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5月4日、ABA研究会・部室 その1


『5月4日、ABA研究会・部室 その1』


 八雲、御凪、まなびの三人は、部室の扉の隙間から、固唾をのんでそれ(・・)を見守っていた。

「…………………………」

 ABA研究会の部室がある、突き当りの廊下。その壁に大きく「ご」「め」「ん」「な」「さ」「い」の五文字がやけに達筆な筆文字で紙に書かれて張ってある。そしてその前で、真剣な顔の光瑠が正座していた。

 今朝、光瑠は一言もしゃべっていない。黙々と紙を廊下の壁に貼り、黙々と正座をして、そのままだ。八雲たちが何か聞いても、首を振るばかりで何もしゃべる気配がない。仕方なく、三人はそれをただ見守ることにした。

 声を潜めながら、八雲は心配そうに言う。

「ほ、ほんとに大丈夫でしょうか…………?逆に怒らせるんじゃ?」

「まあ、間違いなく怒るだろうな」

「うちは二人の友情と絆を信じてるで。光瑠ちゃんなりの謝りかたなんよ!」

 これまでに数人の部外者が廊下を通りがかり、その度に光瑠は物珍しそうな視線でジロジロと見られている。しかし、彼女が待っているのはただ一人。自分が口にした言葉で傷つけてしまった親友、川野辺香織ただ一人だった。


 そして、光瑠が正座しはじめて数十分が経過したころ。

「まだけーへんなー」

「あー、家では仏頂面で無視されたからな……。来ないかもしれんぞ」

 三年生二人が不安そうな声でつぶやいたその時だった。

「……来ました!」

 長い長い廊下の中ほど、階段を登り切った香織が、ついに姿を現した。

 すうっと、息を吸った、夏野光瑠の本日の第一声が、

「ご め ん な さああああああああい!!!!」

 昨日と同じ廊下に響きわたる。

 同時、すべてを理解したらしい香織は、全力疾走を開始した。


「おごごごご」「ごべんな゛ざい゛」「反ン゛省してます」「これほんとやばぃ」など、かすれ声を無言で聞きながら、右手で光瑠のこめかみを締め上げ、左手で壁の紙をゆっくりとはがす。光瑠が静かになったあたりで、

「…………………………許す」

 ちっとも許しているように聞こえない、殺意のこもった冷たく低い声で一言を口にして、香織は光瑠にかけていたアイアンクローを外す。

 こっそりのぞいていた三人は声をかけることもできずに、息をするのも忘れて、そのエクストリーム仲直りを眺めていた。


 そして、全員が顔をそろえた部室内。八雲も改めて昨日のことを謝罪する。

「僕からも、本当にごめん。許可取らずに道場に押しかけちゃったのは、僕たちが間違ってた」

「ん……、うん、いいよ」

「ヤクモンの謝罪、普通すぎじゃなおごごごごごご」

 完全にいつも通りというわけにはいかないのだろうが、香織と光瑠のコミュニケーションはテンポを取り戻しつつあった。


          ●


「え、何?おじいちゃんの動画にこんなのあったんだ」

「なるほど、“擬死(ぎし)”を利用した対象の無力化、か」

 光瑠がタイミングを見計らって切り出した例の動画。ノートPCの画面を見つめながら、川野辺兄妹はそれぞれ言葉をつぶやいた。

「ぎし?なにそれ」

 御凪の言った聞きなれない言葉が引っかかったのか、光瑠はそれを聞きなおす。

「そうだ、 擬死(ぎし)。危険を感じた生物が自身の運動を抑制することでそれをやり過ごそうとする防衛行動、だな。主に甲虫類で多く見られるが、種を問わず幅広い生物に同様の行動が確認できることで有名だ」

「わからん」

「即答する前に少しは考えろ!まあ、スズメバチは普通、擬死にはならないんだけどな……家のじいさんは何をどうやってか、生身の猫だましで実現してるな……。相変わらず、人間離れしている」

 伝説とまで称される亡き祖父に思うところがあるのか、御凪は少し遠い目で言った。

「あの、一番気がかりなのは、蚊が相手でも同じ現象を引き起こせるか、なんですけど…………」

 どうでしょうかと八雲が聞く。

「それは問題ない」

 その気がかりを、御凪はきっぱりと否定した。

「思いっきり拍手して蚊に衝撃波を浴びせる。これが狙ってできるのなら、高確率で擬死状態に追い込めるだろう。それは間違いない」

 強い拍手の衝撃で引き起こされる蚊の擬死、それ自体はABAプレイヤーの間ではそれなりに知られているものなのだ。ただ、それは積極的に利用する“技”ではなく、むしろ“起こさないように気をつけるべきミス”、という形で。

 擬死状態とは、本当に死んでいるわけではないので、放置すれば再び活動を始めてしまう。それでは得点にはならないし、とどめを刺すために床に落ちた蚊を探す手間も増えてしまう。そんな時間と手間をわざわざかけるぐらいなら、最初から潰した方が確実で早い。

 そう、普通ならば(・・・・・)――――。


 同級生の二人が持ってきたこのアイデアに、香織は思わずはにかんでしまう。きっとこの二人は昨日、一日中自分のために手を尽くしてくれたのだろう。

 めんどくさがりやの愛猫が、いつもよりさらに輪をかけてわざとらしく、部屋で落ち込んでいる自分にかけてきた言葉を思い出す。


『にゃ、にゃあ、きっと光瑠ちゃんも八雲のやつも謝りたいとおもってるだろーにゃあー……にゃ、いや、八雲には会ってない!会ってないにゃ!でもいっぺん行ってみた方がー!いいとおもうにゃー、なんて……』


どうも、おせわになっております。裸地です。

先週末にドラクエビルダーズを買ったのが運の尽きでした……!

ほんと、止め時がわかんなくて、いつまでもプレイしてしまう。沼のようなゲームですあれ。

短くても更新は更新!という言い訳を、次回はしないように気をつけますね。


次回の更新は6日の土曜日、23:59迄に行います。それではまた、おこしくださいませー

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