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5月6日、三輪河上線・生繁行き快速急行


『5月6日、三輪河上(みわかわかみ)線・生繁(おいしげ)行き快速急行』


 早朝、深藪川を渡る快速急行の車内にABA研究会の面々は顔をそろえていた。

「よっしゃあみんな!持ってきたおやつを食べようぜ!」

「遠足じゃねーんだよ!」

 いつものやりとりを光瑠と香織がしている。それがメンバーの緊張をやわらげるためのものだと八雲にはわかっているが、それでも顔の強ばりはなかなかほぐれない。なぜなら、

「大会当日、こういうのはどうしたって緊張するもんだけどな……それで調子が変わらないのはある意味才能だよ。まあとりあえず、電車内で騒ぐのは止めろ」

「てへぺろ」

 御凪からの注意に、光瑠は舌をちょっと出してごまかしている。

 そう、今日は全国ABA協会主催・ユース全国大会の地方予選が行われる日。つい先週、深藪高校ABA研究会が参加を決定した大会の当日だった。

「えへへ、光瑠ちゃんはしゃーないなー。はいアメちゃん」

「うおおおおおアメだああああ」

 まなびがカバンから取り出した袋アメに光瑠は大喜びで手を伸ばす。

「ひとまず一個ずつやでー」

「はーい」

 一人一個のアメ玉を配っているまなびの脇には、紙袋から顔をのぞかせる細長い包みがある。家庭用のハンディクリーナーに特殊なアタッチメントを取り付けた、このチームの“秘密兵器”だ。

「それで、結局スイスイくん一号は部長が使うことになったんですか?」

 アメ玉を受け取りながら、八雲は御凪にたずねる。

「ああ、昨日の会議段階では蚊の実物に実験することができてなかったが、香織の猫だましもコイツも、きっちり有効であることが確認できた」

 包みの先端をなでるようにして、御凪は満足げにつぶやいた。八雲たちの会話を横で聞いていた香織もそれに付け加える。

「昨日は公園で実験したんだけどさ、結構手応え感じたよ。これなら予選突破もできるかもって。まあ、私が倒したヤツは近くにいる人に潰してもらわないとダメなんだけど、ね」

「はいはいはい!あたしが潰します!そしてかおりんに見せつけます!」

 片頬にアメ玉を含んだまま、光瑠が手を挙げて会話に割り込んでくる。完全に小学生の遠足のノリだった。

「はん、私は別に潰れた死体を見てもなんとも思わないって。触るって考えると鳥肌立つけどさ」

「じゃあなすりつける」

「殺すぞ」

「ふいふぁふぇん(すいません)」


 ガタン、と音を立てて車両が揺れる。

(ダメだ…………)

 いつも通りの光瑠たちの会話に笑っても、いつもみたいに心が晴れることがない。八雲の不安は増すばかりだった。まばたきが頻繁になって、冷や汗がうつむいた頬を伝う。

 八雲は緊張というものに弱い。特に、自分が失敗することで仲の良い人たちが不利益を被る場合の緊張に、非常に弱い。

 緊張に固まったままうまく事を運べたことなど八雲の経験にはなかった。そうして足を引っ張ることでチームを負けさせた経験なら、山のようにあった。

「…………いつも通りに話していても、やっぱり、緊張しちゃいますね」

「お、ヤクモン緊張してんの?わかるわー。このひーちゃんにはわかっちゃうわー」

「絶対わかってないだろうがお前は。緊張とは無縁ガールだろうがお前は」

「あはは……」

 どうしてもぬぐえない不安感を、つい口にしたことで、これまでにないほどの強烈な“後悔”が八雲を襲う。

『僕は……参加するべきだと、思います』

 あんなことを言わなければ、

 自分が口出しすることで参加が決定したこの大会を、自分がヘマをすることで全員の嫌な思い出へと変えてしまうかもしれない。今になって、そんな考えが頭をよぎる。

 何も言わず、何も行動せず、黙ってモゴモゴしていれば、最悪の結末に突き進むことはなかったのではないだろうか。

 さんざんな醜態をさらしたあげく周囲から陰口をたたかれて、「さ、佐藤君のせいじゃないよ……」とか気を遣われて、いたたまれなくなってフェードアウト。

 そんな“最悪”が八雲の脳にこびりついて、離れなかった。

(そんなの辛すぎる…………)

 無機質な揺れが八雲の体を揺らし、八雲の後悔を乗せて快速急行は走り続ける。結局、いくら会話を重ねたところで、その不安が紛れることはなかった。


          ●


「あちゃー、まいったなあ……。なんでカバンの中に入ってんだよー?どんー」

「んなあぉ」

「はあ、しょーがないか。まあ考えようによっては、俺にもやっとなついてくれたってことだしな!あ痛っ!?痛い!」

「に゛ゃあ!」

「わかった、わかったよ……お前には絶対なつかないって意思表示な……でも会場内ではおとなしくしてくれよ?追い出されちゃうし、あの子たち(・・・・・)にもばれちゃうからな?」

「にゃあご」


すみませんでした。遅れました。

六時間ぐらい前に「都合良く腹痛とか吐き気とか、やむを得ない事情が発生しないかな」なんて考えてたのは私です。超元気です。


次回は17日水曜日、23:59迄の更新です。やります、やりますからほんと。

ありがとうございました、またおこしくださいませー。

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