19.二つの真実
「リュウジ隊長、報告いたします。西方より魔物の群れが現れました。数は千程かと思われます」
「なかなか大規模だな。よし、各部隊長を集めてくれ」
現在王立学園生徒達は3つの部隊に別れている。
剣と槍、格闘を主とする近接部隊。
魔法と弓を主とする遠隔部隊。
武具生産や修理、調理その他を担当する補助部隊。
近接部隊は50人、遠隔部隊は30人、残りが補助部隊といった人数構成である。
元々魔法科の生徒は40人いたのだが、この土地の特性上あまり魔法は役に立たない為、弓に転向したり他部隊に配属されたりと、再編成されていた。
教官は顧問という名目で各部隊のチェックをしており、サポートを主とした遊撃部隊という扱いである。
シグルドが、「隊の運営も勉強の一環」といって学生に丸投げした結果が現在の体制だった。
まあヒースあたりは「学生には荷が重い」ということで最後まで反対していたけれども。
そして各部隊毎に部隊長が選出されており、現在では計3人の部隊長がいる。
また近接と遠隔部隊にはそれぞれ10人ごとの小部隊があり、各小部隊毎にリーダーが存在する形であった。
ちなみに部隊長はリーダーも兼務している。
リュウジは全体の隊長兼近接部隊1班リーダー、リディアは全体の副隊長兼近接部隊2班リーダーとなっていた。
実質的に隊全体の方針は、リュウジとリディアに加えて3人の部隊長と教官側代表であるシグルドとの合議制により決定され、何かある度に現在リュウジがいる作戦室での会議が開かれるのであった。
(敵さんの兵力はこちらのざっと10倍か)
リュウジが思案にふけっていると、隊長室兼作戦室のドアがノックされる。
「私だ、入るぞ」
「ああ、アンか。どうぞ」
クラウディア王女の親衛隊長、アンナ・ウィクトーリア、通称アンである。
類まれなる槍術使いであり、現在は学園部隊の近接部隊長を務めていた。
これは魔族領に転移した初夜のことである。
不屈のスキルで睡眠時間を必要としないリュウジは、即席の拠点を作成した後に、再度の魔物襲撃の警戒のため、自ら見張りを買って出ていた。
その夜はほとんどの生徒が、昼間の魔物との生死を賭けた戦いに疲弊し、異国の地であるにも関わらず泥のように眠り込んでいた。
静寂が辺りを包み、月明かりが朧げに周囲を照らす。
(異国であっても月は変わらないんだな)
そんな感慨にふけっていると、2つの足音がリュウジの耳に響いてくる。
「リュウジ殿、少しいいか?」
「お、お邪魔します」
「クラウディア王女とアンナ……だったか。こんな夜更けにどうしたんだ?」
来訪者はクラウディア王女とアンナだった。
学園にいた時は妙な諍いを回避けるため、なるべく接触を避けていたのだが、現在の状況で無視することは難しいだろう。
面倒事じゃないことを祈りつつ、リュウジは応対するのであった。
「まずは先日の非礼を謝罪したい。そして今日は、クラウディア王女を含め、我々を救ってくれて感謝している。貴殿とリディアがいなければ、私たちは今頃帰らぬ人となっていただろう。本当にありがとう」
アンナは直立不動でそう述べた後、騎士の作法に則った丁寧なお辞儀をする。
アンナの優先順位は圧倒的に姫様準拠なのだろう。
その姫様の命を間接的に救ったことで、アンナの中でリュウジの地位が大幅に向上したのであった。
「大したことはしてないから、そんなに気にしないでくれ」
「……災害級の魔物退治を大したことない扱いか。いやはや、貴殿は大物だな」
アンナはそういって柔和な表情を浮かべる。
最初に出会った時の印象はかなり攻撃的で、頭がアレな人物かと思っていたが、素直に自分の非を認め、感謝すべきことには感謝する全うな人物のようだ。
俺の中でアンナという人物の評価がまたしても上昇するのだった。
「ん、リュウジ殿、何か失礼なことを考えていないか?」
そして割と感が鋭いらしい。
「いやいや、アンナっていい奴だなーって思っただけだよ」
うん、嘘は言っていない。
頭がアレだと思っていたことは黙っておこう。
「な、な、何を唐突に。貴様、婦女子をたぶらかすとはいい度胸だ!そこに直れ!」
アンナが顔を真っ赤にして叫ぶ。
どうやらこの手の褒め言葉に慣れていないようだ。
「アンナ、そろそろいいかしら?私もリュウジ様とお話があるのだけれども」
