11.入学試験
翌日、俺はリディア一家に王立学園を受験することを告げた。
リディアは驚きつつも僅かに表情を緩ませ、ローエンとメリッサはそれを微笑ましく見守っていた。
そしてその試験の日程であるが、王立学園の入学試験は3月に行われ、合格者の入学は4月かららしい。
ちなみにアインス国の暦は日本と同じである。
現在が12月であるから、試験までは3か月ほど間があった。
メリッサから「良かったら試験まで家に泊まったら」というありがたい提案を受けたので、俺はその言葉に甘えることとした。
その提案を隣で聞いていたローエンが「若い男女が一つ屋根の下でだと……」と青筋を立てて剣を抜こうとしたが、メリッサの背後に浮かぶ般若のオーラを見て剣を納めていた。
また、ローエンから「是非うちの道場で剣を学ぶがいい」と不気味なほどさわやかな笑顔で提案があり、丁度剣の修行もしたかった俺は渡りに船……と、こちらの提案も受けることとした。
ローエンが「不慮の事故なら仕方ないよね、うん」と小声でつぶやくのが聞こえたが、無視しておいた。
そもそもローエンの力で俺を亡き者にすることは難しい。
実は俺は、常時「風の鎧」を身に纏っている。
ざっくり言ってしまえば、俺の体に触れようとした物理攻撃を、強力な風の力で押し返してしまう魔法である。
常時展開という性質から、膨大な魔力の垂れ流しにより成立する魔法であるが、常人を遥かに凌駕するMP所持者の俺にとっては大きな負担ではない。
先日ローエンの、おそらく全力の一撃を無効化したことからも、ローエンによる闇討ちが成就することはないと俺は考えていた。
そして時は経ち3月となり、俺達は入学試験の日を迎えたのだった。
ちなみに俺はこの3ヶ月も不眠不休で鍛錬を続け、剣スキルは「A」へとランクアップしている。
この期間にローエンから放たれる数々の嫌がらせも難なく跳ね除け、むしろ俺の修行に付き纏ったローエンは腰を痛め、現在ベッドでお休み中である。
リディアの方もメリッサに付きっきりで指導を受けており、かなり中級魔法の精度が上がっているようだった。
「しかしでかいな」
でかい。
小学生並の感想であるが、目の前にそびえ立つ建物は、正しくその言葉で形容されるものであった。
たった今リュウジの眼前に広がる王立学園は、数々の王侯貴族の子弟が通い、その王侯貴族の協賛により運営されている側面がある。
国の見栄もあってかかなり豪勢な作りとなっており、日本でいう町レベルの面積の土地が、惜しみなく学園に提供されていたのだった。
肝心の入学試験であるが、実技と座学の総合点で合否を判断される。
それぞれ専攻する科によって試験内容が異なるため、剣術科希望の俺と魔法科希望のリディアでは試験会場が異なるのであった。
「お互い頑張ろうな」
「……ん」
俺とリディアは拳を合わせて互いに激励をする。
そして受付を済ませ、俺達はそれぞれの試験会場へと別れていったのだった。
剣術科の実技試験は教官との模擬戦である。
俺は自分より順番が前の受験生と教官の試合を見学しながらも、暇を持て余していたのだった。
(いくらなんでもこれは……お互い手を抜いている訳ではないよな?)
目の前で繰り広げられる泥仕合に、ある種の驚きを感じていた。
教官が手を抜くのはわかる――
入学前、それも身分の高い貴族の子弟も多いため、下手に怪我をさせる訳にはいかないのだろう。
が、あまりに受験生のレベルがお粗末である。
この受験生たちはもしかしたら俺と同じく何かの縛りプレイでもしてるのかな。
全身に重りをつけて戦っているのかもしれない。
色々と失礼なことを考えながら、リュウジはあくびをかみ殺して涙を流すのであった。
そしてついにリュウジの番がやってくる。
「おい、次は私がやるぞ」
「え、シグルド教官が?受験生相手にシグルド教官が出ることはないですよ」
何やら教官同士が話し合っている。
どうやら対戦相手の教官が交代するらしい。
「待たせたな。中々あいつが納得しなくてな」
シグルドと呼ばれた教官が、先ほど話していた教官を指さしながら俺に話しかける。
「いえ、そんなに待っていませんので。それではよろしくお願いします」
俺は余所行きの丁寧な挨拶で返答する。
「くっくっく。猫をかぶりやがって。さっきまであんなにつまらなそうな顔で試合を見てたくせにな」
げ、ばれてる。
中々に観察力のある男だな。
「いや、誠に素晴らしい試合でした。俺もいい試合をしたいと思います」
「はっはっは。まあいい、さっさと始めようか。おい!」
シグルドが審判役の教官に合図をする。
その審判役の教官の「始めっ!」という声とともに、俺の実技試験はスタートしたのだった。
「さあて、お手並み拝見……は?」
シグルドが驚愕の声を上げる。
開始の号令とほぼ同時に、シグルドの喉元には、白銀に輝く剣先がピタリと当てられていたのだった。
「ま、まさかシグルド教官が……」
周囲が騒めく。
(しまった、やり過ぎたかな?)
殺られる前に殺れ――
これもバーバから学んだ事の一つだった。
全力を出さずに敗れて後悔する位なら、初めから全力でやるべきだというバーバの哲学である。
そもそも俺は三年間ひたすらバーバと模擬戦を行ってきた。
常に全力を強いられていたため、体が「手加減」という文字を忘れ去ってしまっていたのである。
「しょ、勝者リュウジ!それまでっ!」
ようやく我に返った審判役の教官が慌てて勝ち名乗りを上げる。
俺は剣を静かに納め一礼し、逃げるようにその場を立ち去ったのだった。
午後からは座学のテストである。
内容はこの国の歴史や基本的な剣術理論について問われるものだった。
おそらくそれ程難しいものではないと思うが、この国で生まれ育っていない俺にはさっぱりわからない。
俺は白紙の解答用紙に自分の名前を丁寧に書き、問題の解答欄に「ありがとうございました」と記入して、静かにペンを納め一礼し、逃げるようにその場を立ち去ったのだった。
「すげぇ、もう終わったのかよ」「天才か、あいつ……?」「要チェックや」
リュウジはざわつく試験会場から風魔法でブーストし、疾風の如く学園を飛び出したのであった。




