5月2日、市営バス・釜白団地行き
『5月2日、市営バス・釜白団地行き』
一台のバスが深薮高校前から離れ、市街に向けて走り出す。バスの正面には、『釜白団地ゆき』と表示されていた。
バスの車内に、八雲と光瑠の姿がある。最後部の座席、ベンチのように横長に繋がっている場所の右半分に、隣り合わせで座っている。
あれから、場所を変えようとの御凪の提案で、川野辺兄妹の自宅に全員で移動することになった。他のメンバーは全員自転車で登校していたので、もともとバス通学の八雲と、徒歩で通学している光瑠の二人だけが、バスで移動することになったわけだ。
「あーもー、なんでバスなのー!みんなで歩いていけばいいじゃん?これだから最近の若者は!」
ぶんぶんと音が鳴りそうな勢いで左右に首を振りながら光瑠が文句を垂れる。どうやら“みんなで仲良く移動”がしたかったらしく、さっきからずっと不満げである。
「さ、さすがに自転車で15分の距離を歩くのは、す、そこそこきついんじゃないかな……」
ぶんぶん。
栗色の髪の、耳の後ろで束ねた房が勢いよく振り回されて風を切る。必然、隣に座る八雲の顔を、繰り返しかすめていく。
「自転車に二人乗りしたらいいじゃん?いいじゃん!」
ぶんぶん。
「き、危険運転はダメだって……」
「ぬあああああ!なるほど確かに!」
ぶんぶん。
光瑠は振り回す。髪がかすめる。かすめる度にシャンプーの香りが鼻をくすぐる。受け答えに動揺が隠せないのは、しょうがない。
(ふっ!ぐふっ!ふあー!ごめんなさい!!)
八雲は決して悪くない。
「頭振り過ぎたぁ……、っつー……」
「だ、大丈夫?」
振り回しすぎて頭痛がしてきたのか、頭を抱えてうめき始めた光瑠。苦笑いを浮かべながらも、心配をする八雲。もしここに香織がいたなら、容赦ないツッコミを入れたのだろう。
キーッというブレーキ音と共に、バスが信号で止まった。
停車時のゆれに合わせて顔を上げた光瑠は、そいえばさ、と前置きして、
「さっき、ごめんね。急に話振られて困った?」
“さっき”とは、おそらく部室での話し合いのことだ。
「あー……、いやまあその、僕も最初から今年の大会には出るべきなんじゃないかなーと、思ってたし」
部室で提起された、大会参加の是非を問う会議。一時は“不参加”でまとまりかけたところに、例のごとく光瑠が声を上げたのだった。
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『あたしらの意見を聞かずに決めちゃうなんてノーサンキューだ!さあヤクモン、大会参加する一発逆転な理由を理路整然にドーンと言ってやりな!』
『ええ!?えっと……』
『お前が言うんじゃないのかよ!……って、まあ確かに、意見聞いてなかったけど』
『もちろんあたしは面白そうだから参加すべきだと思う!』
『はいはい、ひーちゃんはもうわかったから。佐藤君はどう思う?』
『僕はその…………。
――参加すべき、だと思う。僕が意見していいのか、わからないけど』
●
八雲はメンバーの議論が“不参加”に進んでいく中で、内心では“出場すべき”と考えていた。そしてその考えも、無根拠というわけではなかった。
とはいえ、自分はあくまでも仮入部の新顔。そんな立場で迂闊に口出ししてはいけない、と静観していたところを、光瑠に引っ張り出されたのだ。
『来年を見据えて活動するなら、たとえ実力が不足していても今年の大会予選を経験しておくべきだ』という八雲の意見が最終的に賛同を得て、大会参加の方針は決定された。
信号で止まっていたバスが動き出す。
「ほんとに、口出しして良かったのかな?……しかもそれで方針が覆っちゃうし」
あのまま光瑠が自らの意見だけを叫んでも、不参加の決定は揺るがなかっただろう。また、光瑠が引っ張り出さなければ、八雲の意見が場に出ることもなく、会議が終わっていたはずだ。
はたして光瑠にそんな深慮があったのか定かではないが。
「良いに決まってるじゃん?部員としての自覚が足りんぞう!」
「あはは……、そうだね。もう部員、だもんね」
八雲の心は、もうほとんど入部で決まっている。とはいえ手続き上はまだ部員ではない。
すでに入部届は本人の記入を済ませ、あとは保護者の署名捺印の欄を埋めて提出するだけになっている。それは今も、八雲のカバンの中にある。
GW中は提出できないので休みが明けてから、
ここまで思考したところで、八雲は重大な事実に気づいた。
「……まだ部員じゃない」
「え?」
「入部届は、休み明けじゃないと提出できない……!」
「ん、うん……?」
「大、会って……、部員じゃなくても、出れるの……?」
八雲が青ざめた顔でつぶやくと、その顔色が光瑠にも伝染していく。
バスの左折に、二人の上半身は力なく揺らいだ。
お待たせしてすいません(土下座)
これまでのペースを完全に崩す感じで放置してしまいました。ちょっとソシャゲが楽しかったもので……
がんばってペース守りますのでまたきてください。おねがいします!