完全に存在を忘れ去られていたお姫様が、静かな口調でアンナに語り掛ける。
「ひ、姫様、失礼いたしました。リュウジ殿、今宵参ったのは姫様が貴殿に話があるとのことでなのだ。何故か学園ではお主を訪ねるも不在ばかりでな。今なら確実に居ると思ってここを訪れたのだ」
「あー、うん。学園の時は忙しくて色々飛び回ってたから。それでお姫様が何用でしょう?正直なところ俺はクラウディア様のような高貴な方との関わりはないと思いますけれど」
そんな俺の無礼ともとれる態度にアンナは少し顔をしかめたが、それを制して王女様が一歩前に出る。
「改めてご挨拶いたします、リュウジ様。私はアインス国の第二王女、クラウディア・フォン・アインスと申します。以後お見知りおきを」
そういって優雅にお辞儀をする王女殿下。
「ご丁寧にありがとうございます。俺はリュウジ・トドロキと言います。何分田舎者でして貴族の作法はわかりませんが、ご容赦ください」
俺も簡単に挨拶を述べ、王女様に一礼する。
「ふふ、作法など結構ですよ、リュウジ様。私はあなたに2度も命を救われておりますので、言うならば私の命はあなた様から与えられたものですから。敬語も敬称も結構ですので、普通にお話くださいませ」
「ああ、それは助かる。堅苦しいのは嫌いでね。ところで気になる言葉が出てきたのだが、2度命を救ったとは?今日を一回にカウントするとしても、以前王女様を救った覚えはないのだけども」
「クラウディアと呼んでいただいて結構ですよ。そうでしょうね、確かに直接顔を合わせた訳ではありませんので、リュウジ様は覚えておられないでしょう。では昨年の四月頃に、サガの街の郊外で盗賊に襲われた馬車を助けた覚えはございませんか?」
「ああ、それなら」
昨年の四月と言えば、丁度俺が名もなき森から出てきた時期と合致する。
サガの街への道中で、確かに盗賊を退治したけれども、見つからないように魔法を隠蔽していたはずだが。
そんな俺の疑問に答えるかのようにクラウディアが口を開く。
「不思議に思われるのも最もです。実は私のスキルが関係してまして」
「クラウディア様、そのことは……!」
「いいのです、アンナ。命の恩人への義理というものは、命を持って果たすというのが我が家訓。そも隠し立てするような事でもないでしょう」
「クラウディア様がそうおっしゃられるなら……。リュウジ殿、願わくはこれから聞くことは、貴殿の心の内にのみ留めておいていただきたい」
「ああ、別に俺は構わないぞ。それで何で俺が盗賊退治をしたことがわかったんだ?少なくとも俺の隠蔽魔法は完璧に発動していたし、余程魔法に長けていないと見破れないものだと思うのだけど」
そう、俺の隠蔽魔法は光魔法によるもので、かなり高等なオリジナル魔法である。
恐らくアインス国の宮廷魔術師レベルでも看破するのは難しいのではないかと、俺は学園の教官のレベルから推測していた。
少なくともクラウディアには無理ではないか――そう考える俺へ、クラウディアが回答する。
「私には、魔力が視えるのです」
「魔力が視える?」
「はい。どうやら魔力には、その人固有の色があるようでして。リュウジ様の魔力は青と緑が混ざったような色をしております。リュウジ様が盗賊に使用したものと、普段身に纏われている魔法の色が同じでしたので。入学式の檀上でリュウジ様をお見かけした時は、何という奇跡かと喜びに震えました」
そういって少し顔を赤らめるクラウディア。
何となく俺まで照れてしまう。
しかし
(魔力に色、か)
バーバからすら、そんな話は聞いたことがない。
にわかには信じられないが、一つの事実として、俺が盗賊に使用した魔法から、俺がクラウディアを助けた人物であるというのが断定されているということがある。
ローエンですら気づけなかった風の鎧という、俺が常時纏っている魔法の存在をも見抜いている。
そしてクラウディアが嘘をついて俺を騙すメリットも存在しないのだ。
おそらく本当のことなのだろう。
この世界にはまだまだ謎が多い――
俺は自分の本能ともいうべきやり込み魂がくすぐられ、思わずにやけてしまうのであった。
「そしてもう一つ、リュウジ様にお伝えしておきたいことがあります」
クラウディアから語られるもう一つの真実。
その内容を聞いた俺はこの事こそ、今夜クラウディアが密かに伝えたかった事実なのだと確信したのだった。




