14.初めての決闘
「うがー!!」
俺の度重なる無礼に耐え切れなくなったのだろう。
アンナという赤毛の少女はもはや人格が崩壊している。
そしてもはや人間としての言語も忘れてしまったようだ。
少し可哀想になった俺は、これ以上無視すると余計面倒なことになりそうだなとも思い、渋々ながら少女の決闘を受けたのだった。
この学園では正式な手続きを踏んだ決闘は認められており、教官立ち合いの元、剣術科の入学実技試験の会場にもなった訓練場で行われる。
「おいおい、入学初日から揉め事とは、君はとんだトラブルメーカーだな」
今回の決闘の立ち合いはシグルド教官である。
どうやら基本的に俺に関わる事案に対応するのは彼のようである。
呆れた顔で俺を見つつも、どこか楽しんでいるようにも見えるのは気のせいだろうか。
「いや、さすがに今回は俺が一方的な被害者だと思いますよ」
「ふむ。大体こういった争いとは、一方が完全に悪いということはあり得ないのだよ。それがどの程度であれ、君にも何らかの原因があるのだろう。まあ観念したまえ。くれぐれもやり過ぎないでくれよ」
「教官!僭越ながら申し上げます!私は一生徒とはいえ、それなりの腕は有ると自負しております。ある程度の手加減位は心得ておりますので、ご心配なさらないでくださいませ」
シグルド教官の「やり過ぎないで」という言葉が自分に向けられたものだと思ったのだろう。
アンナは憤慨といった顔でシグルド教官に抗議するのであった。
「あー、うん、そうだな。両者やり過ぎないように。危険だと判断したら私が止めに入るからね。それでは始めよう。これよりアンナ対リュウジの決闘を行う!両者前へ!」
俺とアンナが正対する。
俺は愛用のグローリーソードを中段に構え、開始の合図を待つ。
アンナはどうやら長柄を獲物としているらしく、穂先に斧の付いたハルバードとも言うべき武器を構えて臨戦態勢に入っていた。
剣道三倍段という言葉からすれば、剣術の俺が槍術のアンナに対抗するためには、三倍の技量が俺に求められることになる。
(少しは楽しめそうかな)
なんだかんだで俺は戦闘民族らしい。
こういった一対一の闘いには燃える性質のようだった。
「始めっ!」
シグルド教官が右手を振り上げて戦いの火蓋が切られる。
先手を取ったのはアンナだった。
さすがに剣と槍では間合いが違う。
アンナは巧みに右手を動かし、素早く突きを繰り出しては反動を利用して滑らかに引き戻し、再度突きを繰り出して、中々リュウジに主導権を渡さない。
(想像より熟練された動きだな。この若さでこのレベルは、才能にかまけていてはおそらく到達できないだろう。性格はアレだが、中々に努力家なのかもな)
俺は少し目の前の赤い生物を見直したのだった。
(とはいえ流石にこの程度だとあっさり勝ってしまうな。ここであまり目立つのも、今後の学園生活を考えると無しだな)
俺は連続で繰り出される槍を紙一重でかわしながら、どう決着を付けようか悩む。
レベルが高いとはいえ、ローエン流剣術の門下生に揉まれた俺にとっては何の危険性も感じない。
恐らく繰り出された突きを綺麗に叩き落とし、返す刀でアンナを吹き飛ばすことは容易だろう。
ただそれでは残念ながら目立ってしまう。
どうやら先ほどの喧騒の周囲にいた生徒のほとんどが、興味を惹かれて決闘を見学しているらしい。
噂を聞きつけた他の生徒も集まり、結構な人数の観客がいる。
この状況でアンナに勝ってしまうと、俺の実力を知った貴族から強引な勧誘が来るかもしれない。
本来なら名誉なことなのだが、自由を愛する俺にはただの罰ゲームにしか思えなかった。
ということで、俺はひたすら回避に専念する。
「くっ、何故だ!何故当たらない!」
アンナは相当己の力に自信があったのだろう。
俺の事を他の一般生徒と同レベルかそれ以下だと考えていた節もあり、自分の攻撃が一切俺に当たらない事に戸惑いを隠せないようだ。
「これならどうだ!」
アンナが今までと同じ動作で、一見同じような突きを繰り出す。
しかしよく見ると石突きから右手までの距離が違う。
さっきまでの突きは石突きからやや離れたところを握っていたが、現在は石突きのごく近くを握り込んでいる。
槍の持つ場所を変えることで、間合いを勘違いさせるためだろう。
おそらくこの突きは想像より伸びてくるはずだ。
(んー。頃合いかな)
俺はこの突きをあえて喰らうことにした。
まずは相手の突きに合わせて紙一重の場所で避ける。
そして予想通り伸びてきた突きに対して、まるでその突きに当たったかのように自ら後方へ跳躍する。
(よし、これで観客の皆様には俺が伸びてきた突きに対応出来ず、吹き飛ばされたように見えただろう)
俺は更にリアリティーを追及するため、吹き飛んだ先で幾度か地面の上をゴムまりのように跳ねてみせた。
そしてフィニッシュに地面の上でうつ伏せになって微動だにしないポーズをとる。
我ながら完璧に敗者の姿を演じきることが出来たはずだ。
俺はうつ伏せの状態のまま、ニヤリと自画自賛するのだった。
周囲からアンナを称える歓声と拍手が鳴り響く。
アンナは一人釈然としない顔を浮かべていた。
恐らく己の突きに手応えが無かったにも関わらず、リュウジが派手に吹き飛んでいったからだろう。
「勝者アンナ!」
シグルド教官が苦笑いを浮かべながら勝ち名乗りを上げる。
シグルドクラスの実力者には、ある程度何が起こったのか把握出来たのだろう。
それでもそれとなくリュウジの行動の意図を察し、アンナを勝利者として決着を付けたのである。
こうして栄えある今年度の王立学園最初の決闘は、死んだふりをしたリュウジと、頭上にはてなマークを浮かべたまま勝ち名乗りを受けるアンナという、なんとも言えないシーンで幕を下ろしたのだった。
「ふぁー。相当強いね、リュウジ君」
そして目の前の光景を見て、思わずそんなつぶやきが観客席の生徒から漏れる。
生徒の名前はエイリーク。
リュウジのルームメイトの剣術科生徒であった。




