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5月6日、生繁かえりみねスタジアム その1


『5月6日、生繁かえりみねスタジアム その1』


 市の中心部から南へ下り、河口の近づいた深藪川に接する土地。予選大会の会場は、その場所にあった。

 生繁(おいしげ)かえりみねスタジアム。県下最大級の規模を誇り、陸上スポーツなどの競技会場として地元に名を知られた場所だ。

 防虫器具メーカー「返峰(かえりみね)製薬」がネーミングライツを獲得したことでも一時期は話題になった。その縁もあってか、このスタジアムは“協会”が主催するABA競技会の会場となることが多い。


「ほおー、これまたずいぶん立派な会場ですなあ」

 スタジアムの外壁を見上げながら、わざとらしい感心の声を上げる者があった。

 まだ5月も初めだと言うのに、額に汗を浮かべた大柄な男性だった。その手の扇子はせわしなく動いて、でっぷりとした顔に風を送っている。

「恐縮です。注目度も近年は高くなっていまして」

 頬のこけたスーツ姿の男性が、傍らに立ってその声に応えた。彼は余裕を見せるようにメガネの端を指で押し上げている。

 会場の設営が進む午前九時、外周の歩道を歩く彼らは、それぞれ胸に関係者証明の札を下げていた。

「いやいや、そちら様のような大企業(・・・)がスポンサーについているというのは、やはり違いますなあ」

「何をおっしゃいます、ご要望があれば弊社はいつでも(・・・・)、“連盟”にご協力いたしますよ?」

 ピキッという音が聞こえてきそうな青筋が、汗の浮かぶ額に走る。皮肉を言うための薄ら笑いを引っ込めて、大柄な男はあからさまな敵愾心を態度に表した。

「そちらさんは相変わらず無遠慮ですなあ。……一枚噛んだ程度で競技規則に口を出してきたこと、忘れたとでも思ったか」

 “協会”と“連盟”、ABAを巡る二つの競技者団体は相互不干渉……だったのは以前までの話。近年では融和を目指して、互いの主催大会でエキシビションのために招待選手を登場させるのが恒例となっている……のだが、

「おや、私どもにそのような悪意は毛頭ございませんよ。……連盟の方々の“曲芸”にはいつも感心しております」

「あんまりわしらを舐めるなよ……。協会派の豆モヤシ共はせいぜい自慢の“オモチャ”で追いすがってみせるんだな。今日連れて来た特別交流選手は親善なんぞ頭にないぞ?」

 両者の溝が簡単に埋まるはずはなく、まるで刺客の送り合いのようになっているのが現状だった。

「……ホスト側としましては、存分に盛り上げていただけるものと期待させていただきますよ」

「ふんっ、吠え面かかせちゃるわい」


          ●


 最寄り駅から会場へのシャトルバス。多くの参加者、関係者に混ざって、ABA研究会の面々はバスに揺られている。それまで和やかに言葉を交わしていた御凪とまなびも、会場が近づくにつれて口数が少なくなっていた。いまや光瑠だけが変わらぬテンションを維持している。

「すごーい!でかーい!もっと体育館みたいなとこでやるんだと思ってたよ!ねえかおりん見てよほらデカい!」

「わかったからもう!静かにしろよ!」

 他の参加者、つまりライバルたちが同乗するこの車内には独特の緊張感が漂っているのだが、光瑠にとってはどこ吹く風らしい。スタジアムが遠方に見えてからはそのことで騒ぎ通しだった。

「光瑠、静かにしろ。他の参加者もいるんだぞ」

「光瑠ちゃん、アメちゃんあげるから、な?な?」

 まなびから受け取ったアメ玉を二つ、光瑠は一度に口に放り込む。未だにモゴモゴと言っているがこれでしばらくは静かになるだろう。光瑠以外のメンバーはふう、と一息をつく。

 しかし一同のすぐ後列、それまでアイマスクに覆われていた顔が一つ、御凪とまなびの声にピクリと反応した。

 クイッとアイマスクを持ち上げて、その寝ぼけまなこに二人の顔を捉える。口端がゆっくりと持ち上がる。

「あーれー?なんか騒がしいなと思ったら……、みなぎクンにまなびチャンじゃあないかぁ?」

 ねっとりとした声に一同が振り向くと、そこには花柄のアイマスクを持ち上げてニヤニヤと笑顔を浮かべるお団子頭の女が座っていた。


「いやー、まさかねぇー。協会主催の大会で君たちに会うなんて全然思ってなかったよぉ?元気ぃ?」

「……藤田先輩は、お元気そうです、ね」

「私は元気だよお。のびのびやらせてもらってるからね」

 珍しくうろたえたような声で挨拶を返して、御凪はそのお団子頭を“藤田先輩”と呼んだ。八雲にはその名前に心当たりがある。

『藤田優(ゆう)は、お兄ちゃん達を虐げ続けた悪魔なの!』

 これは香織の言葉だったはずだ。ふと隣を見ると、すごい顔で先方をにらんでいる顔があった。八雲は慌てて目をそらす。

 とにかく、このお団子頭は件の“藤田優”という人物で間違いないようだ。前年度まで深藪高校ABA研究会の部長を務めた、香織曰く“悪魔”。

「先輩こそ、こんなところで何を……?」

「内緒……って言いたいところだけどねぇ、まあ、連盟派のプレイヤーが協会主催の大会に顔を出す理由なんて、そうたくさんはないだろう?まして私はもうユース大会に出場する歳じゃないわけだし」 

「……“エキシビション”、ですか」

「えへ、せーかい。まあ普通は高校卒業したばっかの若手にそんなの回ってこないんだけどさ。おかげさまで実力もコネも充実してる……なあ、川野辺(・・・)、みなぎクン?」

 名字の部分を強調して、優は御凪のフルネームを改めて呼ぶ。「川野辺」という名字が、さざ波のように車内に伝わるのがわかった。

どうもお世話になっております。裸地栄太です。

ようやくドラクエも一段落、といった感じでゲームライフを過ごしてます。

明日は艦これ改の発売日、裸地も楽しみです。


さて次回は20日の土曜日、23:59迄の更新になります。

ありがとうございました、またおこしくださいませー。あああ日付変わったごめんなさい。

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