5/4(火)みどりの日『脅迫状』
5月4日火曜日みどりの日
私の元に手紙が届いた。それは脅迫状だった。
私が手にしたのは朝の6:00頃でポストの中に一通入っている事に気が付いた。
内容はこうだ。
『もうこの手紙は読んでいるだろうか
私は名乗れるような人間じゃない。名乗れるような良い人間ではない
どうやら、君は青春を送っているようだ。青春を送る事は良い事だ。
君に恨みも妬みもない。そもそも、会った事もないのだから、君に憎悪を抱く事なんてあり得ない
最終的に私がどうして、君に手紙を送ったのかというと君を殺害する為にその予告をしたというだけだ
さて、これから脅迫をしよう
午後三時に、滝山商店街に来い。さもなければ、君の関係者を殺す
それと常に君は見られている。君が警察に通報するのも自由だが、私が君の関係者と関係しない人を殺すのも自由だ
だから、君はどうするべきか分かっているだろ?』
誰かの悪戯なのだろうと思い、封筒の中にしまい込んだ。
そして、現在、私の目の前に居てはおかしい人物がいる。
「あー」
『お邪魔します』
メイド服を着た少女が手にスケッチブックを持って、私の目の前に立っていた。
朝、何かしようと思って母に何か手伝える事があるかと聞いたものの、今のところないと言われた為、仕方なく部屋に戻った。部屋に戻ったら彼女がいた。
「あなたは...」
見覚えがある。一瞬の出来事だったが、あの時に現れて消えた人物だ。
『申し遅れました。俺はにんべんに思うと書いて偲、しのぶという者です』
「......どうやって、ここに」
『こうやってです』
彼女のスケッチブックの文字が切り替わると同時に彼女の姿は一瞬に消えてしまった。
消えてしまったと思った、その30秒後、彼女は姿を現した。
それは現実ではあり得ない事だったというのに、それだというのに私は何となく納得してしまった。
彼女は人間ではない。人間ではないというのに何一つ不気味さを感じない。
おそらく、彼に取り憑いているのは彼女なのだろう。
「あなたは何者?」
『悪魔です。あなたの幼馴染みに取り憑いている悪魔をしている者です』
「あく...ま?
悪魔って、あの?」
『はい
物語や宗教に出てくるような正規の悪魔ではないですが、一応、悪魔をやっています』
「その悪魔の偲さんが私に何か用事?」
「あー...」
彼女は言葉ではない声を上げて、少し考える素振りを見せた。
『何となく?』
彼女は適当な理由をスケッチブックで述べる。
「何となく?
何となくで私の所に来たの?」
その回答は私としては納得いかない。
彼女自身が悪魔ならば、ここに来た理由が何となくなんて軽くて適当な答えでは納得がいかない。
『というよりはあなたの安否を確認したくてここにいる』
「私の...安否?」
『それと一応の警告です。今日は外に出ないでほしい
今日、あなたが外に出れば確実にあなたは殺される』
「もしかして、私にこんな手紙を出したのはあなたなの?」
『手紙?』
彼女は私の発言にキョトンとしている。
「違うの?」
『手紙を出したというのは何の事なのか、分からない。だけど、俺はあなた宛に手紙を出していない
もし良ければ、その手紙を見せてほしい』
彼女は私宛の手紙を要求する。
だから、私はその手紙を彼女に手渡した。
彼女は私が外に出れば殺されるとスケッチブックで記している。
彼女がこの手紙を出した張本人じゃないのならば、どうして私が殺されると忠告しに来たのだろう。
そう思いながら、彼女からの返答を待つ。
『これは脅迫状ですね』
と短く彼女は返答した。
「脅迫状?
