13.入寮とルームメイト
「じゃあ行ってくるよ」
「……行ってきます」
入学式の翌日、俺とリディアは学園の寮へ入るために、リディア家を出発した。
生活に必要なものはほとんど寮に備え付けてあるとのことで、特に荷物も持っていない。
そもそも俺には異空間への収納魔法があるので、手に荷物を持つことはほとんどないのだが。
滝のような涙を流すローエンと笑顔のメリッサに見送られながら、俺とリディアはシュラの街行きの馬車に乗るのであった。
シュラの街に到着後は学園行きの馬車に乗り換え、学園へと向かう。
そして学園の受付で入学式で貰った学生証を提示し、寮へと案内を受けるのだった。
「ほー、結構広いんだな」
部屋に到着した俺の小学生並な感想である。
寮はコミュニケーション能力向上のために相部屋となっており、10畳ほどの部屋に二段ベッドが置かれた作りとなっていた。
トイレとバスも備え付けられている。
台所はないが、食事は基本的に共有スペースにある食堂で食べることとなっているので、問題はない。
俺が部屋を見ながらしばし佇んでいると、
「あれ、ひょっとして君がここの部屋の人?」
と後ろから声を掛けられる。
振り向くとそこには学生服を着用した、学園の生徒らしき小柄な人物が立っていた。
俺は目の前の人物をマジマジと観察する。
男性用の学生服を着用しているため、性別は男性であると思われるが、顔だけでは判別し難い中性的な顔立ちをしていた。
髪は肩の長さで切りそろえられており、雪のように白く、流れるように真っ直ぐな髪である。
整った顔立ちと相まって、さぞかし異性にもてるだろう。
「は、恥ずかしいからあんまりじっと見ないでくれるかな」
「ああ、悪い。ちょっと見とれてしまった」
「……え。ぼ、僕はそういう趣味はないからね!」
(おっと、こいつはまずい流れだ。入寮初日から同性好きの変態野郎としてレッテルを貼られるのはさすがに避けたいな……)
「安心してくれ、俺は女の子が大好物なんだ」
「……その表現はどうかと思うよ」
軽く引かれたが、どうやらうまくやり過ごせたようだ。
一命を取り留めた俺は、とりあえず自己紹介をする。
相手はアインス国のクーモンの街出身でエイリークという名前らしい。
子爵家の次男であり、年齢は16歳とのことだ。
本来は15歳の時点で入学試験を受けれたが、第二王女であるクラウディアが今年入学することは、アインス国の貴族間では周知の事実であったらしい。
エイリークの親が、エイリークを通じてあわよくば王族と渡りをつけようと画策した結果、一年ずらして今年入学試験を受け、見事合格したとのことだった。
「僕以外にも結構そういうお家は多いと思うよ。僕みたいな子爵家の人間が、王族と繋がりを持てることはほとんどないし。ただあくまで何かあればラッキー位なスタンスで、うちの親もそこまで期待している訳ではないけどね」
「なるほど。どのみち俺のような平民には関係なさそうな話だな。ところでエイリークは何科なんだ?」
「平民でも王女に見初められれば騎士に取り立てられることもあると思うし、夢はあると思うよ。あ、科は剣術科だよ。剣の才能はからきしで、剣スキルもFだけどね……。ちなみにリュウジは何科なの?」
「ん、俺か?俺は自由なんだ」
「へ?」
「学園長代理から好きにしていいと言われている。プランはまだ無い」
そう、正直まだ何も決めていない。
そもそも学園もリディアの付き添いみたいなものであり、何かを求めて入学した訳ではない。
ただ世話になったリディア家への義理を果たすため、出来る限りリディアのサポートはしようと考えている。
後は強いてあげるとしたら、知識の収集と仲間の獲得位だろうか。
バーバのおかげで魔法はある程度造詣が深い。
ただ学科の試験で素晴らしい点数を叩き出してしまったように、この世界の歴史や常識といったものにはすこぶる疎い。
この王立学園にはかなりの蔵書を誇る図書館も建設されているようなので、折に触れて勉強をしたいと考えている。
