12.フリースタイル学園生活
「あー、ごめん。俺試験に落ちたと思う」
リディア家に到着し、俺はローエンとメリッサにそう報告した。
ちなみにリディアにはシュラの街から帰ってくる途中の馬車の中で事情を話している。
・俺が実技試験で地位の高そうな教官を圧倒し、プライドをへし折って心象を悪くしてしまったかもしれないこと
・座学を白紙で提出してしまったこと
を二人に説明したのだった。
「はっはっは。そういや座学のことをすっかり忘れていたな、いやー、すまんすまん」
「嫌ですわお父さん。うっかりやさんねぇ」
「……忘れることもある」
そう話しながら3人は笑いあっていた。
どうやらリディア家はかなりの脳筋一家のようである。
そして試験終了から2週間後、リディア家に二通の合格通知が届いたのだった。
「まあ大丈夫だとは思っていたよ」
とローエンがドヤ顔で語る。
元々「学」より「武」を重んじる学園である。
学科試験はオマケのようなものであり、実技試験で好成績を残せさえすれば、受かる確率は高いということだった。
また実力主義の校風からいって、プライドを云々というのも些末な問題であると、ローエンは踏んでいたのである。
そして4月となり、晴れて俺とリディアは王立学園の入学式を迎えたのだった。
まず学園長が式辞を述べる。
そして登壇したのは、まさかのシグルド教官であった。
式辞の冒頭での説明によると、学園長は現在多忙であり不在。
学園長代理としてシグルド教官が挨拶をするとのことであった。
「あー、あんまりこういうのは得意じゃないんだが。まずはひよっこの諸君、入学おめでとう。まあ一部ひよっこじゃない学生もいるようだが」
シグルド教官と目があった。
俺の方を見てニヤリと不敵な笑みを浮かべている。
こっちを見ないでくれ。
「諸君らはこれから一年間、この学園で学ぶことになるが、一年間というのは驚くほど短い。そしてその短い学園生活を悔いの残らないものにして欲しい。私が言いたいのはそれだけだ。諸君らの健闘を祈る」
非常に端的な挨拶だった。
どこかの国の校長先生にも見習ってもらいたい。
「シグルド教官、ありがとうございました。続きまして新入生代表挨拶に移ります。アインス国第二王女、クラウディア様お願いいたします」
司会の教官が会を進行する。
どうやらこの学園では入試の成績トップではなく、一番良いお家柄の生徒が代表の挨拶をするようだ。
角が立たなくて良い選抜方法だとは思う。
そして一人の女生徒が登壇した。
ゆるふわのブロンドヘアの美少女。
目は少したれ目で、なんとなく穏やかな雰囲気を身に纏っている。
色白の肌も相まって、如何にもいいところのお嬢様という感じがする。
こちらはおそらく毎年同じものを読むのであろう。
手に持った代表挨拶用の書簡を開き、あたり触りのない文章を淡々と読み上げていた。
そしてなぜか読み上げている途中で俺の方を凝視し、大きく表情を変えることはなかったものの、驚きの眼差しを俺へと向けていたのであった。
(考えすぎかな?)
俺がこの世界でまともに接触した人物はバーバ、リディア、ローエン、メリッサの四人である。
ギルドの受付や宿屋、武器屋、ジャンク屋、門番といった市井の人々とは少し交流があるが、間違っても高貴な身分の人と関わりはない。
まして王女様となると、俺でなくても一般人で関わりのある人間は少ないだろう。
あれこれと考えている内に入学式は終了し、入学のオリエンテーションへと移行した。
それぞれの学科毎に別れ、担任の教官から今後のスケジュールについて説明があるらしい。
生徒がそれぞれの指定された教室へと移動していく。
リディアも魔法科の教室へと向かっていった。
そして俺はというと、現在学園長室でシグルド教官と向かい合って座っている。
(どうしてこうなった――)
話は少しだけ遡る。
オリエンテーションの移動先については貼り紙がなされ、「〇〇科」と書かれた紙に、それぞれ所属する生徒の名前が書かれていた。
そしてなぜか「剣術科」と書かれた紙に俺の名前は無く、「学園長室」と書かれた紙にぽつんと俺一人の名前が記載されていたのである。
「改めて自己紹介しよう。私はこの学校の教官であるシグルドだ。学園長は現役のSランク冒険者で多忙でな。基本的に私が学園長代理として学校を任されている」
「リュウジです。えっと、あまり状況が飲み込めていないのですが、俺って剣術科じゃないんですか?」
「ああ、その件だがな。一般的には受験時の希望学科通りにクラス分けが為される。ただお前さんの場合少々訳ありでな。自分で分かっていると思うがリュウジ君、君の学科試験は0点だった」
「まあ白紙ですからね」
「うむ。本来学科試験は落とすための試験ではなく、本当にオマケのような常識問題ばかりでな。普通にこの国で生まれ育ったものなら少なくとも半分は正答出来る難易度のものなのだよ」
「あ、そうなんですね。何分山奥育ちの田舎者でして」
俺は「異世界から来ました!」と正直に言っても碌な目に合わないと予測されたので、基本的には山奥で育った田舎者という設定にしている。
「ふむ。まあそこに関しては深く問うまい。で、話の続きだが、さすがに学科0点の者を入学させるのはどうかという声が他の教官から上がってな」
「まあ当然ですよね」
「そうなんだ。しかし私自ら立ち会った実技試験で君は私を破った。君も他の学生の試合を見ていただろう?普通の学生の実力で私に勝つということは、ほとんどあり得ない、奇跡のような事象なのだ」
確かに俺は他の学生の試合を見ていた。
恐ろしくレベルの低い剣術であり、スライムにも苦戦するのではないか?というものだった。
「正直君のような実力者を手放すのは惜しくてな。学園長代理である私の推薦という形で強引に合格させたのだよ」
「なるほど、事情はわかりました。で、俺は剣術科ではないのですか?」
「そこなんだよ。入学はさせたものの、はっきりいって君に剣術を教えることの出来る教官はこの学園にいない。恥ずかしながら現在この学園で一番剣術に長けているのは私でね。その私を圧倒する実力の君が剣術科に入学しても、得るものはないだろうと判断した」
どうやら俺の剣術は規格外らしい。
確かに俺の剣スキルは「A」になった。
だが純粋な剣術だけではリディアはおろか、ローエンにさえ一太刀いれることが出来ない。
それどころか、ローエンに剣術を学びに来ている門下生にすら普通に負けており、ローエン流剣術のヒエラルキーの中に置いては、俺はまさに最下層と言って差し支えないレベルなのである。
ここに来て、ローエン流剣術の偉大さを知ることとなった俺であった。
「という訳で君は自由だ。どの学科で勉強するかも君に任せる。学校を休みたかったら勝手に休んでくれ。ただ一応監督責任はあるので、月一でいいからその月の行動をレポートとして私に提出して欲しい」
こうして俺のフリーダムな学園生活が始まりを告げたのだった。




