5/4(火)みどりの日『弾丸が貫通する前に』
前回投稿したの流れを間違ってしまったような...。気にしない。気にしてたら次が書けなくなってしまう。
そんな訳で今回も平穏無事に投稿します。
13:45頃、冷蔵庫の中身が散乱していた。
「はぁ......」
それを母親は溜め息を吐いて、片付けをしている。
見た所、野菜類や肉類、卵、牛乳といった物が散乱している。
「青葉、悪いけど買い物お願いしてもいい」
母親のそのお願いに二つ返事で快く請け負った。
私は彼女の忠告を無視して、外に出た。誰かの役に立つ事は私の中では好ましい事だと思ってる。
だけれども、どうして冷蔵庫の中身が散乱していたのか分からない。
もしかして、彼女の仕業と思ったが外に出るなとわざわざ忠告する人物がそんな事をするとは到底思えない。
何がどうなって、そうなったのか考える。
ああいう事が起きたという事は、家に侵入してきた人間がいるという事になる。
『偲』と名乗った彼女はまず外に出るなと忠告した。私に外に出てほしくないと言っているのにそんな事をするのは普通に考えてあり得ない。
私の家族でもそんな事をする人間はまずいない。
そう考えると何者かが、家に侵入して何らかの理由で冷蔵庫の中身を散乱させたと考えた方がいい。
その理由を考えて、思わず足を止めてしまった。
「まさか...ね」
彼女が私に外に出てほしくないと言った事を思い出す。もしも、彼女が正しいのならこういう事はあり得る。
あの脅迫状は正しい。誰かの悪戯ではなく、本物の脅迫状だという事を証明してしまう。
それでも私はそうとは思えなかった。
それは非日常で私とは縁のない存在でしかない。私はごく普通の日常を営む一般市民なのだから、非日常が私の元までやって来る事なんてあり得ない。
そう思いながら、滝山商店街へと足を赴けていく。
滝山商店街を行くには昨日、滝山駅に乗り、新滝山駅まで移動する必要がある。
電車を乗らずとも行けるがかなりの時間を要してしまうので、電車に乗った方が確実に行ける。
14:15頃、私は電車に乗った。
昨日は新谷君とデートする為にこの電車に乗った。
どうしても、昨日の事を思い出してしまう。昨日は昨日で楽しかった。楽しかったのだが、最後にあんな事がなければすっきりして家に帰れたというのに、新谷君とはすっきりせずに別れてしまった。
そして、どうしても彼の顔が浮かぶ。
あの時、私の名前を呼んでくれた。忍があの時、割り込んで来なかったらどうなっていたのか分からない。
それに私の名前を呼んでくれた。その時は何が何だか分からなかったけれど、自身の胸に響いた事はどうしようもなく覚えているし、忘れようがなかった。
どうして、彼があんな場所にいたのかなんて分からない。
「はぁ...」
電車から見える流れるような景色を見ながら溜め息を吐く。
私には新谷君という彼氏がいる。だというのに、彼の顔が私の頭の中で過っていく。それはとても不謹慎な事で、それでも彼は私にとって大切な幼馴染みでもある。
こんな気持ちは初めてだった。何かモヤモヤしたような、そんな感情が私の中に悶々と霧のように発生している。
そんな気持ちの渦中、電車に揺られながら新滝山駅に到着するのを待った。
◇◇◇◇
「ご主人様の命により、あなた様方のお命を頂戴します」
俺達の目の前に黒髪のおかっぱ頭が立ちはだかっている。服装は着物に白いエプロンを身に付けた少女は聞き覚えのある声だった。
手には二刀の小太刀を手にしている。
俺達がいるこの場は俺と青葉の家の前で青葉は外に出てしまった。それを見て、俺達は外に出ると目の前に彼女が立ちはだかっていたのだ。
「そこをどけ」
俺は彼女を睨む。目の前にいる敵の悪魔が邪魔だった。こんな場所で青葉を一人で置いていかせる訳にはいかない。
こんな場所で時間を食っている場合じゃない。
「通りたければお通り下さい。ですが、通ればカチンコチンに凍らせて差し上げましょう」
口調は丁寧ではあるものの、彼女から出る言葉はどこかひんやりと冷たいようなそんな雰囲気を漂わせていた。
「偲」
「あー」