仲間の獲得については、トラップ解除系のスキル持ちとお近づきになれたらと思っている。
今後もダンジョンは攻略していくつもりだが、はっきりいって通常時は安泰だろう。
イレギュラーがあるとしたらトラップである。
強制転移で出口の無い部屋に放り込まれたり、先の反魂であっても、飛び抜けて高ランクのモンスターが呼び出される可能性はある。
大抵のモンスターには勝てると思うが、バーバという規格外の存在を知る俺は、上には上がいるということだけは念頭に置いて行動しているのである。
エイリークは俺が自由であることに腑が落ちない様子であったが、俺は説明するのも面倒だったので、スルーすることにした。
その後最低限度の部屋のルールを決めようという話になり、俺は特にこだわりがなかった為、何も言わなかった。
そしてエイリークからの要望で、
「……お風呂とトイレは覗かないでね?」
と真顔で言われた俺は、心に深い傷を負ったのだった。
ちなみに本日は学園初日であるが、午前は入寮の時間となっている。
午後から本格的に授業がスタートするのだが、生憎俺は受ける授業は決まっていない。
(リディアの様子でも見に行くかな)
エイリークと食堂で軽く昼食をとった後、俺は剣術科のクラスに行くエイリークと別れ、リディアの様子を見に行こうと決意する。
さすがに授業中に教室に突入するのは恥ずかしかった為、授業が終わったタイミングで魔法科の教室に行き、教室の窓から中の様子を伺う。
パラパラと生徒が教室から出て来たので、それと逆行するように中に入っていく。
「あ、あの」
リディアのところへ向かう途中で小さな声が聞こえた。
声の方向へ顔を向けてみると、かの有名な王女様が立っていた。
まあ誰かに声を掛けているのだろう。
王女様に声を掛けられるとは、中々に位の高い人物に違いない。
俺はさして気にせず教室の中を進むのだった。
「おい、貴様!クラウディア様を無視するとはどういう了見だ!」
次は怒鳴り声がする。
声の方向へ顔を向けてみると、赤毛をポニーテールに束ねた強そうな美少女が立っている。
なぜか俺の方をじっと睨んでいる。
しかし王女様を無視するような不届き者もこの学園にいるんだな。
この国に不敬罪とかはあるんだろうか。
そんなことを考えながら、俺は再びリディアに向けて歩を進める。
するといきなり後ろから肩を掴まれた。
「私まで無視するとはいい度胸だな!」
赤髪の美少女がなぜか俺を親の敵のように睨んでいる。
少女は結構な怪力のようで、簡単に振りほどけそうにはない。
「ん?俺?俺はお前のことを知らないのだが、どこかで会ったことがあったかな?」
「私も貴様など知らん!しかし王女様がなぜかお前に声を掛けられたのだ!それを無視するとは、クラウディア様の親衛隊長として許せん!」
「あ、アン、待って。彼は悪くないの」
クラウディア王女が赤毛の少女を制止する。
どうやら赤毛の少女はアンという名前らしい。
しかもこの若さで親衛隊長か、さぞかし腕が立つに違いない。
「しかしクラウディア様、このような平民に何のようです?見たところ凡庸な一般生徒に見えますが」
「私は彼に少し話があるの。ねぇ、あなた、ちょっとお話を……え?」
触らぬ神に祟りなし。
これもバーバの教えの一つである。
面倒事は徹底的に避けるべきだと、俺は師に教わったのだ。
俺は何事もなかったように王女と赤毛の少女を置き去りにして歩いていったのだ。
「き、貴様という奴は!もう勘弁ならん!」
パサッ――
何かが後方から飛来して俺の足元に落ちる。
どうやら純白の手袋のようだ。
俺は後ろを振り返る。
「アインス国第二王女が親衛隊長、アンナ・ウィクトーリア!貴殿に決闘を申し込む!さあ、その手袋を拾い上げるがいい!」
赤毛の少女が俺に向かって高らかに宣言する。
どうやら手袋を拾うと決闘を承諾することになるようだった。
勿論俺の取るべき道は決まっている。
「お断りします」
俺は足元の手袋を無視して歩き出すのだった。