誰かの悪戯とかじゃなくて?」
『脅迫状です
この脅迫状をあなたに送り付けた人物があなたを殺そうとしている』
「何でそれが分かるの?」
『警察が動いている』
「警察が?」
『それとあなたに死なれるのは困る
ご主人様の為に生きていてほしい』
「ご主人様?」
聞き慣れない言葉がスケッチブックへと表示される。
『あなたに死なれたら、悲しむ人がいる
俺はご主人様に仕えるメイドという名の悪魔でしかない
別にご主人様の為に生きたいなんて更々思わないけれど、ご主人様の喜びは俺の喜びでご主人様の悲しみは俺の悲しみのような物
だから、あなたには絶対に死んでほしくない』
彼女はスケッチブックで長々とそう語る。
「ご主人様って...、誰の事?」
『あなたがよく知る人物で身近にいる男性ですよ』
「身近で...私が知ってる...」
それは限られる。私のよく知る身近な男性は三人しかいない。
その内の三人が彼女のご主人様なのだろう。
『あなたはきっと愛されてる。それを忘れちゃいけない
ご主人様は自身が未練がましくても、諦めきれてない
だけど、あなたの事が好きだから気持ちを諦めきれずとも、諦める事を選んだ』
「......そっか」
あなたのご主人様が誰なのか大体、予想が付いた。というよりも、分かりきっていた事ではあるが
おそらく、彼女のご主人様は彼なのだろう。
だから、あの時に彼はそう言ったのか。私が誰かに殺されるかもしれないと思ったから。
「私が殺されるかもしれないって、本当なの?」
『あなたは奴の標的となっているのは間違いない
この脅迫状だって、あなたを射殺する為に誘き寄せる為の脅迫状
だから、出来れば外に出てほしくない』
「......ごめんなさい。それは無理」
私は彼女にそう答えた。
その話はどうしても信用が出来なかった。それに外に出ない訳にはいかない。
胡散臭いとは言わないけれど、現実離れした話に私が追い付けずにいる。
「あー、...あー」
どうやら彼女は『あー』としか言えないようで、悩んでいるようだった。
「あなたの話はどうしても信じられない」
「あー......」
彼女は困り果てたような表情になってしまっている。
『分かった。それなら、信じなくていい
ただあなたが死なない事ばかり祈るばかり
必ずや、守り抜きましょう』
彼女はそう言うとこの場から消失してしまい、どこぞへと消えてしまった。
◇◇◇◇
7:00頃
「あー...」
偲が俺の服をくいくいと引っ張った。どうやら、俺に何か用事があるようだ。
「どうした?」
『ごめんなさい』
さっきまで姿を消していた偲は姿を現した俺に対して謝罪した。
彼女は顔を伏せている。
「何かあったか?」
彼女はスケッチブックで説明してくれた。
『私は先程、隣の家に行ってきました』
「......は?」
彼女の言動...もとい、スケッチブックの表示に俺は驚いた。
『ご主人様の失恋相手に会って来ました』
「青葉に...?」
『はい。俺は彼女に会って、自分自身が狙われている事を教えました
だから、今日は外に出ないでほしいとそう伝えたのですが...
彼女は無理だと言われてしまいました』
「はぁ......」
思わず溜め息しか出ない。
だが、知ってて損はないのは事実だろうし、彼女なりに接触して何とかしようと思ったのだろう。
だから、コイツを咎める事はしない。
「勝手な事をするなよ」
俺はそう言って、彼女の頭に手を置こうとするが何やら何かをされると思ったのかびくりと怯えていた。
それでも俺は彼女の頭にそっと手を置いた。
「何かする時はちゃんと俺に伝えろ
俺が頼りないかもしれないけど、そういうのは大切なんだから」
「...」
『了解しました』
彼女の返答はそれだけだったものの、彼女の表情は固い。自身がやってしまった事に引きずって悔いているようだった。
アイツは偲の事を知ってしまった。そして、偲から自身の命を狙われているという事を伝えられた。
それにあの時に彼女の姿は晒してしまっている。遅かれ早かれ、どうせコイツの事は言わなきゃいけない時が来る。
俺にはコイツを隠し通せる気がしない。
彼女がやった事は間違いではない。
「まぁ、状況は変わってないみたいだから、落ち込みなさんな。メイドさん」
と北上さんが青葉の部屋の方を覗きながら、そう言った。
それでも、彼女の表情は固いまま。
どうやら彼女は自身のやってしまった事に対して引きずるタイプらしい。
今は落ち込んでいても仕方ない。仕方ないが、今の俺からかけてやる言葉なんてない為、とりあえずはほっとく事にした。