彼女は名前を呼ばれて、前に出る。
その背中は自分に任せろと言っているようだった。
彼女の手には刀があった。
手に出現させた刀を握り、ただ前に前進した。
振るわれる刀の一撃を目の前の名も知らない敵に放つも、その一撃は彼女の片手のみで受け止められた。彼女の片手に持っている小太刀で受け止められる。
受け止められた後、彼女は瞬時に後ろへと飛び、右に回り込んで刺突をかます。
それを彼女は左へ回避する。その左回避をした後、彼女は彼女へ斬りかかる。
一刀で彼女は刀を受け止めるも片手のもう一刀は防ぐ暇もなく襲い掛かる。
右手に持っている刀で相手の左手に持っている小太刀を防いでいる。
だから、左手には刀を持っていない。
ガキン
金属音が聞こえた。それは肉を斬る音とは違うというのは俺にでも分かる。
受け止めたのは彼女の義手だった。義手で刀身を掴み、相手の刃を拒んだ。
その直後にカチカチと何かが凍るような音が聞こえた。
その音に偲は反応したのか、またも後ろへと飛んだ。
左手の黒い義手は少し白くなっていた。
彼女は氷結を避ける為に後ろへと回避をした。
「!?」
急に俺の手に触れられ、右を向くとそこには金澤さんがいた。金澤さんは俺の握っていた。
「行くわよ」
彼女は小さな声でそう言って俺の手を引っ張る。
偲と北上さんを置いて、青葉が向かった先の反対側へと向かう。
「偲が」
俺は彼女に対して、言葉を口にしようとしたが、彼女はギロリと俺の顔を睨んだ。
俺は我に返った。我に返るとは少し違う気がするが、それでも彼女の目は何かを語っているような気がした。
彼女の目は「あなたは自分の目的を果たしなさい」と言っている。
「悪い」
俺はそれだけ言って、彼女に引っ張られながら行動する。それは俺の為に彼女の命を掬う為の行動。
あのままでは通れない。ならば、そこを通らず、他を通ればいい事だ。
相手が偲に気を取られている内にこの場を離れた方がいい。幸い、休みのせいかここら辺で今の所、外で人を見掛けていない。
俺達は遠回りをして、彼女の向かう方向へと向かった。
どこに向かうかなんて分からない。だけれども、敵がこうして妨害しに来ているのだから、行き先なんて決まっているような物だ。
彼女の行く方向はおそらく、滝山商店街だ。
彼女が脅迫状通りに動いているのならば、そうなのだろう。
俺達は遠回りをして、滝山駅へと向かう。
「くそっ」
しかしながら、到着する頃にはすでに目の前で電車が発車されるのを見送っていた。
間に合わなかった。
「2時17分、まだ時間はあるわ
どうにか出来る」
彼女はそう言った。
「あぁ、どうにかしてやる」
まだ時間はある。腐る暇なんてない。
俺はそう言って、走り出した。
◇◇◇◇
真澄とあの馬鹿はもうここにはいない。
あの屈託のない馬鹿の事だ。追い付かなくとも、諦める事なんてしてないだろう。
現在、俺の目の前には尋常じゃない戦いが繰り広げられている。
刃と刃がぶつかり、金属音が鳴り響く。
二刀の相手に対して、彼女は一刀で捌くがパワー負けしているせいか、押されているように見える。
「俺も出るか?」
そう思い、腰にある拳銃に触れる。だが、俺が入る隙はどこにもないように見える。
撃てば、彼女の邪魔をしてしまいそうだ。
しかしながら、メイドさんの......、彼女の動きに少しずつ変化が見える。
別に彼女からは疲れが見えている訳ではない。
それに相手もそんなに疲弊している様子はない。
彼女は相手の氷結の攻撃に気を付けながら、戦っている。
刀を右手から左手に持ち掛けたり、右からの攻撃をすると見せ掛けて、左に跳んで回り込むように攻めたりと先程とは違い、相手との戦い方を模索しているように見える。
「......逃げてしまわれましたね...」
と彼女は一時、動きを止めてそう言った。
彼女は異変にどうやら気付いたようだ。
「心音が少ないから、何かおかしいとは思ったら
それでもご主人様の銃口からは逃れる事は敵いませんよ」
目の前の敵は不適に笑みを浮かべて、自身の敵であるメイドさんを見る。
「...」
