エピローグ
病院の一室。
所長はベッドの上でよく眠っていた。いや、気を失っていた。
そんな所長に……。
公介はずっと付き添っていた。
そこにナースが入ってくる。
ナースは脳波計を見てから、公介に向かって小声で話しかけた。
「どうです? まだ気がつきませんか」
「ええ、まだですが」
「この状態、しばらく続くかもしれませんね。脳波がかなり乱れていますので」
「その脳波計、役に立たないと思いますよ。この人の脳、もともと狂ってますので」
「なんとなくわかりますわ」
ナースは所長のパジャマ姿に目をやり、大きく首をかしげてみせた。
まもなくのこと。
所長がガバッと起き上がった。
「所長!」
公介がベッドにかけ寄る。
「ここはどこだ?」
「病院です」
「そうか。ところでオマエ、毒を食って死んだんじゃなかったのか?」
「いえ、このとおり元気です。あれからすぐに、警察の人がここに運んでくれたんです。治療が早かったんで、奥様も元気になっています」
「そいつはよかった。そういや、あの警官たちはオマエが呼んだのか?」
「警察には、銀行から連絡があったそうです」
「銀行? なんで銀行からなんだ」
「所長が引き出したのが大金だったんで、奥様をおどしてるんだろうと。それで念のために連絡をしたそうです」
公介は警察から聞いたことを話した。
「失礼なヤツらめ。おっと、それでアイツらはどうなった?」
「警官たちが連れていきました」
「クソー。ジャマさえ入らなきゃ、このワシが捕まえておったのに」
「で、あんなに食べたのに、所長はなんともないんですか?」
「あたりまえだ。なんといっても、ワシは超一流の探偵だからな」
所長は自慢してから続けた。
「あのあと、木刀でなぐりかかってきたんだ。そこをワシは、少しもひるむことなく立ち向かい、こうやって投げ飛ばしてやった」
所長は手ぶり身ぶりで、ベッドの上でおおげさに振るまった。ところがその姿、全身がイチゴ柄なだけにまるで迫力がない。
「あら、気がつきましたのね」
奥様が笑顔で病室に入ってきた。手には大きな紙袋を下げている。
「命も惜しまず仕事をしていただき、とても感謝しておりますの。ほんとにありがとうございました」
「超一流の探偵であれば、あれしき当然のことですからな」
所長は胸を張ってみせた。
パジャマのイチゴが伸びて、倍ほどの大きさになっている。
「これ、洗濯したお洋服です」
奥様が紙袋を公介に渡す。
続いてバッグから封筒を二つ取り出し、所長に手渡した。
「お約束のお金です。で、ひとつは命を助けていただいた、私からのささやかな気持ちです」
「ふむ」
所長はさっそく封筒の中をのぞいた。
それぞれに百万円の札束が見える。
「では、ありがたく」
顔色ひとつ変えず礼を言ってから、お金の入った封筒を枕元に無造作に投げ置いた。クールさをよそおっているのだ。
ところが……。
所長のほほの筋肉は正直だ。すぐにヒクヒクとひきつり始める。
「ワッ、ハッハハハ……」
あふれる喜びは頂点に達し、それは一気に大爆発したのであった。
本編ほもって完結いたします。
最後まで読んでいただき感謝いたします。
ありがとうございました。