「んで、忍。どうするつもりなんだ?」
「どうするって......」
「敵さん、強いぞ。相手は凄腕のスナイパーと氷結使いの悪魔だ
何か策を考えないと、こっちが殺されちまうぞ」
そう言えば、考えてなかった。あの氷結使いの悪魔は確かに強い。
戦力差がどのくらいあるのか俺には分からない。相手はあの小太刀の二刀流で偲は刀一本に拳銃を使う。
だけれども、見た感じではそれをうまく使えている様子はない。
スピードは互角のようだが、パワーにおいては負けている。あの時、彼女は攻めきれてはいなかった。だからといって、これだけで彼女がパワーで負けていると推測するのは証拠不足だ。
俺はまだ彼女の性能を把握しきれてない。
だから、彼女の持つ力を全て活かすなんて事は出来ない。
「......」
つまりは今の所、打つ手は思い付かない。
「策はなし...か」
俺が考え込んでいると、北上さんがざっくりと俺の代わりに回答してしまった。
「じゃあ、とりあえずメイドさんと相談しとけ
彼女の事は彼女自身がよく知ってる筈だからな」
そう言われてしまい、偲の方を見る。
『俺にも策はないですよ?』
偲は既にスケッチブックで返答している。
「......即答かよ。本当に策はないのか?」
『策はないけど、出来れば狭い所じゃなくて広い所で戦いたい』
「そうすれば、勝てる見込みがあるって事か?」
『いいえ。勝てる見込みがあるのかどうかは俺にも分からないです
相手の戦闘能力がどのくらいなのかってのも分からないので
だけど、狭い場所よりかは戦い易いでしょうし、戦闘はパワーとスピードだけじゃないですよ』
「確かに戦闘はパワーとスピードだけじゃない。だけど、あの能力をどうにか出来るのか?」
『それはどうしようもない』
「おいおい...」
『それにご主人様の目的は彼女を守る事。それなら、俺の事より彼女の事を考えた方がいい
あの悪魔なら俺一人でどうにか足止め出来る
後はあの『鷹』の事を気にするだけ...』
「まぁ...、確かにそうか。だけど、無茶はするなよ」
彼女はコクりと頷いて、スケッチブックにまたも文を浮かび上がらせた。
『それとご主人様、伝えないといけない事があります
立木青葉宛に脅迫状が届いています』
「脅迫状...って、あの脅迫状!?」
「それで内容はどういう物だったの?教えなさい」
先程まで黙って、アイツの部屋の観察をしていた金澤さんが割り込み、真剣な眼差しをこっちに向けた。
彼女はスケッチブックをめくり、長い文章を提示した。
『もうこの手紙は読んでいるだろうか
私は名乗れるような人間じゃない。名乗れるような良い人間ではない
どうやら、君は青春を送っているようだ。青春を送る事は良い事だ。
君に恨みも妬みもない。そもそも、会った事もないのだから、君に憎悪を抱く事なんてあり得ない
最終的に私がどうして、君に手紙を送ったのかというと君を殺害する為にその予告をしたというだけだ
さて、これから脅迫をしよう
午後三時に、滝山商店街に来い。さもなければ、君の関係者を殺す
それと常に君は見られている。君が警察に通報するのも自由だが、私が君の関係者と関係しない人を殺すのも自由だ』
その文章は見た感じではアイツに向けた脅迫状だった。
「一語一句、間違いないのよね?」
『そのまんま、コピーしてきたので間違いない』
「......それじゃあ、『鷹』の物として見てもいいみたいね」
金澤さんはそう断定する。
俺からしたら、脅迫状を見るのは初めてだった。こんな物を送り付けるという事はこれは相手の策の一つと考えた方がいい。
そして、この脅迫状を見て俺は確信する。相手は確実に青葉を殺す気でいる。
滝山商店街。この脅迫状で出ている場所の名前だ。この脅迫状の送り主は青葉に対して東滝山商店街に来いと要求している。
俺には漫画に出てくるような探偵の頭脳なんてないが、今の俺達には今の状況を打破する手を持ち合わせていない。それならそれで、彼女を見守ってそれに対応するしかない。
俺は失恋の思い人を失いたくない。だから、彼女を殺される訳にはいかない。
彼女の為じゃなく、俺の為に彼女の命を掬う。救うじゃなく、掬うのだ。
心の中で屁理屈を捏ね回す。
失恋してしまって、今の彼女には彼氏がいる。そう思うとズキリと何かが痛むような気がした。
だけど、そんな事は今の俺には関係ない。関係ないと言い聞かせる。
そうしなければ、自身に負けてしまうような気がした。
「青葉......」
もう素直に届ける事の出来ないこの思いを封じ込め、今は青葉を見守る。