バンと銃声が鳴った。それは彼女が手元にいつの間にか拳銃を創造し、彼女に銃口を向けて引き金を引いたのだろう。
それを目の前の敵は着弾する前に氷の皮膜を作り、貫通する前に防いでしまった。
やはり駄目かと彼女は捨てるかのように拳銃を消滅させる。
拳銃を捨てて、彼女はどこぞの牙突の構えを取って、刺突前進を繰り出した。
その速度は目にも止まらぬ、速さで繰り出された...にも関わらず、相手はそれを上へと弾いてしまった。
それはまるで彼女の動きが見えているかのように、彼女のスピードに追い付いてしまっている。
速度は同じだが、幾ら同じ速度とはいえ見切るの至難の業の筈だ。一般人ならまず見切るなんて事は出来やしない。速攻で斬り殺される。
それ程のスピードに彼女は対応出来た。出来てしまった。
弾かれた攻撃に対して、偲はすぐに斬り返す。
それを防がれるも、連撃を繰り返す。だが、それは全て防いでいく。それらの動きは俺のような人間が目で追えるようなスピードではない。
パワーで弾かれているのは見て分かる。体が後ろへと離されている。
だが、こんなスピードで動いていたら氷結なんて出来ない。
「あなたは信じてるんですね。あなたのご主人様ならきっと彼女の命を救う事が出来ると」
戦闘の最中、彼女はそう口にする。
「...」
それに対して、彼女は口を開かない。
開いたとして彼女の口から言語なんて物は出てこない。
刃と刃がぶつかり合う中、金属音は鳴り止まない。それが幾度となく、続けられた。
彼女には相手を攻めきれるまでの能力がない。彼女の能力は『不死身』ではあるものの、今のこの場において死なないだけであって、今の現状を打開する力とはならない。この現状を続けていれば、いずれどちらかがへばってしまう。
俺とて死にたくない。まだ、やり残した事は沢山ある。
俺は未練を残したまま、死にたくはない。
死にたくはないのなら、どうするべきか。
「そりゃ、動くしかないだろうな...」
俺は腰の拳銃を抜き、二人の戦闘の様子に集中する。
彼女が先程、言っていた事を思い出す。心音が少ないとか、そういうのを言っていた。普通なら心音なんて聞こえやしない。聞こえやしないだろうが、彼女の場合、優れた聴覚を持っているんだとしたら...。
俺は上の方向へと銃口を向ける。上にある物としたら、遥か上空を飛んでいる飛行機か鳥ぐらいだろう。
別にそんな物を撃ち落とそうなんて事は考えた事はない。狙っている物は飛んでいる物でも撃ち落とす標的でもない。
俺の狙いは
バン
俺は引き金を引き、弾丸を上空へと放った。
「!?」
その銃声と共に一瞬、彼女の動きが止まった。
それを現在、戦っている彼女は見逃す訳がなかった。
あのメイドさんが繰り出したのは常人レベルじゃない尋常ならざる最速の刺突が近距離で放たれた。
しかしながら、敵である相手はギリギリ回避されてしまった。回避したものの、右頬を掠り、出血してしまっている。
後ろに跳ぶように彼女は下がり、距離を取る。
どうやら、彼女は異常に耳が良いらしい。
不意に聞こえた銃声に彼女の耳は反応してしまった。彼女自身、俺なんか敵として視野に入れていないのだろう。だからこそ、予想外の出来事に動きを鈍らせた。
次にこの手は使えない。一時的にその優れた聴覚を裏手に取っただけだ。二度目にこんな使ったとして通用するとは思えない。
「......」
彼女の視線はメイドさんから俺へと移る。その視線はまるで標的を変更した獣のようでもあった。
例えるのなら鷹のような猛禽類が狩りやすい獲物でも見付けたようでもあった。
敵である彼女は両手に持っていた小太刀を捨てるように消滅させる。
その次の瞬間に周りの空気の温度が冷気へと変わる。冷たい空気が肌を刺すように襲い掛かる。
何かが起こるというのは、俺でも分かる。分かるというよりは容易に予想が付く。
この凍えた空気の中で俺は冷や汗をかく。冷や汗をかいてしまう程に今の現状が恐ろしく感じてしまう。
「やはりあなたは本気で殺さなければならないみたいですね
いや、あなた方を...でしたね
迂闊だったとはいえ、流石ですよ。ねぇ、お巡りさん」
