだろうけど
別に問題ないだろ。アイツは悪い奴じゃない」
彼はそう言い切る。そう言い切れるだけの信頼関係は築かれているのだろう。
◇◇◇◇
どうやら、俺は生きているようだ。あの時、俺は死んだと思った。だけれども、こうして俺は生きている。
あの時の事なんて覚えていやしないが、頭に弾丸が着弾しているのは覚えている。
出欠多量で倒れたのだろうと予想が付く。それでも倒れた原因がそれだけじゃないというのは俺にだって分かる。
別に四肢に穴が開いた訳じゃない。別に臓器に穴が開いた訳じゃない。
だけれども、頭蓋骨に穴を開けられたのは間違いない。もしかしたら、脳に何らかの異常をきたしているかもしれない。
それでも俺の体は正常に動くようだ。思考も何もおかしくはない。
これなら、今まで通り自分の為に生きていけそうだ。
「俺は俺の為に生きている...か」
そう言えば、いつからこんな意地を張ってるんだっけ?
思い返したら、いつから意地を張っているのか思い出せない。
中学の頃にはそういう言い訳を自分の中でしていた。もしかしたら、その時に中二病でも拗らせて、そのまんまだったのか?
まぁ、何でもいい。人生というのは自分の為にあるのだから、他人に迷惑をかけない限り、自分の為に生きていけばいい。
今、この病室にはアイツはいない。お見舞いに来たみたいだったが、さっさと帰らせた。別にアイツがいるから、居心地が悪いという訳じゃない。
俺は彼女をそういう訳で帰した訳ではない。
寧ろ、見舞いに来てくれたのは俺としては嬉しかった。ただ気恥ずかしいような気がして、俺自身がこの場に耐えれなかった。
それに間違いを犯していけない。アイツにだって彼氏はいる。だから、間違いを犯してはいけない。
それでも
「惜しい事したな...」
なんて、思ってしまう。アイツは俺にとって大切な失恋相手だ。
手を伸ばしたとしても、その手は繋がれる事は決してない。
「はぁ......、馬鹿で阿呆か」
それは間違いないだろうなぁ...。
なんて思いながら、北上さんの言葉を思い出す。
「やっぱり、みっともねぇなぁ...」
◇◇◇◇
「あー」
病室から出た後、背後に聞き覚えのある声を聞いた。
振り向けば、そこにはメイド服を着た少女の姿があった。左目に眼帯、左手と右足は義肢を付けており、何やら物々しい。
そんな彼女の名前は偲。彼女本人が名乗った名前であり、先程出てきた忍とはしのぶ違いの名前だ。
『奥様、お帰りですか』
彼女のスケッチブックにそう表記される。
「奥様?」
『はい、あなたは奥様ですよ。ご主人様の』
「違うよ。私は奥様じゃない」
『俺的には違わないですよ。あなたはご主人様の未来の奥様だと思ってるので』
彼女はわざとらしく、そう笑みを作る。
どうやら、これは彼女からの嫌がらせなのだろう。ただ単に普通の嫌がらせという訳じゃないのだろう。
『ご主人様のお見舞い、ありがとうございます』
彼女は深々と頭を下げる。
『ご主人様も喜んでましたよ』
相変わらずの彼だったので、私にはそういう風には見えなかった。
「...ううん。私があなたの忠告を無視したせいでああなってしまったんだから、私のせいだよ」
『いんや、それは俺にだって分からない
もしも、あなたが家を出なかったら、あなたの家の...家族が狙われたかもしれない
無駄な犠牲を出していたかもしれない
それでも俺はあなたにも死なないでほしかった
とにかく、生きててくれて、ありがとう』
彼女のスケッチブックにそう言葉が表記される。
忍が言うように彼女は悪い人物ではないのかもしれない。
「あなたはどうして忍に取り憑いてるの?」
『ご主人様に購入されたからですよ』
「購入って...、あなたの言う...、あなたのような悪魔は買える物なの」
『いいえ、普通ならあり得ません
普通じゃない人間でも購入する事は出来ません
ただ、購入出来る人間というのは奇遇な運命と出会ってしまった男性のみ
そこには必然なんて物は存在せず、ただの偶然のみがそこに訪れた者に権利を与えるだけと、───アイツは言っていた』
「アイツ?」
彼女は何やら苦虫でも噛み潰してしまったような表情を浮かべ、スケッチブックにそう表記した。
『何でもないですよ。それより、もうそろそろ帰らないといけないので失礼させてもらいます
是非、ご主人様共々ご贔屓、お願いします
それでは』
彼女はそれを最後に消えてしまった。
彼女は私にお礼を言いたくて、私の前に現したのだろう。だけれども、それは逆だ。感謝を言うのはこっちだ。彼女は忍の事をずっと思って、近くにいた。彼の思いもちゃんと汲んで行動していた筈だ。
自分勝手な行動があったのかもしれないが、それでも彼女は忍の味方であり続けた。今もそれらを継続されている。
今度、あった時にちゃんと話が出来たらいいな。
そう思いながらも、私は病院を去った。