彼女の言葉は相変わらずひんやりと氷のような凍えそうな声でそう言う。
「そりゃ、どうも」
まるで鷹のような視線を持つ、この雪女に俺はそう言葉を返し、拳銃を構える。
相手はしゃがみこみ、手を地面に触れる。
「どうか安らかにお眠り下さい」
彼女がそう言った瞬間にその触れた場所から氷結の氷が走った。
その走る氷がメイドさんに襲い掛かるも、彼女は回避した。回避したと同時に彼女の後ろには俺がいる訳だ。
つまり、彼女が避ければこの攻撃は俺の元に向かっている。
俺は咄嗟には避ける事は出来なかった。
咄嗟に反応が出来ない俺は何者かが右へと引っ張ってくれたおかげで命からがら助かった。
その引っ張ってくれたのはメイドさん本人だった。
「ひぇー...、おっかねぇ」
思わず口から言葉が出てしまう。それもそうだ。あの戦闘とは比較にならない程の氷結の速さだ。こんなんじゃ、近距離で戦っていてはすぐに氷漬けされてしまう。
あの氷結攻撃をどうにかする力は彼女にはない。
幾ら死なないとはいえ、身動きを封じられてしまえば何も出来ない。
彼女はただ死なないだけであって、どこぞの作品に出てくるような何らかの力を持った吸血鬼という訳じゃない。
今は彼女と話し合えるような現状じゃない。
それでも、彼女は俺の前に立つ。立って、目の前の敵を見る。
出来上がった氷塊は蒸発するように蒸気の煙となって消滅する。
どうやら、氷結させるも蒸発させるも自由のようだ。
「あー」
彼女の口から言葉が漏れる。その声は相手を殺す気の殺意を含んだ声だった。
彼女は彼女なりの突きの構えを取った。
つまり、彼女はあんなのを見ても未だ、殺り合うつもりでいる。
「待っ」
「て」と言う前に彼女は尋常じゃないスピードで相手に向かう。
相手は未だしゃがんで地面に手を付いている。
彼女が相手に突きを繰り出したその直前、彼女を氷結した。
終わったと思ったその次の瞬間にカキンと鉄と鉄がぶつかる音が聞こえた。
終わっていなかった。メイドさんは未だ氷の中に捕まっておらず、上空から落ちるようにして剣を振り下ろしているのをこの目で確認した。
それを相手は受け止められてしまったものの、彼女は無事に健在している。
下に向かっている重力に任せ、刀を振り下ろしたせいか、相手の刀の刀身は真っ二つに折れてしまった。
折られた刀を捨てて、相手は後ろに飛んだ。
「はぁ...、私の負けです」
一息、吐いて両手を上げる。
「私はここで消えます。時間稼ぎは十分に終えました
あなたもあなたのご主人様を追った方がよろしいですよ」
そう言って、彼女は姿を消失してしまった。彼女はもうここにはいないのだろう。
彼女の目的はおそらく、メイドさんの足止め。彼女がいては自身の主人の計画が妨害されてしまうから。
あわよくばこの戦力を消そうと考えてたのだろう。そうでなければ、ここまでしない。
「あー」
彼女は声を出して、こっちを見る。早くアイツの元に行こうと言っているようだった。
それもそうだ。彼女にとって忍は奉仕対象者だ。さっきの戦いより主人の安否の方が大切なのは当たり前の事なのだ。
「あぁ、そうだな。早く追おう」
だから、俺達は走り出した。
◇◇◇◇
滝山商店街
時刻14:59、俺はアイツの方に突っ込んだ。
銃声と共に俺は地面に転がった。頭のすぐ側で赤い水溜まりが出来ていくのが分かった。
「しの...ぶ?」
アイツの声が聞こえる。どうやら、間に合ったようだ。
アイツが生きているのなら、それでいい。俺はそれで満足だ。
目の前はぼんやりとぼやけていく。
あぁ、俺は死んでしまうのか。
未練はまだあるが、思い残す事はない。
もう満足だ。俺は俺の為に死ねた。誰かの為じゃなく、俺の為にアイツを守って死ねる事に満足出来た。
もう目の前は何も見えない。
これで終わりだ。最期はアイツに看取られて、終わるのも悪くはない。
「じゃあな、青葉」
死ぬ前ぐらいは挨拶だってしてもいいだろ。これで今生の別れだ。
もうお前の顔が拝めないのは寂しい。だけど、こればかりは諦めないとな。
俺はもう死んでしまうんだからな。




